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 アクセンチュアの日本の幹部が言う。「バック・オフイス業務で日本にあるのは広報ぐらい。他はすべて中国・大連に開設したアウトソーシング・センターに移管した」。確かに広報は,筆者のような記者たちがとんでもないことを書かぬようチェックしたり,取材のセッティングのために東京に置く必要があるだろう。しかし,経理その他は,ネットワークを使えば大連にオフショアできぬことはない。

 アクセンチュアの場合,大連の施設は日本のアウトソーシング事業が日本IBMや富士通などに比べると芳しくないため,米国本社肝いりで開設したという事情がある。日本の顧客に対し,情報システムの運用管理やアプリケーション開発・保守,さらに事務処理や顧客サービスなどBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の受け皿となる戦略拠点であり,オフショアに何ら問題がないことを見込み客に納得させるショウケースというわけだ。

急成長するインド,「次の標的は日本市場」

 日本企業の間でも,グローバルな競争激化と,売上高の平均25~35%も占める販管費の削減問題との絡みで,オフショアが最近になり関心を集めている。すでにオフショアが先行している欧米では,雇用を巡る社会問題にもなりつつある。米ハイテク調査会社のForresterReserchの最近の調査では,2015年までの今後12年間で,米企業のBPOにより300万人を超える雇用が海外に移管される。うちIT関連職種は45万人の雇用が海外流出する見込み。米Gartnerによれば,2003年の世界のBPO市場では66%をインドが占めるという。

 WiproやInfosys Technologies,Tata Consulting Service,Satyam Computer Services,HCL TechnologyesなどインドのITサービス企業は,5年ほど前までは米市場に参入するだけでやっとだった。しかし,今では単なるプログラミングの下請けだけでなく,名だたる顧客の商談に直接入札する力を持つまでになり,米人コンサルタントと肩を並べるか,あるいは彼らに勝る腕利きのコンサルタントやソフト技術者を抱えるようになっている。

 今春来日した米ハイテク調査会社,IDCのエグゼクティブは「インドのIT企業は欧米でコンサルティング企業の買収に乗り出した。今や,IBMやEDS,アクセンチュアなどの“ベーブルース”企業(米国を象徴する企業)と,サービスのフルスコープで戦える実力を備えつつある。しかもコストは3~5分の1だ」と,インドのIT企業の高度成長に言及し,こう続けた。「次の標的は世界第2の日本市場であることは間違いない」

 最近では年商850億円(120円換算)のインドのWiproが,ソニーの米組み立て工場向けの情報システム開発を,老舗のコンサルティング企業である仏CapGeminiを破って6億円で受注した。ソニーは「インドのオフショア資源と低価格にはかなわない。30%のコスト節約になる」と述べ,この開発がうまくいけばソニーはもっとグローバルで大きな契約をインド企業と交わす用意があるとコメントした。

日本のITサービス産業への影響も増大する

 「今後5年間でIT投資の50%削減を目指す」と話すのは,大手企業ユーザー120社の集まりである社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の関係者。JUASは日本企業のIT投資削減を目指し,昨年秋に米国へITコストの削減やITガバナンスの実態調査団を派遣した。その結果,ソフトやハードのプラットフォーム価格やソフト開発会社への委託費用が、日本市場は高値で維持されていることが浮き彫りになったとし,カスタム・ソフト開発の海外へのオフショアも,企業内IT技術者の雇用問題と絡めながら慎重に検討する方針だ。

 インドなどへのオフショアで出遅れている米IBMも,米HP(ヒューレット・パッカード)がインドで8000人,米Intelが3000人という技術者を雇用してソフト開発や設計を効率化するトレンドに「IBMもそうする必要がある」(米IBMの従業員リレーションズ担当)と,オフショアに積極姿勢を見せ始めた。IBMは3万人を超えるハイコストなコンサルティング要員を買収(関連記事)しただけに,サービス・コストの削減は切実だ。

 インドのソフト業界団体であるNASSCOM(National Association of Software and Services Companies)の推計によれば,全世界で20万人を超えるインド人ソフト技術者が働いている。そして10万人が随時、海外と行き来している。この基礎になる人材として,毎年インドの大学はIT専攻学生を22万人輩出する。2003年のインドのソフト・ビジネスはついに1兆円を突破し,2008年には6兆円産業になるとの予測もある。6兆円は,日本の2002年のITサービス市場5兆6800億円(IDCジャパン調べ)とほぼ同じ規模だ。

 当然,欧米市場では特にインドのIT技術者を法律制定で締め出そうとする動きが出ており,場合によっては不当滞在で逮捕,などのいざこざも起きている。NASSCOMは「米国企業はビジネス・オペレーションの海外アウトソーシングで2008年までに36兆円節約できる」と,米企業の競争力強化にインド企業が貢献していることを示す数字を挙げ,オフショアの有効性を主張する。

 さて,これらオフショア喧騒と日本市場の距離は徐々に狭まりつつある。しかも,企業ユーザーの潤沢なカスタム・ソフト投資に支えられてきたITサービス業界は,発注の手控えや商談規模の極小化で経営事情は苦しさを増している。2002年度決算でも受託中心企業の落ち込みが目立つ。既に一部上場のITサービス企業の中には早期希望退職制度を開始したところもある。その苦境の背中を押すように,インドや中国などからのITオフショアの足音が高まってきた。

(北川 賢一=日経ソリューションビジネス主席編集委員)