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 NTTが,いよいよ“光”へ重心を移し始めた。
 
 同社は4月23日,2003~2005年度のグループ3カ年経営計画を発表した(関連記事)。その席で和田紀夫社長は,「RENA」という新たな光ベースのネットワーク基盤について言及した。つい“RENAちゃん”と呼びたくなってしまうようなかわいい名前だが,実際はResonant Communication Network Architectureの頭文字を取ったもので,「人や企業,物が共鳴(レゾナント)して有機的に結びついて生まれる新しいコミュニケーションの形態」というお堅い意味だそうだ。2002年11月に発表した将来構想「“光”新世代ビジョン」の中核を成すネットワークである。

 現在は,ブロードバンド推進室という部署が中心となって仕様の検討を進めている。投資総額は5000億円と,NTTにしては少額に思えるが,ダーク・ファイバ[用語解説]などを活用して投資額を抑えるのだそうだ。既存の地域IP網と置き換えるのではなく,光ルーターなどの大容量に対応した機器を使った,テラバイト級のネットワークを新たに構築することになる。

 まずは大都市圏からビジネス向けのサービスを展開し,状況に応じて順次エリアを拡大していく。2007年度には,FTTH(fiber to the home)など回線サービスやプラットフォーム・サービスを含めて,合計1兆円を稼ぎ出す計画だ。

 この網を利用した新サービスにも,いくつか言及している。例えば,大画面のライブ配信サービス。これまでにない高品質の映像や演奏を,リアルタイムで配信するものだ。だが何と言っても目玉は,RENAを通じて提供する「光IP電話」だろう。

 IP電話サービスには,既に複数のグループ会社が参入しているが,「ADSL(asymmetric digitalsubscriber line)サービスのおまけ」だった。しかし2005年に開始するこのIP電話は,「本気のIP電話サービス」だという。エンド・ツー・エンドで帯域とサービスの質を保証する(まだまだ他にもあるが,詳細は日経コミュニケーション5月12日号の「リポート」,5月26日号の「ここが知りたい」を見ていただきたい)。

疑問点は「何に使ったらいいのか」「コンテンツをだれが提供するのか」

 なかなか魅力的に見えるRENAちゃんなのだが,よく分からない点も多い。まず何に使ったらいいか。私は家ではADSLでIP電話を利用しているが,おまけレベルの品質でも特に問題は感じない。テレビ電話があれば,田舎の両親にうちの子供の顔を見せられていいなあ,とも思う。でも,新幹線に乗ればドア・ツー・ドアで3時間かからずに着いてしまうから,互いに訪問しあった方がいいかも知れない。それより何より,両親に「光IP電話」なるものをどうやって理解させたらいいのか・・・。

 コンテンツはそのうちできるのかもしれないが,例えば衛星放送で見られる番組を,わざわざ光ファイバ経由(しかもIP)で見る必然性があるのか。ネットだけで独占中継しようにも,観客が少なければ元が取れないから,積極的に取り組もうと考えるコンテンツ提供者は少ないだろうし。しかも,料金は現行のFTTHよりも最低でも数百円高くなるらしい。私は払ってもいいと思うが,妻は何と言うだろう。

 次に,だれが提供するのか分からない。一度,「NTTがRENAを使ったサービスを提供する別会社を作る」旨の報道があったが,和田社長は「そうしろと指示したことはない」と否定していた。実際にどうだったかはともかく,グループ各社が新会社設立案に良い顔をしないことは容易に想像が付く。

 なぜなら音声系の収入は,これからも落ち続けることはほぼ確実だ。そんな状況下で“金の卵”のブロードバンド系を切り離されたら,たまったものではない。残された方が干からびてしまうことは,火を見るよりも明らかだからだ。ちなみにNTTは,加入電話や専用線など既存のサービスは,2005年度には現在より1兆円の減収になると試算している。

 しかしどこか一社が提供する体制を取った方が,マーケティングや一般消費者への販売面でも,技術開発やサポート面でも,あるいはコンテンツ提供者との商談の上でも,ベターに決まっている。この辺はどうするのだろうか。

資金をどうやって捻出するか,も課題

 最後にもう一つ。お金の問題である。NTTは,費用削減とIP事業でRENAをはじめとする事業への資金をひねり出すとしている。費用削減については,設備償却や物件費・人件費などをこれまで以上に抑えるなど,労務畑出身の和田社長にはお手のものかもしれない。しかしIP事業については,かなり高いハードルを設定している。IP事業で3年後に8000億円の増収を見込んでいるが,このうち5000億円はフレッツ・シリーズでの増収分となる。2002年度の収入は1000億円なので,3年で6倍の6000億円にすることになる。

 これだけでも“超強気”なのだが,中身をよく見ると,3年間でADSLが400万加入,FTTHが500万加入増えることを前提にしている。中でもFTTHの加入予測数は,光ファイバの心線のコスト計算に使う需要予測(2006年3月時点で324万)よりも,はるかに強気である。果たして本当に,こんなことができるのか?少なくともあのソフトバンク・グループを凌駕するような,販売促進策が必要になるだろう。

 ちなみに当誌の記者が米国に出張した際,「日本では電車に乗るとADSLモデムがタダでもらえるんだって?」と真顔で聞かれたそうである。ソフトバンクが主に駅周辺で実施している販促キャンペーンの内容が,ちょっと曲がって海の向こうまで伝わったらしい。NTTがこれ以上にインパクトがあり,しかも成果を得られるような策を打ち出せるのか。興味津々である。

 和田社長は会見の席で,「地ならしのための時間が今しばらく必要」と繰り返した。また「現行の枠組みではやりたくない,という気持ちもある」と,暗にNTT再々編を希望するかのような発言もあった。果たしてRENAちゃんの,“親”は誰になるのか。どんな特技を見せてくれるのか。できれば,優しくて働き者でお金がかからない,というのがいいですね。
 
(本間 康裕=日経コミュニケーション副編集長)