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 「谷島さん,最近疲れてませんか。以前ほど記事に新味がないです」「情識のページを見ると,かろうじて前書きが更新されているだけで,記事自体の更新はほとんどない。1年たっても更新されないコーナーは死に体だから閉鎖したらどうですか」――

 読者や知り合いから,こう言われることが増えてきた。若手記者から,死に体などと言われると立腹するが,読者から指摘された時は,申し訳ないと思う。

 筆者はこれまで「記者の眼」に29回登板しており,今回が30回目である。登板間隔を振り返ってみると,ここへ来てくたびれていることがよく分かる(谷島の「記者の眼」一覧)。長年所属していた日経コンピュータ編集部を離れた2002年7月から,今年の初めくらいまでは,頻繁に記者の眼を書いていた。読者の意見にもまめに回答していたと思う。

 元気がなくなってきたのは今年に入ってからである。言い訳をすると,本業が忙しくなったことが影響している。何回か書いたように筆者の今年の本業は原稿を書くことではなく,新しい雑誌を開発することである。今年前半は多くの方に会って,新雑誌の方向性を決める議論をしていた。後半に入って,企画書を書き始めたあたりから,記者の眼をはじめとするコラムや記事を書くのがつらくなってきた。

 企画書を作り,社内外の関係者をまわって意見調整をする作業に忙殺されたためだ。また,企画書の文体とコラムや記事の文体はまったく違う。企画書作りで数日間うなった後に,普通の原稿を書こうとするとなかなか書けない。

 コラムを書くのがしんどいことに加え,別の問題も発生した。読者に対する“借金”である。借金とは,読者からのメールや書き込みに筆者が応答していないことを指す。読者への不義理を重ねた結果,借金が膨れあがり,企業でいえば債務超過の状態になった。

 過去の記者の眼で,読者に意見を求めたことがしばしばある。例えば,今年4月9日に公開した,「『西暦2007年問題』の解決策を募集します」 や,2002年9月26日の「投票をお願いします!『保守/運用』の代替名」などである。また,今年の6月11日と12日に公開した,「なぜ日本で独自技術は生まれないのか」については,多くの読者から直接メールをいただいた。

 ところがいただいた意見に筆者はまったく応えていない。情識のページを開設した時,「即答はできないかもしれないが,いただいた指摘には必ずなんらかの形で回答する」などと書いたが,それは反古になった。読者のコメントもメールも,すべて目は通しているのだが,なかなか応答できない。こうなってくると新しいネタで記者の眼を書こうとしても,IT Pro読者への借金が気になってしまう。これも不調の原因であろう。

8カ月で借金を完済へ

 IT Proは本日からリニューアルする。これに先だってIT Proの井上編集長から,「リニューアルの日に合わせて,記者の眼を書いてほしい」と依頼された。当初は,「本業が忙しくなったので,今回のリニューアルを節目として,IT Proからは引退します」という文を書き,借金を棒引きにしてもらうことを考えたが,そうもいかない。

 悩んだ結果,過去の借金がどのくらいあるかを整理し,返済計画を発表することにした。銀行で言えば,資産を査定し直し,経営健全化計画を発表するようなものである。締切を設けないと仕事ができない習性なので,返済計画には期日を盛り込んだ。 

 新雑誌の創刊は,来年春を予定している。今から来春までおよそ8カ月をかけ,IT Pro読者からの借金を完済したい。新雑誌の創刊は新規事業であるから,過去の借金を抱えたまま船出するのは危険である。

 「創刊準備があるのに,借金返済などしていて大丈夫か」と心配される読者もあるかもしれない。だが心配は無用である。借金返済活動,すなわちIT Pro読者の意見を総括したり,筆者が応答した結果を,新雑誌に盛り込もうと思っているからだ。さらに,うまくいけば,「日本の情報化を改革する」というテーマで一冊の単行本を作れるかもしれない。IT Proを通じて,多くの読者が新雑誌作りや単行本作成に参加してくださることを期待している。

 これまで書いてきた記者の眼のほとんどは,問題提起である。2001年3月13日に,筆者にとって第1回目の記者の眼にあたる「増える『動かないコンピュータ』」を公開して以来,古くからITの世界にあり,なかなか解決されない問題を意識して取り上げてきた。今後は問題提起は中断し,いかにして問題を解決するか,という姿勢でコラムを書いていくことにする。

 「問題提起にとどまらず問題解決を」。これは新雑誌の編集方針でもある。

 それでは借金返済計画を公表する。書こうと思っている記者の眼のテーマと掲載予定期日,過去の借金との関連を列挙する。

第1回 読者とともに新雑誌を開発する――10月上旬公開予定

 筆者がどんな雑誌を作ろうとしているかを第1回で説明する。簡単に言ってしまうと,経営者やビジネス側の人々と,IT Pro読者のような専門家との橋渡しをする雑誌である。次代の経営者は技術を理解し,専門家の力を引き出す力を持っていないといけない。次代の専門家も,経営者と会話できないといけない。このテーマは,今年1月9日に公開した,「エンジニアの皆さん,もっと経営者に意見しませんか」という記者の眼でも取り上げている。

第2回 情報化にあたって一番最初に何をすべきか――10月下旬~11月

 これまで書いた記者の眼の中でもっとも反響が大きかったのは,2002年10月31日に公開した,「『動かないコンピュータ』とコンサルタントの関係」であろう。 実に96人の読者がコメントを寄せて下さった。96人に応答した,「読者96人の意見に答える――『動かないコンピュータとコンサルタント』問題について(1)~(7)」という超大作は今年の1月27日に公開した。今にして思えば,この超大作で体力を消耗したのかもしれない。

 読者とのやりとりを通じて分かったのは,「情報化を進めようとした時に,一番最初に何をすべきかが曖昧」という点である。ERPパッケージやコンサルタントに問題があるというわけではない。つまり,業務上の問題を発見し,その解決のために新しい業務を考える作業をどうやるか。ここが非常に不透明なのである。

 ここはシステムの要件定義よりも,さらに前段階の作業である。システム設計や開発の方法論はたくさんあるが,こうした「何をするか」を見出す手法や方法論はあまり現場に定着していない。このため,「何をするか」を考えることを放棄したユーザー企業がERPパッケージとコンサルタントの世界に逃避しているのではないか。

 筆者の記事に怒ったコンサルタントの方々から,「私はこうやっている」という実例を書いたメールを複数いただいている。それを紹介しつつ,最上流工程のあり方を考えたい。

第3回 要件定義には絵ではなく表を使う――11月上旬

 何をするかが決まったら,システムに任せるべき仕事を決める。こうしてようやくシステムの要件定義ができ,設計に入ることができる。ここで問題は,どのようなドキュメントを残したらよいかである。

 筆者は,「絵を描くコンサルタント」について書き,プレゼンテーション・ソフトで絵を描いたり,ワープロで議事録を作るコンサルタントを批判した。これについても反響があり,今年の2月10日には,「再取材!『絵を描くコンサルタント』は実話」という記者の眼を書いた。

 一連の記事の中で,「ドキュメントはデジタルで」と書いたところ,多くの読者から批判された。確かに曖昧な表現であったので,この回ではどういうドキュメントを作ればいいかを考えたい。

第4回 コンサルタントの正しい使い方――11月下旬

 執拗にコンサルタント批判を書いたため,筆者がコンサルタント嫌いだと思っている読者がおられる。それは誤解である。言いたかったのは,「ERPパッケージの導入前の仕様決めやパラメータ設定のために数十人ものコンサルタントが押しかけるのはおかしい」ということだ。

 顧客が問題を発見できるように支援したり,プロジェクトがうまく行くようガイドするのが本来のコンサルタントではなかろうか。あるべきコンサルタント像と,そうしたコンサルタントの力を有効活用する方法を考えてみたい。

番外編 ERPパッケージ導入の実態

 コンサルタントにプレゼンテーション・ソフトで描かれた絵を渡され,困惑したユーザー企業の話を紹介した。その後の顛末をお伝えすると書いたきり,まったく文字にしていない。関心がある読者もおられると思うので,その後の経緯を紹介する。さわりをちょっと言っておくと,そのユーザーはコンサルティング会社との契約を切り,自分で何をするかを考え直している。

第5回 SEの契約を考える――12月上旬

 これまで書いた記者の眼の中で,もっとも不評だったのは,今年3月14日に公開した,「『SEの体制図』は顧客に出さない」であろう。SEに関するコラムを日経コンピュータに連載している馬場史郎氏の持論を紹介した記事だが,ユーザー企業の方の怒りをかってしまった。

 この記事で提起した問題は,ITベンダーとユーザー企業はどのような契約形態のもとで仕事をするのがよいかというテーマである。いわゆる人月問題もここに入る。人月を止めようというスローガンは大昔からあるが,ちっとも無くならない。それを嘆くのではなく,そろそろ解決策を見出したい。

第6回 プロジェクトマネジメントを定着させる――2004年1月上旬

 何をやるかを決め,設計ドキュメントを作り,ITベンダーと契約したら,後はプロジェクトの実行あるのみである。プロジェクトマネジメントについては,なんとかの一つ覚えで,記者の眼においても数回書いている。

 2002年1月11日の「『プロジェクトマネジメント後進国』の日本がナンバーワンになる日」,1月15日の「読者の意見に答える――日本のプロジェクトマネジメント問題について」,そして2002年11月13日の「プロジェクトマネジメントは本当に新しい話か?」である。

 プロジェクトマネジメントの導入にあたっては,かなりの抵抗がある。それはなぜなのか。どううまく導入するかについて議論してみたい。

第7回 保守・運用の重要性――2004年1月下旬

 めでたくシステムが完成しても喜んではいられない。ただちに保守・運用の段階に入るからだ。保守・運用の重要性についても数回,記者の眼で書いた。2002年9月17日の「運用こそが上流工程,開発は下流工程」,9月26日の「投票をお願いします!『保守/運用』の代替名」,10月9日の「【投票結果発表】続・投票をお願いします!『保守/運用』の代替名」である。

 一連の記事の中で使った上流・下流工程という言葉は「よくない」として,論文と図表を送って下さった読者があった。いただいてからなんと1年もたってしまったが,もう一回保守・運用のテーマをとりあげるときにご紹介したい。

 ところで数カ月前,「ソフトウェア・メインテナンス研究会(SMSG)」という団体から,「システム保守にかかわるポイントを十点にまとめると,どうなるか」というご質問をいただいた。

 きっかけは,筆者が編集にかかわった「システム障害はなぜ起きたか」という本(関連記事)の中で,「動かないコンピュータ撲滅の十カ条」なるものを紹介したことだ。これは,システム構築で失敗しないポイントを十点挙げたものである。十カ条の最後は,「システム構築会社と有償のアフター・サービス契約を結び,保守体制を整える」となっている。

 これを紹介したくだりで筆者は,「この十カ条は,あくまでもシステム構築に重点をおいて作ったもので,保守に関する条項は一つしかない。保守はそれだけで十くらいポイントが列挙できる分野である」と書いた。SMSGからの問い合わせは,この点に関するものであった。

 ひどい話であるが,「保守はそれだけで十くらいポイントが列挙できる」というくだりは,いわゆる筆の勢いで書いたもので,筆者の頭の中に十カ条があったわけではない。そこで筆者から,SMSGのメンバーに対し,「十カ条を作ってほしい」と要請した。SMSGから十カ条が到着したら紹介したい。

第8回 西暦2007年問題を解決する――2004年2月下旬

 今年の4月9日に公開した,「『西暦2007年問題』の解決策を募集します」については多くの方から直接メールをいただいた。西暦2007年問題は,保守の問題とも言えるし,スキル伝承の問題とも言える。IT Pro読者の意見をまとめあげ,この問題の解決策を見出したいと思う。
 
 新雑誌の開発を通じて,IT以外の分野の方々にも意見を聞いていると,2007年問題はもっと広範囲に存在しているようだ。団塊の世代のスキルをうまく後続に伝えられていないという問題である。この点については,BizTechイノベーターの方でも議論してみたい。

第9回 プロフェッショナル像――2004年3月下旬

 「プロジェクトマネジャが足りない」「いや,問題解決を支援できるコンサルタントがいない」,「システムのアーキテクトをだれも育てていない」など,「××が足りない」という話がしばしば出てくる。

 それではITプロフェッショナルの方々はどのようなスキルを身に付けるべきであろうか。筆者の考えを簡単に書いておくと,極端なスペシャリスト指向は正しくないと思っている。また,経済産業省が決めたスキルスタンダード(ITSS)についても触れてみたい。筆者は,ITSSについて「総論は賛成,各論は・・・」という姿勢である。

 スキルについては,若手技術者と議論して考えたいと思っている。2002年11月28日に公開した,「改めて思う,『プログラミングは重要』」のような対談ができれば面白い。

番外編 続・カンボジアの児童買春とITで闘う

 番外編というには重いテーマである。今年7月29日付の「カンボジアの児童買春とITで闘う」についてもたいへん多くのメールと書き込みをいただいた。多くの方の意見は,「意気込みには最大限の敬意を表する。ただし,ビジネス・モデルとしてはどうか」というものであった。実は筆者もそう思っている。この総括も実施したい。

第10回 ITプロフェッショナル責任を問う――2004年4月上旬

 過去の記者の眼のテーマを見渡すと,ITプロフェッショナルの条件といったテーマで数回書いていた。2002年7月8日の「『プロフェッショナル責任』を果たす」,2002年10月3日の「システムズ・エンジニアが日本を救う」,今年3月11日の「ドラッカー氏から『ITプロの条件』を学ぶ」である。技術者倫理というややこしいテーマに改めて触れようと思う。

 コンサルティング会社にたかられたユーザー企業について,「騙される方が悪い」という書き込みがいくつかあった。それはそうなのであるが,専門家がそう言ってはおしまいのところもある。

第11回 日本のIT産業の行方――2004年4月下旬

 締めくくりとして,IT産業全体を展望したい。直近の記者の眼2本は,そうしたテーマを扱っている。今年7月22~23日に公開した,「なぜ『IT産業のトヨタ』は出ないのか」と,今年6月11~12日に公開した「なぜ日本で独自技術は生まれないのか」を取り上げる。なぜこれらのテーマを最後に持ってきたかというと,「日本の技術」は新雑誌の中核テーマの一つだからである。

 以上が借金返済計画である。番外編も含め,なんと13回も記者の眼を書かなければならない。返済期間は8カ月であるから,月2本のペースである。96人の読者に応えた時とはまた違った厳しさがありそうだが,借金はいやなので頑張りたい。

 最後に繰り返しになるが,筆者が思いつきをあれこれ書いていても日本のためにならない。以上のテーマに関心のある読者の方はふるってご意見をお寄せいただきたい。

(谷島 宣之=ビズテック局編集委員)

■編集部注:筆者へのご意見は下の「Feed back!」欄から,または電子メール(iteditor@nikkeibp.co.jp)でお願いします。メールの場合は件名に「情識係あて」とお書きいただければ幸いです。なお,記事中の借金返済は,諸般の事情により滞る場合も予想されます。読者の皆様には大変恐縮ですが,あらかじめご了承いただきますよう,お願い申し上げます。