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 会社にとって「売上拡大」「利益追求」は永遠のテーマだけに「営業をIT化で何とかしたい」という要望は,大手や中堅・中小企業にもかかわらず根強いものがある。このためか,様々なITツールが,その機能に関係なく「CRM」[用語解説] という名称で販売されているケースもあるようだ。

 確かに,“SFAソフト”や“コール・センター ”などで集めた顧客のデータを“データ・ウエアハウス ”に蓄積し,“BIツール”(ビジネス・インテリジェンス)で分析し,“ワン・トゥー・ワン・マーケティング”で対応できれば,顧客満足度は上がるだろう。バックエンドには“ERP ”も必要かもしれない。しかし,これだけのITツールを備えるとなると,大企業ならともかく中堅・中小企業では荷が重い。大量のデータを管理するだけで,さらにシステムのコストがかかる。
 
 ところがデフレの売れない時代でも,大手企業に負けずに確実に業績を上げている中堅・中小企業は存在している。そうした会社を取材すると,いずれも顧客に強く支持されている点が特徴だが,決して大規模な情報システムがあるわけではない。むしろノート・パソコンと通信環境(PHSカードなど)があれば十分。顧客データベースも小規模なものだ。重要なのはシステムの使い方で,そこに今までの常識とは違う逆転の発想がある(詳細は11月29日発売の日経IT21,2003年1月号)。

「売らない営業」で2桁成長,営業は良き相談相手に

 例えば,美容サロン向けにヘアケア商品を販売するミルボン(大阪市)は,なんと「売らない営業」を徹底することで,2桁成長している会社だ。

 ミルボンの直接の取引相手は販売代理店なのだが,商品の実際の使い手は美容サロン。そこで営業部員は美容サロンを訪問し,商品を売る代わりに良き相談相手となるようにした。「売り上げが伸び悩んでいる」「顧客サービスをどうすべきか」など美容サロンが抱える様々な問題を解決することが営業部員の役目なのだ。
 
 しかし問題の解決といっても,そう簡単な話ではない。現実問題として,営業部員が美容サロンの経営者のようにコンサルティングするなんてできない。そのため威力を発揮するのがグループウエアだった。

 ミルボンの営業部員は,好調な美容サロンがあると経営や販促のノウハウを聞きにいって,ノート・パソコンとグループウエアに入力し,営業部員で情報共有しているのである。そして「ある美容サロンでは,こんな販促をしたところ伸びた」「こんな美容技術が顧客に受けている」といった話を,伸び悩んでいる美容サロンに提供することで,信頼関係を深めているのだ。ちなみに多くの場合,好調な美容サロンは,ミルボンが他の美容サロンに情報を提供していることを承知の上で,喜んで経験談を語ってくれるのだという。

 一般にSFAなどの営業支援システムでは,営業部員の活動やスケジュール,商談の進捗を細かく管理することが主体になっている。毎日の入力が負担になり,あまり効果を生まない例もある。しかしミルボンでは営業活動を管理せず,ノルマもないという。営業活動の管理ではなく「売らない営業」(美容サロンの支援)という営業方針に即したIT活用になっている。グループウエアで集めた美容サロンの悩みやニーズは,新製品開発のネタにもなっており,多くのヒット商品を生み出しているという。

余計な顧客データは捨ててしまおう

 3万件の顧客データを1万3000件に絞り込んだのが,東京都町田市の郊外にある松下電器産業の系列店,ヤマグチである。顧客データは会社における貴重な財産だけに,「顧客データを捨てる」なんて発想は,普通はないはずだ。

 しかし町田市の駅前は大手の家電量販店もひしめく激戦区。生き残るには大手との競争を避け,地域に住む顧客から大きな信頼を得るしかない。それには徹底したサービスが必要と考えたが,13人の営業部員だけではすべての顧客に対応できない。そこで優良顧客だけを残し,手厚くサービスできるようにしたのである。

 例えば,営業部員は訪問すると以前に購入した商品の具合を聞いたり,状況に応じて新しい商品を紹介したりするのは当たり前。もちろん商品の販売だけではなく,操作方法なども熱心に教えるし,エアコンが壊れた顧客には扇風機を無料で貸した営業部員もいた。修理依頼があれば,すぐに駆けつけるし,顧客が手紙や宅配便を出そうとすると代わって引き受けたり,蛍光灯の取り替えや器具の清掃などを請け負う場合もあった。

 営業部員はどうしたら顧客が喜ぶかをいつも考え,みんなで知恵を出し合っているという。ヤマグチの顧客の平均年齢は約60歳とシルバー世代が多い。営業部員の簡単な手伝いや心配りでもうれしくなる。こうした営業体制に切り替えた結果,以前は25%だった粗利率が今では33%にまで向上した。

本当のCRMは会社によって異なる

 営業支援の本質が顧客満足度の向上にあるならば,「我が社にとっての顧客満足度とは何か」を真剣に考えるべきだろう。考えるのはタダだから,中堅・中小企業でも大企業に負けずに勝負できるはずだ。

 当然,業種や業態,地域特性など顧客が異なれば顧客満足度の中身も変わるから,ミルボンやヤマグチのように,顧客満足度の向上には何が必要なのか,を起点に考えれば自社で必要な営業支援システムの姿も見えてくる。それは必ずしも同じ姿とは限らないし,大規模なシステムにならない場合も多いだろう。中堅・中小企業でも大手に劣らない本当の“CRM”を導入できるはずだ。

(大山 繁樹=日経IT21副編集長)