IT市場に薄日が差してきたようだ。2004年3月期の中間決算で“増収増益”を発表するソリューションプロバイダは少なくないし(関連記事),最近会ったソリューションプロバイダ幹部の多くが「下半期は期待できる」と話す。

 こうした好況感に水を差すわけではないが,手放しでは喜べない。先の中間決算で営業利益を落としたソリューションプロバイダの多くが,その理由としてプロジェクトマネジメントの失敗や開発フレームワークの不備など「ITのプロフェッショナル」としては恥ずかしい項目を挙げるからだ。それ以上に,今後増えるであろうシステム構築案件の複雑さにこたえられるだけの提案力をITサービス業界は有しているだろうか?

生き残りを賭けたRFP(提案依頼書)には“悲壮感”も

 最近,EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)が話題になっているように,企業は今,情報システムを経営基盤に位置付け直し,一企業内だけでなくグループ企業や取引先を含めた全面見直しを始めている。ITサービス業界は,かつて金融オンラインシステムや全国販売店ネットワークを構築したのと同様に,企業の屋台骨を支える仕組みを提案し設計・構築で応えなければならない。ところがIT業界自身を含め,最近は「業務を含めてITを考えられる人材がいなくなっている」と指摘する声は強まる一方だ。

 大阪基盤で小規模ながら技術力を武器に大規模案件の“火消し役”に回ることもあるヴィットの小川隆也社長も大きな危機感を持つ一人。「あまり教えたくはないけれど」としながらも,関西市場は今,苦しい時代を生き残ってきた中堅企業の案件が動き出していると言う。そんな案件が,中堅・中小企業市場では国産メーカーの後塵を拝してきた日本IBM経由でヴィットに舞い込んでくる。

 その理由は,これまで彼らに情報システムを納めてきた国産メーカー系のコンピュータ・ディーラーなどが不況を乗り越えられず顧客より先につぶれ,相談相手がいなくなっているからだ。相談相手を無くした企業は,ディーラー任せだった国産メーカーではなく「一度はIBM」と日本IBMに問い合わせる。ヴィットは「案件を断らなければならないほどに忙しい」と,うれしい悲鳴を上げている。

 だが,と小川社長の話は続く。そんな中堅企業が出してくるRFP(提案依頼書)が,またひどい。「最新技術のオンパレードで,一体何千人規模の会社なのかと思うほど」の仕組みになっているという。小川社長は顧客をバカにしているのではない。「彼らは,ここで経営基盤を確立できなければ将来はないと感じている。だから必死で最新技術を勉強する。ただ残念ながら机上の学問で経験がない。そこには顧客の“悲壮感”すら漂っている」と。むしろ,今こそIT業界が発想を切り替え奮起すべきだと訴える。

技術だけではなく業務ノウハウの引き継ぎが課題

 悲壮感漂うほどに企業が必死な理由の一つが「2007年問題」だ。現行の基幹システムを業務まで理解しながら設計・構築した人材が2007年,大量に定年を迎えることで情報システムが“なぜ”こんな仕組みなのかが分からなくなる。“なぜ”が分からないシステムを使い続けることほど危険なことはない。現実には,早期退職制度の連発などで2007年を待たずに“なぜ”が不明なシステムは増えている。だからこそ企業は,投資が苦しい中にあっても今,全面見直しプロジェクトをスタートさせる。

 IT業界からは,2007年問題対策としてオープンシステムへの移行やERPパッケージ(統合業務パッケージ)導入など,いわゆるレガシー・マイグレーションが提案されている。だが,事態はそう単純ではない。例えばNECソフトの関隆明社長は「メインフレームかオープンかといった類の問題ではない。過去に蓄積した数々のノウハウをどう引き継ぐかだ。ここを見誤ってはならない」と訴える。

 ERPにしても同様だ。これまでERPの導入動機の多くは,世界標準の会計手法を早期に導入したい,個別開発のコストを下げたい,情報システム部門を縮小したい,など部分的な問題解決にとどまっていた。そうしたプロジェクトと同じ感覚で,今後の案件に提案しても顧客企業の評価は得られない。そもそも,関西の現状のように,自らが事業継続できないITサービス事業者に,企業が将来を託す経営基盤を支える仕組みの提案など無理だ。

 企業の現場は本当に変わってきている。その一例が資材調達システムの構築を急ぐ丸善石油化学。ERPをベースに既存のグループウエアのほか,間接材調達にはASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスまで組み合わせる。その前提として,これまで子会社経由で調達していた資材も本社で一括調達し,資材を配分する仕組みに業務プロセスも変えた。これまでが名目だったとはいえ子会社の売上高は減少する。ROI(投資対効果)重視が叫ばれるように,企業は“名より実を取る”経営に動いている。

IT業界が信頼回復できるラスト・チャンス

 ただ残念ながら企業が出すRFPは限定的にならざるを得ない。ITを真に理解しようとしない経営者と複雑さをます一方のITとに挟まれて,情報システム部門やプロジェクト・リーダーは,自らが責任を持てる範囲でRFPを出さざるを得ないのが実状だ。ある一部上場企業の情報システム担当者も「無い物ねだりかも知れないが,本当に欲しいのは,当社の経営戦略や事業戦略を把握したうえで業界動向を加味した提案。RFPに正対した回答ではない」と打ち明ける。

 業務プロセスの見直し,と言えば「そこは経営コンサルタントの領域」との指摘が聞こえそうだ。だが,特に中堅・中小企業には経営コンサルタントを雇う余裕はないし,企業規模を問わず経営戦略を情報システムに展開し具現化するにはまったく別のスキルが必要になる。日経ソリューションビジネスがアルゴ21の戸並隆氏をアンカーに連載する「中堅・中小マーケット攻略法」で,中・小コンサルティング会社の代表者などの取り組みを見ても,経営コンサルティングとITコンサルティングの間には,まだまだ隔たりがあることが良く分かる。

 IT業界は今“作りっぱなし,売りっぱなし”の批判を受け,信頼感を失っている。下半期以降,増えるであろう企業の経営基盤構築案件に応えるには,情報システムの範囲を自らが狭めてはならない。企業が求める機能のすべてが必要なのか,機能を削った際に業務の現場や最終サービスがどう変わるのか,サービス・レベルを変えることで新たな戦略は見出せないのか,などなどITが影響する範囲に制限はない。むしろ顧客はITだからこその経営・業務改革を求めているのではないだろうか。

 世界的にも先例がないとされる経済不況下にある日本。その中で生き残りを賭ける企業の期待に応えられるかどうか。日本のIT業界の提案力が真に問われているし,これが業界の信頼を回復できるラスト・チャンスかもしれない。

(志度 昌宏=日経ソリューションビジネス)