地上波放送とデジタルBS放送における「マスメディア集中排除原則」(関連記事)の緩和策を検討している総務省の「放送政策研究会」(座長:塩野宏・東亜大学通信制大学院教授)は,地上波放送業界に「持ち株会社制度」を導入することを決めた。今週に公表する研究会の最終報告書に,同制度の導入を認める内容を盛り込むことが確実になった。

デジタル化を乗り切れない地方局を規制緩和で救済

 デジタル地上波放送は2003年12月1日に,三大広域圏(関東・中京・近畿)の一部の地域で始まる予定である。2006年末までにデジタル放送を開始する三大広域圏以外の地方局は,2004年から順次,送信設備などのデジタル化投資を始める見通しだ。

 J.P.モルガン証券株式調査部の中湖康太・シニアアナリストの試算によると,三大広域圏以外の地方局の投資額は,平均で1局当たり約35億円になるという。これらの地方局の売上高は1局当たりの平均で約70億円,経常利益は同じく約6億円である。つまり,約6年分の経常利益に相当する投資負担がのしかかるため,単独でデジタル化を乗り切れない局が出てくる可能性が高い。

 そこで総務省は,こうした地方局を救済するために,現行の集中排除原則を緩和することにした。具体的には,地上波放送事業者への出資比率の上限を「放送エリアが重なる場合は10%以下,異なる場合は20%未満」に制限している現行の規制を,「同じ地域ブロックに属し放送エリアが隣接する地上波放送事業者2社に限り,合併や完全子会社化を認める」というところまで緩和することになった。

新制度の導入でキー局と地方局の関係が変わる

 ところが全国の地方局には,地元の有力企業や自治体などが出資しているところが多い。こうした地方局の場合,デジタル化の投資負担を軽くするために合併などを行おうとしても,株主の反対などによって難航し,経営破綻(はたん)という最悪の事態になるまで動かない可能性がある。

 これに対して,持ち株会社の傘下に合併などの対象になる地方局を組み込む持ち株会社制度であれば,地方局の経営の独自性を確保しながら投資を効率化できるため,合併などよりも実現しやすいメリットがある。こうした理由から総務省は地上波放送に,持ち株会社制度を導入することを決めた。

 総務省の動きを受けて地上波放送業界では早くも,持ち株会社制度を活用した業界再編のシナリオを描く事業者が出てきた。デジタル時代を生き抜くための新たなビジネス・モデルを構築しようという動きである。その一例は「民放キー局が持ち株会社となり,合併などの対象となる系列の地方局がその傘下に入る」というものだ。

 具体的には,傘下に入る系列局は民放キー局の直営局となり,民放キー局との関係を現状以上に強める。自力でデジタル化に対応できる系列局に対しては,逆に民放キー局の影響力を弱め,独自の事業展開を行うことを認める。これにより,現在の民放キー局と系列局の画一的な関係を,米国流の「ネットワーク局とその直営局,および独立地方局」という関係に近い姿に変えることができる。

実効性を高めるには一層の規制緩和が必要

 ただし総務省は現時点で,「持ち株会社制度を地上波放送に導入する場合には,同じ地域ブロックに属し放送エリアが隣接する2社に限り,合併や完全子会社化と同程度の効果にとどめる」という見解である。民放キー局が持ち株会社になり,その傘下に系列局を自由に組み込むことを認めるかどうかは不透明だ。

 また現行の集中排除原則によると,民放キー局が系列局に出資できる上限は20%未満である。総務省はこの出資比率についても現時点で,「現状維持あるいは小幅な緩和にとどめるべき」としている。民放キー局が持ち株会社になれたとしても,傘下に組み込む系列局に対する出資比率の上限を大きく引き上げないと,新制度を導入するメリットは薄れてしまう。

 地上波放送事業者にとって,デジタル化は国策によってやむを得ず行うものかもしれない。しかしデジタル化を,「放送免許に守られた“護送船団”体質から脱却し,新たに飛躍するチャンス」と考える事業者が増えてきているのは確かだ。「持ち株会社制度を活用して新たなビジネス・モデルを作ろう」という動きも,その一例である。持ち株会社制度の実効性を高めるために総務省は,もう一歩踏み込んだ規制緩和を行う必要がある。

(高田 隆=日経ニューメディア編集長)