PR

 昨年冬のボーナスを,デジタル・カメラや薄型テレビ,DVDレコーダーにつぎ込んだ方も多いだろう。最近では,これら3製品は「新三種の神器」と呼ばれ,家電市場のけん引役を果たしている。

 メーカーによって機能や性能の細かな違いはあるものの,それによってどんなメリットがあるのかを消費者が売り場で即座に理解するのは難しい。カタログを見ただけでは,素人目にはどれを買っても大した違いがないように思える。

 では,ヒット商品はなぜ顧客に選ばれたのか。ヒット商品を生み出す組織や開発・販売手法には,なんらかの特徴があるのか──。これらを探るために,ヒット商品の舞台裏を取材した(詳しくは,日経情報ストラテジー4月号の特集で掲載)。

 ヒット商品を生んだ企業のなかでも,特に興味を引かれたのが松下電器産業とソニーの2社だ。この両社は,対称的なアプローチでヒット商品を生み出したのである。松下が消費者の声に注意深く耳を傾ける「マーケットイン」の手法を採ったのに対して,ソニーは新技術で新たな市場を作り出す「プロダクトアウト」で成功した。家電の雄である両社は,それぞれ薄型テレビとDVDレコーダーの市場でライバルに先を越されていたものの,その企業遺伝子は健在だった。

お宅訪問から生まれた次世代テレビ

 松下が昨年9月に発売した薄型テレビ「VIERA(ビエラ)」は,年末商戦で売り上げを大きく伸ばし,国内のプラズマ・テレビ市場でシェア・トップの日立製作所を追撃している。床が突如めくれ上がってテレビに姿を変える印象的なテレビCMを覚えている方も多いだろう。壁にぴたりと寄せて置いたときに,まるで壁からテレビが浮き上がっているかのようなデザインがビエラの大きな特徴であり,ヒット商品に育った大きな要因である。

 実は,絶妙なカーブを描く形状は,消費者の声がヒントになっていた。既存のプラズマ・テレビや液晶テレビの購入者に聞き込み調査を実施したほか,実際に購入者宅を訪問して部屋のどこに置いてあるかを観察して回った。

 その結果,部屋のコーナーに置かれることが多かったブラウン管テレビに比べて,薄型テレビでは壁に寄せて置く傾向が強まると判断。壁に寄せて置いたときに最も美しくなるようにと考えて生まれたデザインだ。白に近い銀色をした本体色は,住宅メーカーや部材メーカーから入手した床材の色のトレンドに合わせて決めている。

 リモコンの使い勝手や,テレビの中枢である画質までも,ビエラの企画開発では徹底的に消費者の声を吸い上げた。調査の規模は従来の数倍だったというから,いかにマーケットインの意識が強かったかが分かろうというもの。

 リモコンの改善では,開発者たちの間に浸透していた常識を覆した。ビエラのリモコンでは,アナログとデジタルのどちらの放送方式でも同じ数字キーを使って番組を選局できる。「アナログとデジタルといった方式ごとにチャンネルを選ぶ数字キーがあったほうが使いやすい」と思っていたことが,消費者への聞き込み調査からひっくり返されたのである。

 松下は中村邦夫社長の号令のもと,大規模な構造改革に取り組んだ成果として,消費者を強く意識したモノづくりが全社に根付いてきた。ビエラも例外ではなかったのである。

テレビの見方を変えた新機能

 一方,ソニーのDVDレコーダー「スゴ録」は,新技術が今までになかった使い方を提案したという意味でプロダクトアウト型の製品といえる。技術力を生かした斬新なヒット商品を数々生み出してきたソニーらしさが垣間見える。

 スゴ録の売りは,テレビ番組のジャンルや出演者の名前,任意のキーワードなど,利用者が好みの条件を設定するだけで,自動的に録画してくれる「おまかせ・まる録」機能やEPG(電子番組表)である。留守中に見られないテレビ番組をため録りしたいというニーズにぴたりと一致し,コスト・パフォーマンスと相まって市場で出遅れていたソニーの巻き返しに貢献した。

 放送時間中にテレビを見られないため,ビデオ・テープに録画するといった番組は,それほど多くないのが実情である。従来のビデオ・テープ・レコーダーでは,録画を設定するまでのハードルが高いからだ。テレビや雑誌の番組表から放送時間とチャンネルを確認し,ビデオ録画の設定画面を呼び出して,ユーザー・インタフェースが良いとは言えないリモコンで放送時間や録画形式を設定する必要がある。録画用のビデオ・テープがなければ,コンビニへ買い出しに走らなければならない。

 例えば,好みの俳優が出演している番組を見たい消費者は,毎週放送時間が決まっている連続ドラマは欠かさずに録画したとしても,スポット的にゲスト出演しているバラエティ番組は見逃してしまうかもしれない。かといって,新聞などに載っている番組欄から探すのは面倒だし,通勤の電車の中で発見しても手の打ちようがない。こんな面倒なことを嫌って,録画すらしない消費者も少なくないだろう。

 ソニーは,新技術によってそうした煩わしさを解消したことで,埋もれていたニーズを掘り起こし市場を拡大した。

見えないニーズの掘り起こしが勝利のカギ

 マーケットインとプロダクトアウトという対称的なアプローチを採った両社だが,実は「見えないニーズを掘り起こした」ことが共通点だ。紙面によるアンケートやコール・センターに寄せられる消費者の声だけでは,なかなか見えてこないニーズに応えたことがヒットにつながった。

 デジタル景気の恩恵にあずかろうと,有力メーカーが持てる資源を集中。早くも市場は激戦区と化している。技術力や開発力もさることながら,情報収集力と洞察力が大きなカギを握っている。

(相馬 隆宏=日経情報ストラテジー)