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 筆者が企業情報システムの取材を始めたのは,汎用機/オフコン全盛の時代に変化が表れた93年ごろだった。新しいトレンドは,“オープンシステム”と呼ばれた。あれから10年が経ち,今,改めてオープン化とは何だったのか,と考えている。

 IT業界やメディアは,とかく「汎用機 vs. オープンシステム」のような二項対立の構図を作りたがるものだ。だが,それは違う。“オープンシステム”は,“汎用機そのもの”を否定したわけではない。“汎用機しかない”ことを否定したのだ。エンジニアや情報システムのユーザーは,特定の製品・技術に縛られず,もっと自由であるべきだ,というのがオープンシステムのメッセージだった。

 汎用機で稼働していたシステムをより安く実現する“ダウンサイジング”が喧伝されたが,それは本質ではなかった。パソコンやUNIX,インターネットなどの製品・技術が発展し,汎用機全盛の時代には考えられなかった新しい企業情報システムが次々に生み出された。これがオープンシステムの一つの意義だったと思う。

 だがもう一つ,大事だと思うことがある。以前,このコラムに「よいSEにはよい報酬を,“人月いくら”はもうやめよう」という記事を寄せた。その中で,「同じ製品や基盤技術を使えば誰にでも同じ価値のあるシステムができるわけではない。結局,システムの価値を左右するのは,(利用する製品・技術ではなく)システム構築に参画する人の力なのだと思う」と書いた。その気持ちはこの10年,変わっていない。

 例えば,同じ言語や開発ツールを使っても,開発者によって生産性は大きく違うし,出来上がったアプリケーションの使いやすさが大きく違う。セキュリティについても同じだ。全く同じソフトウエアや開発ツールを使っていても,セキュアなシステムを構築・運用できるエンジニアもいれば,そうでないエンジニアもいる。

 製品や基盤技術よりも人――。それを改めて多くのエンジニアや企業情報システムのユーザーが認識できるようになったのが,オープンシステムの本当の意義だったと思う。

そして歴史は繰り返す

 だがこの10年を振り返って「本当にオープンシステムの理想を実現できてきたのか」と疑問に思う方も多いのではないだろうか。「結局はソフトウエア・ベンダーに囲い込まれて,バージョン・アップに翻弄されることになってしまっただけではないか」「ベンダーのソフトを持って来て組み合わせ,アプリケーションを作るだけでは,本当にユーザーに必要なシステムは作れない」というように。最近の取材では,こんな声も聞いた。「ソフトウエア・ベンダーとの“パイプが太い”ことの方が,エンジニアの本来の能力よりも評価されている」

 確かに最近のOS,開発環境,ミドルウエア,業務パッケージなどの商用ソフトはよくできている。だから,コンピュータやネットワークに関する深い知識がなくても,商用ソフトの使い方さえ覚えれば,通り一遍のアプリケーションは作れるようになった。もちろん,今でも本当のプロフェッショナルは存在するが,一方で,過去の基準ではプロとは呼べないような人たちもSEやプログラマと名乗るようになった。そんな状況を見たあるエンジニア志望の学生は,「エンジニアがリスペクト(尊敬)されない状況は残念」と言う

 特定の製品に縛られ,ソフトをブラックボックスとして利用するだけのシステム構築のやり方は,オープンシステム登場以前とあまり変わっていない。ある種の閉塞感を感じているエンジニアの方も多いのではないだろうか。技術以前の問題もある。エンジニアの価値は今でもまだ,“人月いくら”で測られることが多い。本来は,個々のエンジニアの持つアイデアや技術力が,システムの価値を大きく左右するにもかかわらず・・・

あなたにとってオープンソースとは?

 そんな今,私たちは再び“オープン”という言葉と向き合うようになっている。“オープンシステム”ではなく,“オープンソース[用語解説] ”という複合語として。オープンソースの台頭――。皆さんは今,この流れをどのように受け止めておられるだろうか。

 もし,あなたがソフト技術者で,ソフト技術を究めること自体に生きがいを感じておられるならば,オープンソースの理念に共感し,すでにその世界に足を踏み入れているかもしれない。一方,一般企業で情報システムの構築・運用・利用をされている方(広い意味でのユーザー)にとっては,利用するソフトがオープンソースであるかどうかは本質的な問題ではないだろう。自社の目的を最高のコスト・パフォーマンスで達成できるのであれば,利用するソフトがオープンソースであるか商用ソフトであるかは関係ないはずだ。

 もし,あなたがソフト技術者とユーザーの間に立つエンジニア(企業システムの構築に携わるエンジニア)であったらどうだろうか。筆者自身は,ユーザーやエンジニアではないのだが,そういう人たちを応援する立場として,オープンソースにはとても期待している。

 この数カ月,日経システム構築第一号()の特集「燃えよエンジニア――オープンソースが開発スタイルを変える」の取材で,オープンソースに取り組む数多くのエンジニアの話を聞いてきた。取材を通じて印象的だったのは,こうしたエンジニアの方々が,一様に「モノ作りの喜び」を感じながら生き生きと仕事にあたっている姿だった。

 しかし,よいモノを作りたいという「エンジニア魂」も,最終的にユーザーにとって価値があるモノを生み出せなければ,単なるエンジニア自身の自己満足で終わってしまう。では,何がユーザーにとっての価値になるのだろうか。いろいろな可能性が考えられる。前述の特集記事でも,その可能性にチャレンジし,成果を上げつつあるエンジニアの方々に焦点を当ててみた。

 比較的分かりやすいのは,システムのトータル・コストである。また,ベンダーのバージョン・アップ戦略から自由になれる,ということもユーザーが期待することだろう。商用ソフトの組み合わせだけでは実現できない,新しい機能を実現できるかもしれない。ユーザー企業で作った業務システムそのものをオープンソース化する,という戦略をユーザーに提示することも考えられる。これによって,世の中の多くの開発者に,そのシステムをもっとよいものに育ててもらうことを期待できる。

 だが,ここで忘れてはならないことがある。どの可能性においても,オープンソースという考え方を導入しさえすれば成功する,という安直なものではないことだ。ユーザーにこうした価値をもたらせるかどうかは,システム構築に携わるあなたのエンジニアとしての力にかかっている。

 エンジニアの「モノ作りの喜び」を,ぜひ「ユーザーの満足」につなげていただきたい。そして,「ユーザーの信頼と正当な対価」を勝ち取っていただくことを願いたい。オープンソースは,そのチャンスをエンジニアに示すトレンドだととらえている。

(森側 真一=日経システム構築副編集長)

注:「日経システム構築」は,第一号を2003年3月26日に発行しました。なお,同誌は「日経オープンシステム」が創刊10周年を機に誌名変更し,誌面を大幅に強化したものです。