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 「こちらに良いものと悪いものを見極める力がなければ,(レストランなどに)納入される食材は徐々に質が悪くて安いものにすり替わっていく。インテグレータやベンダーのSEも同じ。システム構築が終盤になってから気付いても,もう遅い」――。ファスト・フード店やファミリー・レストランなどを展開するフランチャイジの情報システム部門で活躍されていた方と,このような話をしたのは4年ほど前のことである。

 昨年末から今年にかけ,この「従来から付き合いのあるベンダーから来るSEの質が落ちてきた」という話を,立て続けに聞いた。日経コンピュータ2月10日号の特集『ベンダーとの関係を見直せ』のための取材に回っていたからなのだが,多くのユーザー企業で同じような話題が出た。

 ベンダーのSEが一様に質を落としてきた,と見ることもできる。しかし,各ユーザー企業が感じているのはそうではない。意図的に一線級から二線級に代えられた,というのだ。

「ベンダーもビジネスだから仕方ない部分はある」

 例えば東京証券取引所の丸山顕義 経営企画部課長は,「昔と今とでは技術も環境も違うので一概に比較できないが」と前置きした上で,「独自に調査した結果,(これまでずっと付き合ってきた)ベンダーから東証に送りこまれる人材は,以前に比べると質が落ちているようだ」と打ち明けてくれた。

 取材を始めたころは,「結局は昔も今も,ユーザー側がしっかりしていなければベンダーにいいようにやられてしまうということか」,と思った。ただ,4年前に似たようなテーマで回ったときと今回との違いが,一つあった。「ベンダーもビジネスだから仕方ない部分はある」と付け加えるユーザー企業側が多かったことである。

 東証の丸山課長も,「東証のシステム構築額は数十億円程度。今やそれ以上の投資はざらにある。カネ払いのよい顧客に優秀な人材を投入するのは,ベンダーとしては当然のこと」と言う。今回の取材では,「ベンダーの規模に関係なく,優秀な人材は限られている。不況が続くなかでベンダーがユーザー企業を選別することは,ある意味で仕方がない。それを責めるよりも,選別の結果『上客』になることを考えよう」という,前向きな姿勢を強く感じたのである。

ベンダーに緊張感を維持させるとともに,魅力的な顧客であり続ける

 では,具体的にどうすればよいのだろうか。前述の特集からいくつかの事例やコメントを紹介したい。

 アウトソーシングを進めるニッセンへの取材で興味深かったのは,新しい技術に関しては「プロトタイプを作って一緒に勉強しよう」とベンダーに積極的に声をかけていることである。ベンダーは,技術は自社で検証できるがビジネス・シナリオを持っていないため,『ニッセンに行くといいことありそうだ』と自腹を切ってでも(勉強会に)来る人がたくさんいる。また,あの会社は進んでいるね,と見られるようになると,結果として優秀な人を割り当ててくれるようになる」(通販事業部 情報システム部の市場信行取締役部長)という。

 東京証券取引所は,「東証システム開発プロセス標準ガイドライン(システム開発標準)」を作り,東証側とベンダー側がそれぞれどのような手順で何をするかを明らかにしようとしている。自社にとってのITの位置付けや個々のシステムの関係,今後の計画などを記した「東証ITマスタープラン」も作成し,社内の関係者だけでなく,ベンダーにも開示する。

 「ユーザー企業としてやるべきことを確実に実施できる体制を構築し,属人性も排除すれば,ベンダーとの緊張感を保つことができる。その結果,ベンダーからみた東証の位置付けも変わってくる」(丸山課長)と考えているからだ。

 日産フィナンシャルサービスの上浦原執行役員には「ベンダーからみて『松竹梅』の『松』ランクの顧客になるように,場合によってはベンダーの規模を大手から中堅に代えることも一つの手だ」というお話をうかがった。もちろん上浦執行役員は,「大規模なプロジェクトでは組織力が重要なケースもある」ことを踏まえてのことだが,考え方としては面白い。

決定打はないが,「現場の生の声」にはヒントがあるはず

 正直に言って,「ベンダーとの関係」の記事は難しい。「SEの評価」や「システムのコスト」,「システム効果の測り方」などと同じように,「不変的な問題」というか「永遠のテーマ」のようなものだからだ。どのように考えるべきかの“答え”は大まかには分かっており,時代が変わっても“答え”は大きくは変わらない。しかし,それを実現するための具体的な解決策となると,決定打が見当たらない。「銀の弾はない」というやつだ。

 今回も決定打は見つからなかった。だが,痛みを伴いながらも最適解を試行錯誤するユーザー企業の姿は,筆者自身にとって大変参考になった。おそらく読者の皆さんも,普遍的な解があるとお考えではないだろう。私たちは決定打を提示することはできないが,私たちがお伝えする“現場の生の声”が皆さんがベンダーとの関係を見直す上で,何かのヒントにならないだろうか,と思っている。

(小原 忍=日経コンピュータ)