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 昨年後半から,オープンソース・ソフトを利用した,国や自治体による公共情報システム構築の機運が高まりつつある。例えば,政府によるオープンソース・ソフト導入の検討開始(関連記事)や,オープンソーステクノロジーアライアンス(OSTA)の設立(関連記事)といった動きだ。

 OSTAに関しては,年末(2002年12月27日)に設立が発表されたこともあり,まだご存じない方が多いだろう。OSTAを一言で紹介すると,「公共施設や大手企業でのオープンソース・ソフトの業務利用を促進するために設立された企業連合」。サン・マイクロシステムズなどのコンピュータ・ベンダー,SRAや東洋ビジネスエンジニアリングなどのシステム・インテグレータ,運用管理ソフトを販売するホライズン・デジタル・エンタープライズ,Linuxを中心とした認定試験を実施するLPIジャパンなど40ほどの企業や団体が参加する見込みである。

 このOSTAの設立に尽力したのが,リナックスカフェ社長の平川 克美氏である。著者は,昨年2度に渡って平川氏から,オープンソース・ソフトによるシステム開発を拒む障壁について示唆を受けた。同時に,電子政府などの実現を目指すe-japan構想に関する取材を通じて,ちょっと大げさな言い方をすると,オープンソース・ソフトの導入を阻害する本当の障壁が見えてきた気がする。

オープンソース・ソフトのメリットとデメリット

 オープンソース・ソフトによるシステム開発の障壁について平川氏から1回目の示唆を受けたのは,2002年8月のことだった。「Linuxを中心としたオープンソース活用によるビジネス戦略」をテーマにしたとあるセミナーで平川氏とご一緒したときである。

 このときに印象に残ったのは,パネル・ディスカッションの場における「これまでメリットばかりが強調されてきたオープンソース・ソフトの特性が,(情報システムでの採用に関して)デメリットになり得る」という平川氏の発言だった。

 このときにはパネル・ディスカッションの話の流れで,具体的なデメリットについて平川氏の意見を聞くことはできなかったが,オープンソース・ソフトを既に導入したユーザー企業の意見などを参考に著者なりに解釈すると,これまでオープンソース・ソフトのメリットとして取り上げられることの多かったいくつかの特性が,導入・運用時のデメリットにもなり得るということだろう。

 代表的なものを挙げてみると,

●ソース・コードの公開,改変,再配布の自由
メリット:ソースを改変して機能変更が行える
デメリット:ライセンスに対する十分な注意が必要になる

●不具合修正や機能強化のためのパッチ・プログラムの迅速な提供
メリット:頻繁に提供されるため,セキュリティ・ホールなどにすばやく対処できる
デメリット:パッチを頻繁に導入するための運用コストがかかる

●オープンソース・ソフトに関するさまざまな情報が一般公開されている
メリット:インターネットなどを通じて有用な情報を入手できる
デメリット:情報が一元管理されておらず,必要な情報の選別,入手が困難な場合もある

 などである。

 こうしたオープンソース・ソフトの特性に加えて,製品技術面(大規模システムへの対応や高可用性の実現,アプリケーション・ソフトの充実など)や人材面(オープンソース・ソフトを扱える技術者や営業担当者,教育者の育成)の未整備により,公共団体や企業でのオープンソース・ソフトの本格活用はまだこれからであり,当面は既に十分な実績があるインターネット関連のサーバー(Webサーバーやメール・サーバー,DNSサーバー,ファイル・サーバー)での利用が主体になるというのが,その時点での著者の考えだった。

 そして,多少時間はかかるかもしれないが,オープンソース・ソフトを扱うベンダーの体制強化などによって,ユーザー企業自身がこうしたデメリットを直接被らなくて済むようになると期待していた。

特性以前の本質的な課題は,システム調達の仕組みそのもの

 この考えは今も変わらないが,OSTAの設立に関して平川氏に昨年末に取材したときに,本当の障壁はもっと根深いところにあると“再確認した”。公共施設や大手企業でのオープンソース・ソフトの業務利用の推進,つまりOSTAの目的を果たすために一番の障壁になっているのは,「官公庁や自治体,場合によっては大手企業などにおける,システム調達の仕組みそのもの」と平川氏に言われたからだ。

 “再確認した”と記したのは,e-japan構想でのオープンソース・ソフトの利用について昨年秋ごろに取材を行っていた時にも同様のことを聞いたためである。取材時には,官公庁や自治体の情報システムでは,「システム策定時の導入担当者のスキルや,売上などによりランク付けされる入札参加資格審査制度などにより,オープンソース・ソフトが実際に採用されるのはかなり難しい」「古くからあるメインフレーム・ベースのシステムが高コストで維持され続けており,それを低コストで実現できるシステムにリプレースするという考え自体があまりない」という意見を聞いた。

 オープンソース・ソフトで実現できるシステムの機能・性能が検討課題になる以前に,採用候補にすらなりにくいわけだ。そのため,導入担当者がLinuxを含むUNIX系OSに詳しく,入札条件にオープンソース・ソフトの利用を指定するなどの限られた場合にしか,オープンソース・ソフトが採用されないのでは,と取材時に感じた。

 また,逆に,今後オープンソース・ソフトを導入すること自体がブームになる,あるいは目的化してしまうことで,先に述べたオープンソース・ソフトの特性や実現可能な機能・性能があまり考慮されずに使われるようになっても問題になるだろう。

 平川氏の言葉を借りれば,「オープンソース・ソフトがどうこうというよりも,公共事業などでの業務システム構築のプロセスそのもののオープン化が先決」であり,その上でオープンソース・ソフトに向いたシステムを見極めることが大切である。特に前者は根深く,かつ非常に大きな課題ではあるが,冒頭で述べた,オープンソース・ソフトを利用した国や自治体の公共情報システム構築に関する機運の高まりと並行してこの問題がより一層顕在化し,改善に向けてよい方向に進むことを切に期待する。

(田島 篤=日経Linux副編集長)