PR

 5月にNTT東西地域会社の規制緩和を推進する決議案(注1)が参議院で採択された。決議の中で最も注目を集めたのは,「光ファイバに関する指定電気通信設備規制(注2)の在り方について検討を行う」とした項目。東西NTTと東西NTTから光ファイバを借りる通信事業者の対立が,国会の場に表立って取り上げられたものである(関連記事1関連記事2)。

注1:参議院総務委員会が決議した改正電気通信事業法案・同NTT法案の附帯決議のこと。両法案の本筋から離れて,NTTグループに対する規制緩和を要求する内容となっている。
注2:独占性の高い通信設備に厳しい規制を課す制度。これに指定されると他事業者との相互接続条件などに厳しい規制を課せられる。指定を受けるのは県単位に5割を超える加入者線を持つ第一種通信事業者の設備。この制度により,東西NTTは光ファイバを自社サービスに利用する場合と同じ条件・料金で他事業者に貸し出している。

 以来,通信事業者の間ではハチの巣をつついたような大騒ぎとなった。もし現行の光ファイバ開放政策を「検討」して方向性が変わることになれば,多くの事業者が事業変更を迫られるからだ。

 では東西NTTが主張する方向で光ファイバの規制が緩和されると,光ファイバを使う企業ユーザーや事業者,そして個人ユーザーにはどう影響するのか。この問題は日経コミュニケーション6月23日号の特集「光ファイバが借りられなくなる?」で詳しく考察してみた。

 ただ,両陣営が持っている問題意識や危機感については,十分な説明ができなかった。そこでこの場を借りてそれぞれの意見を,東西NTTの立場にいる「N氏」と,東西NTTから光ファイバを借りる立場の新興通信事業者「S氏」との仮想対談として仕立ててみた。

 あらかじめお断りしておくと,N氏とS氏のコメントはある特定の個人一人だけのものではない。それぞれの立場にいる複数の取材相手が語った内容を集約し,今,何が議論になっているのか,をつかんでいただきやすいように対談形式に構成したものである。対談調の言葉遣いや議論の流れ,ポイントとなる発言を太字にしたことなどは,すべて筆者の文責である。


N氏参議院の決議が話題になったと言うが,今回の決議内容はずっと以前から我々が,総務省などにお願いしてきた内容である。つまり,我々の光ファイバに課せられている指定電気通信設備の規制を外してほしいということだ。そういう意味では,決議は「検討」ではなく「見直し」にしてほしかった。

S氏この話は決議の直前に知ったので,どうしようもないうちに参議院で採択されてしまった。総務省や国会議員の先生に状況を聞く(注3)など対応に追われているところだ。今回たまたま参議院を通った問題が,事あるごとに蒸し返されるのではたまったものではない。

注3:衆議院でも参議院に引き続き改正電気通信事業法案・同NTT法案の附帯決議を決議する方向で調整を進めている。ただ,参議院の附帯決議の原案を作成した民主党は6月18日,衆議院では参議院の附帯決議を白紙撤回する方針を固めた(関連記事)。

N氏そんな小さな話ではない。米国では昨年,以前からの政策を大きく転換し,光ファイバ開放施策を撤廃した。日本にも同じ施策を取り込むべきではないか。

S氏既に米国はブロードバンドで日本や韓国に抜かれている。もはや日本よりも遅れている米国を見習う必要はない

 こんな決議のままでは,日本のブロードバンド振興施策が逆行することになる。何しろ日本のブロードバンド・サービスの利用者は1000万人に到達し,料金は世界一安くなったと言われている。こういう状況に来た今,決議を使ってNTTグループは光ファイバを独り占めしようとしているのか

N氏我々が貸し出している光ファイバの料金は規制によって定められていることを忘れてもらっては困る。しかもユーザーに提供するのと同じ料金でほかの事業者にも貸し出す義務は,東西NTTだけに課されている

 こうした規制がない電力会社は,相手の事業者とのやり取りによって料金を決められる。しかも光ファイバの総延長では我々よりも長い。電力会社に規制をかけろというつもりはないが,我々に課している規制を緩和して,電力会社などと公平に競争ができるようにしてほしい

S氏指定電気通信設備の規制が外れると,東西NTTの光ファイバを現在の料金で借りられなくなる可能性が高い。これまでの料金を基にした事業計画が崩れてしまう。光ファイバを使ってくださいという施策を打ちながら,ここへきていまさら値上げしますと言われても困る

 電力は確かに光ファイバをたくさん持っている。しかし,市街地に局舎がある東西NTTに比べて使い勝手はよくない。事実,回線数のシェアはNTTに比べて相当低い。こうした点を抜きにして,光ファイバの総延長だけを比較しても意味がない。つまり日本の光ファイバはまだ,競合状態になってはいないのだ

N氏回線数シェアの算出方法も見直してほしいと訴えている。しかも,関西地区などでは電力会社との競合が激化している。関西のある都市では,ほかの複数の事業者が入り乱れて光ファイバを引いている中,我々の光ファイバはほんのわずかしかない。これは市街地に実際にある光ファイバをチェックして確かめたので間違いない。

 FTTH(fiber to the home)サービスのBフレッツで月5000円程度の料金で提供しているのは,電力会社との競合上,この料金にしないとユーザーが取れないからだ。つまりユーザーを新規に開拓したいがために投資リスクを背負ってやっているのである。ところがそうやって引いた回線も,他の事業者に同じ料金で貸し出さなくてはならない。

S氏東西NTTは電電公社の時代から,1750円の基本料を徴収するなど銅線を引いてきた。今はこの銅線から得られる利潤を使って光ファイバを引いている。光ファイバを国民の利便性のために開放するのは当然だろう。

N氏銅線で超過利潤などは生まれていない。そもそも,2002年に東西NTTが合理化に取り組んだのは,経営が苦しいからだ。こんな状態で将来にわたって光ファイバを安価に貸し出すのでは,株主から理解を得られない。電話料収入が減り続けている現在,このままではNTT自身の経営が持たなくなる

S氏経営が苦しいというが2002年度末の連結決算ではNTTグループ全体で1兆円以上の利益(注4)を出している。先行投資にお金がかかるのは分かる。だが,借りる側の事業者もインフラ投資で苦しんでいる。

注4:取材時の「1兆円以上の利益」という発言を引用した。事実NTTグループの2002年度の連結決算で営業利益が1兆3636億円である。ただし,NTT東日本と西日本の営業利益は,それぞれ483億円と426億円。グループとしては,営業利益で1兆567億円を上げたNTTドコモに頼る構図となっている。

N氏これまでは既にあるものを開放するという政策だったので,銅線を開放してきた。しかし,光ファイバはこれから引くもの。作った直後からほかの事業者にも同じ貸し出さなくてはならないのでは割に合わない。

 借りる事業者に言いたいのは,リスクをとらずに借りるだけというのではあまりに虫が良すぎるということだ。このままではだれも光ファイバを引かなくなる。リスクをとらなくても同じ料金で借りられるなら,借りたほうがいいに決まっているからだ。光ファイバを借りる側にも相応のリスクを負ってほしい。ビジネス・ベースで貸してよいのであれば,我々にも光ファイバを引くインセンティブが生じる。

S氏もしビジネス・ベースというなら,新規参入する事業者の芽を摘むことになる。これでは独占の次代に逆戻りだ。

 採算が合わないというなら,いっそのこと光ファイバの敷設部門を切り離して,公社として運営してほしい。そうすれば採算が合わないとされるところにも,国家予算で敷設できる。この“光ファイバ公社”がNTTを含めて各事業者に平等な立場でインフラを貸し出すようにすれば,利用する事業者は公平に競争できる。

N氏公社が引いたからといって,料金が安くなるわけではない。例えば2万円のコストがかかったら,公社はそれだけの料金を徴収する。我々のように先行投資で料金を決めることはないからだ。

 たとえ指定電気通信設備を外してもらえても,我々はおいそれと料金を値上げできないだろう。なにしろ光ファイバは競合状態にあるため,電力会社との関係で料金が決まってしまうからだ。


 お読みいただいて分かるかと思うが,それぞれの立場で光ファイバの競合状況を見ている現状では,双方の意見は平行線のまま。とはいえ,附帯決議がきっかけで見直しに着手するまさに今が,日本の光ファイバの将来を決める岐路にあることは確かである。

 その際には,東西NTTの光ファイバは競合状態にあるのか,それともNTTの独占状態なのかという判断を,もう一度冷静に下す必要がある。

 現在の判断基準は,総務省が99年に定めた「全アクセス回線が都道府県単位で,50%の加入者回線数のシェアを上回っているかどうか」というもの。2002年3月末の数値では,東西NTTの光ファイバが平均では80%程度で,銅線+光ファイバでは94%を超えている。50%を下回る都道府県はない。つまり全国が独占状態にあるという状態だ。

 ただ,この判断基準について東西NTTからは問題点を指摘する声が出ている。高速ディジタル専用線などの回線数も含んでいるため,FTTHのようなブロードバンド・サービスの競合状態を,純粋に測れないというのだ。さらに,都道府県単位で集計する現行の方法にも,問題を指摘する声がある。

 日本が国家施策として掲げている「e-Japan戦略」では,1000万世帯に超高速回線(光ファイバのことを指している)を2005年までに引くことをうたっている。この計画を実現できるか,夢のままで終わるか――。両者の裁定役を務める総務省の力量がまさに今問われている。

 現時点の総務省の考え方について日経コミュニケーションでは,キー・パーソンである電気通信事業部長への独占取材を敢行。その結果を特集記事の中でまとめた。日本の光ファイバの行方に興味を持たれた方は,ぜひそちらをお読みいただきたい。

 なお,本記事へのご意見では,読者の皆様がどちらのスタンスに立たれるのか可能であれば表記していただければ幸いである(例:「N氏に同感」,「S氏に同感」,「どちらでもない」)。皆様がどちらの立場をベースとされているかを,ご意見を読む際に端的に理解したいからである。コメント欄の数で多数決をとるつもりではないことを,あらかじめお断りしておく。

(松本 敏明=日経コミュニケーション副編集長兼編集委員)