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 孫子の兵法に「知彼知己 百戦不殆」という言葉がある。「彼を知り,己を知れば,百戦してあやうからず」。敵や戦場の状況を知り,自軍の状況を知れば,どれだけ戦をしても負けることはない,という意味だ。これは戦だけでなく,ビジネスにも当てはまる真理である。

 当然,ITエンジニアが仕事をする際にも同じことが言える。自分はどんなタイプのエンジニアなのか。専門職を極めたいのか,管理職を指向しているのか。得意な分野は何か。強みと弱みは何なのか。“自分を理解する”ことは,スキル・アップ,キャリア・アップを図る上で,極めて重要だろう。

 しかし情報処理技術者試験やベンダー試験などの認定試験では,合否しか分からない。そこで日経ITプロフェッショナルは昨年,Web上でITエンジニアの「スキル診断&調査」を実施した。現在もITSS(ITスキル標準,関連記事)に準拠した第2回を実施中だ(6月30日まで)。その中間結果をまとめたので,一部を紹介しよう。

8割のITエンジニアはレベル3以下

 まずは回答者の紹介から。現時点での回答者数は約3000人。年令は10代から60代まで幅広いが,20代後半と30代のITエンジニアが約7割を占める。職種で見ると「プロジェクト・マネジャー」(25.4%),顧客の業務を分析し,業務アプリケーションを設計・開発する「アプリケーションスペシャリスト」(21.0%),データベースやネットワークなど個別技術の専門家である「ITスペシャリスト」(14.3%),パッケージ・ソフトウエアの開発に携わる「ソフトウエアデベロップメント」(10.1%)といった感じだ(図1)。

図1

 ITスキル標準では,ITエンジニアのスキルを7段階に分けている。レベル1,2が上位レベルの指導のもとで課題の発見や解決を行えるという「エントリレベル」。レベル3,4はスキルを駆使して課題の発見や解決をリードできる「ミドルレベル」。そしてレベル5以上は「ハイレベル」。自分の職種や専門分野に関して,社内で技術や方法論,ビジネスをリードできる人材だ。回答者はこのうち,どのレベルに分布しているのだろうか。

 調査結果によると,最も多かったのはレベル2だった。約31.6%の人が相当している。次はレベル3(30.9%),レベル1(20.5%),レベル4(12.9%)と続く。レベル5も3.2%いたが,レベル6になると0.9%,レベル7はいなかった(図2)。つまり回答者の約8割はレベル1~3にとどまっており,まだ専門分野が確立していない,もしくは確立しつつあるという状況である。

図2

 20代後半から30代までの若手エンジニアが回答者の中心とはいえ,こうした調査に回答してくれる人は,スキル・アップに対して意欲のある方のはず。日本の全ITエンジニアの平均を算出したら,よりレベルは下がるだろう。

 一方,レベルと年収との関係を調べたのが図3である。レベルが上がるにつれて,年収も上がるという結果がはっきりと出ている。リーダーシップ,コミュニケーション,ネゴシエーション能力といったITSSが定義しているビジネス・スキルを見ても,年収とスキル・レベルがほぼ比例するという結果が出た(図4)。

図3

図4

 余談になるが,ITSSのベータ版では年収とスキル・レベルの関係を,レベル2=400~500万円,レベル3=500万円~600万円,レベル4=700~800万円,レベル5=1000万円と想定していた(正式発表版では削除)。ところが調査結果では,ITSSレベル4以上だと年収は900~1000万円以上となった。ITSSを基準にすると,レベル3より上の人は「ちょっともらいすぎ」なのかもしれない。

外の世界を知ることが一流への道

 ITエンジニアにとって,この調査に参加していただくことには意義があると,筆者は思っている。ITSSに沿って自分のスキル・レベルが分かるので,今後,どんなスキルを重点的に高めればいいのか,方針を立てられるからだ。特に強調しておきたいのが,全国のITエンジニアと比べた場合の自分のレベルが把握できる点である。

 ITエンジニアが自分の部署や会社だけにとどまらない外の世界に触れ,現在置かれているポジションを確認することは重要だ。ベリングポイントの奥井規晶代表取締役は,「外の世界を知らないと,どんなビジネス・パーソンも一流にはなれない」と言う。特にITの世界は技術の移り変わりが激しいだけに,自分の市場価値を常に意識しておく必要がある。

 ITSSの質向上につなげられることも意義があるだろう。この調査の質問票は,ITSSのスキル定義に沿って作成した。しかし一部の調査回答者からは,「職種が選択しにくい」「設問(スキル定義)の意図が読みとりにくい」といった声をいただいている。こうした意見を経済産業省にフィードバックすることで,ITSSをよりよいものにできると思っている。そうなれば,職種の確立,評価の透明性といった面で効果があると考える。

 いずれにせよ,まずはスキル診断で自らの実力を知り,今後のスキル・アップ,キャリア・アップの第一歩として活用していただければ幸いである。最終的な調査結果は,日経ITプロフェッショナル9月号,およびIT Proにも一部を掲載する予定だ。

(鶴岡 弘之=日経ITプロフェッショナル副編集長)

■「ITスキル標準(ITSS)準拠 第2回スキル調査」には,こちらのページからご参加いただけます。