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 グループウエア,SFA,CRM,SCM,ERP,ナレッジ・マネジメント──。こうしたキーワードがコンピュータ専門誌の主役を務めていた時代があった。つい3年ほど前のことだ。

 日経情報ストラテジーもその例に漏れず,かつては毎年のようにこうしたキーワードを中心にした特集を組み,読者よりご支持をいただいていた。しかし,ここ2年ほどはこうした企画を見送ってきた。読者アンケート調査において,こうしたキーワードに対する読者からの注目度が明らかに落ちてきたからだ。

 このころから「セキュリティ以外に,どんなテーマのセミナーを開いても,集客が思わしくない」とこぼすIT業界関係者の声を聞く機会が増えたように思う。

 今回の特集記事「成功企業に学ぶIT経営手法 50の勝因」は,編集部にとっても,近年の事例取材をベースに,最先端の「IT経営」を改めて俯瞰(ふかん)する良い機会になった。そして改めて思ったのは,冒頭のキーワードの存在意義はいささかも変わりはないが,情報のハンドリングに,かつてIT業界側が提唱した提案よりも,はるかに複雑な工夫が凝らされているということだ。

ユーザーは基本概念だけではワクワクしなくなった

 例えばSFA(セールス・フォース・オートメーション)でいえば,かつては,訪問数やプレゼンテーションの実施数などを管理する提案が話題になった。しかし,こうしただれにでも思いつきそうな切り口ではなく,成績上位の営業担当者の行動特性の分析にまで立ち返ったうえで,20項目もの管理項目を設定した事例がある。

 顧客データベースの分析も,かつては購買履歴や属性情報の分析自体に大きな意味があるとされていたはずだった。しかし現在は,「家族を大切にする」「本物志向」などライフスタイルに基づいた独自の分類キーワードを設定し,管理する事例が徐々に増えてきた。

 CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)では,かつてクレーム数と,回答率の推移,および回答時間の短さを管理することが顧客満足度管理の典型的な事例とされていたはず。だが最近は,問題の大きさを定義することひとつとっても,クレーム数の絶対値の大きさだけでなく,過去の同類の製品機種におけるクレーム数との比較を判断基準とするなど,細かい工夫が凝らされている。また,顧客からニーズやクレームの情報を収集する方向とは逆に,産地や構成部品の情報など消費者へ的確に情報を提供する仕組みを作ることも,重要なトピックになってきた。

 SCM(サプライチェーン・マネジメント)は,かつては販売量および必要資材量を正確に予測する情報分析の仕組み作りに重点が置かれていた感があった。だが,今はむしろ情報収集や情報共有の工夫に焦点が移っている。需要予測の正確さを追求することよりも,予測を裏切られた状況の発生をいち早く知り,即応できる業務体制を作るかが焦点になったようだ。このために,物流・販売部門など複数部門間の情報共有はもちろん,メーカーと流通業の企業の枠を超えた情報共有の取り組みも出てきた。

活用の知恵を語れる営業が生き残る

 利用動向を俯瞰してみると,キーワードの基本概念だけで,もはやユーザーがワクワクできなくなったのも道理だ。パッケージの標準的な利用法を取り入れることそのものに,ユーザーは大きな価値を感じなくなってしまった。基本概念の導入は押さえた上で,その先でどんな情報分析や業務の仕組みを組み合わせるかで,ユーザー自身が独自に価値を高める工夫を凝らしているのだ。

 これでは,IT業界の営業担当者が売り込みづらくなったのも当然だと思う。各種キーワードに対応するパッケージの標準的な利用法を提案するだけでは,この先,ユーザーの心をとらえることはもはや困難だということははっきりしている。会計パッケージのような定型業務ソフトは例外だが,SFA,CRM,SCMといったユーザーが本当に競争力を強化したいと考える分野ほど,パッケージの機能を語るトークではなく,「マニュアルや解説書には書いてない利用方法の工夫」をテーマにしたセミナーや,そうした話ができる営業が望まれているのではないだろうか。

 そうしたセールス・トークができるように,IT企業もまた,ナレッジ・マネジメントの先進企業にならなければならないのだろう。さらには,IT活用の知恵をいかに自身で培っているかも,ますます重要になるのかもしれない。ITをユーザーに提案する企業自身がSFA,CRM,SCMそれぞれのパワー・ユーザーとして,活用のコツを実践の裏づけをもって語れるようになれるかどうかということだ。ひところに比べて元気を失ってしまったIT業界において,IT企業が営業力やブランド力を引き上げる最短距離は,一見,遠回りなようでも,これしかないのではないだろうか。

 筆者はこの仮説が正しいかどうかを判断する一つのポイントは,SCMの先進企業であるデルが,サーバーやシステム製品の分野でも,既存の大型コンピュータ・メーカーに互角以上に販売力を発揮できるようになるかどうかだと見ている。もちろん足元を見れば,構築時や導入後のサポートなど,様々な課題はある。としても,デルの営業担当者がSCMのシステム活用法について提案をし始めたら,とりあえず話だけでも聞いてみたいと考えるユーザーは多いはずだ。

(井上 健太郎=日経情報ストラテジー)