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 Linuxをはじめとするオープンソース・ソフトウエアを「使う」ことが企業システムを構築・運用する上で有力な選択肢になってきたことに,異論を唱える方はあまりいないだろう。では「作る」ことはどうだろうか。オープンソース・ソフトを「作る」ことはビジネスになるだろうか。

 ソフトウエアをオープンソースとして公開し,それをビジネスにしようとした試みは,これまでにすでにいくつかあった。しかし,その目的を実現できなかった(あるいはまだできていない)企業はたくさんある。そうした例は,読者の皆さんもいろいろとご存じだろう。

 例えば,米国のLinuxディストリビュータであるStormix Technologiesは2001年1月に営業を停止している。米TurboLinuxは2002年8月,Linuxディストリビューション事業から撤退し,社名を米Centerlexに変更した。日本のターボリナックスはSRAが子会社化し(関連記事),さらに2004年3月にライブドアが買収したのだが,2003年の純損失は6000万円だった(関連記事)。データベース管理システムPostgreSQLの開発メンバーらが設立したGreatBridgeは,商用版PostgreSQLの販売を計画していたが,投資が集まらず,2001年9月に業務を停止している(関連記事)。フランスのLinuxディストリビュータであるMandrake Softwareは2003年1月に会社更正法を申請し,現在経営再建中である。

 このように,これまでいくつもの企業がオープンソース・ソフトウエアの開発から撤退している。しかし,ここへ来て業績が好転し始めたオープンソース・ソフトウエア企業も出てきている。まずは,どんな企業がどんな理由で成功しているのかを見ていこう。

企業システム市場で成功の足がかりをつかむ

 最初の例はLinuxディストリビュータ大手の米Red Hat。同社は,2003会計年度で660万ドルの損失,など株式公開以来,赤字が続いてきた。しかし,米国時間3月23日に発表した2004年2月期の決算では,2004会計年度で1400万ドルと黒字を記録した(関連記事)。

 同社の業績改善には,2つの理由がある。まず,“サブスクリプション”(購読)料金体系を導入したこと。もう一つは,無料で利用できるRed Hat Linuxの開発を終了し,企業向けのRed Hat Enterprise Linuxに集中したことである。Linuxは「無償OS」と呼ばれることも多いが,Red Hat Enterprise Linuxは1年単位の利用料金を払わなければ利用できない契約となっている。

 Red Hatは2003年9月にRed Hat Linuxの開発終了を宣言。Red Hatが支援するFedora Projectというコミュニティが,Red Hat Linuxの事実上の後継となるFedora Coreを開発することになった。Fedora Coreはカーネルなどに最新のモジュールを取り入れ,リリースの間隔も短く,“実験版”的な性格を持つ。このため,業務システムのサーバー用途には向かないとされる。一方,Red Hat Enterprise Linuxは“枯れて”安定したモジュールを使う(関連記事)。Fedora CoreでバグがつぶされたモジュールをRed Hat Enterprise Linuxに取り入れていくという方針だ。

 大規模サーバー向け のRed Hat Enterprise Linux ASで年間19万8000円,エントリー/ワークグループ・サーバー向けの Red Hat Enterprise Linux ESで9万9800円という料金は,個人や小規模な企業がWebサーバーとして使用するには高価という声もあり,実際にそういった用途ではDebianなどほかのLinuxディストリビューションに移った可能性もある。しかし,ハードウエア・ベンダーやソフトウエア・ベンダーがRed Hat Enterprise Linuxを動作対象プラットフォームとしており,基幹業務のDBサーバーやAPサーバーとして使用する場合には,Red Hat Enterprise Linuxが採用されている。

 米Sendmailは,2002年第4四半期に初の黒字を記録している。以来現在まで四半期ベースで黒字を続けており,かつ販売が前期比増を続けているという。Sendmailは,インターネットのメール・サーバー(MTA)の標準となっているsendmailの作者であるEric Allman氏らが設立した企業だ。sendmail自体はsendmail.orgでオープンソース・ソフトウエアとして開発,販売を続けながら,クラスタリング機能やスパム対策機能などを持つサーバーを有償で販売している。

 EJB対応アプリケーション・サーバーJBossの開発者らが設立した米JBossは,2004年2月,ベンチャー・キャピタルから1000万ドルを調達している。業績は公開していないが,米メディアの報道によれば黒字を確保しているという。同社は,JBossに関するプロフェッショナル・サービスやトレーニングなどを提供している。EJB対応のため,基幹業務で採用されるケースが多く,プロフェッショナル・サービスに対する需要が旺盛のようだ。

オープンソース・ソフトは腕利きの営業担当者にもなる

 過去に挫折した企業と現在好調の企業を比べてみると,単にオープンソース・ソフトウエアをパッケージングして,電話やメールでのサポートを付加したものを有償で販売するビジネス・モデルではうまくいかないことが見えてくる。特に企業システム市場で,ユーザーから対価を得るビジネス・モデルを軌道に乗せた企業が目立っている・・・

 ・・・と,ここまでを読んで,「しかし」,と思われる読者も多いだろう。「ここに出てきたのは,デファクト・スタンダード的な地位を占めたほんの一握りの企業ではないか。」と。確かに,これらの企業のビジネス・モデルがほかの一般の企業でそのまま通用するかどうかは疑問だ。「オープンソース・ソフトで“直接”収益を上げる」のは簡単ではない。

 それでは,ソフトウエアをオープンソースとして公開することが(“社会的意義”ではなく,“企業の経営”の面で)無益だと筆者が考えているかというと,そうではない。

 理由の一つはよく言われていることで,開発したソフトウエアをオープンソースで公開することが,開発者自身や開発者が所属する技術力の向上に有効であること。そしてもう一つは――こんなことを言ったら真面目にオープンソースに取り組んでいる方には怒られるかもしれないが――自社で開発したオープンソース・ソフトウエアが,自社の技術力を証明する広告塔になり,また,優秀な営業担当者の役割も任せられるかもしれないからである。

 PostgreSQLでXMLを扱うためのツール「XMLPGSQL」をオープンソース・ソフトウエアとして公開したメディアフロント 代表取締役の小松誠氏は「当社には営業がいない」という。XMLPGSQLが知られるようになり,営業活動を行わなくともオープンソースに関連した仕事が持ち込まれるようになったためだ。

 SRAはPostgreSQLの国際化やクラスタリング・ツールPGClusterの公開,マニュアルの翻訳などの普及活動を行っている。同社のオープンソース事業は利益を確保しており「システム構築が収益の柱となっているが,普及活動を通じてPostgreSQLなどをソースコード・レベルで知り尽くしていること,技術力が認知されていることが強みになっている」(SRA オープンソースソリューション部部長 林香氏)という。

 インテグレータやソフトウエア・ベンダーにとっては,ユーザー企業に「このソフトは安心して使い続けることができそうだ」と感じてもらうことも,ビジネス上,重要なことである。野村総合研究所は,Webアプリケーション・フレームワークStrutsの機能を拡張するソフトウエアT-Struts(仮称)をオープンソース・ソフトウエアとして公開している。「ソースコードを公開することで,仮に開発元のサポートが終了したとしても他のベンダーがメンテナンスできる」(野村総合研究所 情報技術本部 黒澤直樹氏)ことが期待できるからだ。

資金がなくとも,ソフトウエアを世界に普及させることができる

 自社が開発したソフトウエアをオープンソースとして公開するという方法は,特にお金はないが技術には自信がある,という企業にとっては,自社のソフトウエアを普及させる格好の手段になる。世界で普及したLinuxを開発したのは,当初フィンランドの大学院生だったLinus Torvalds氏である。MySQLも,もともとは欧州の小企業の一技術者が一人で始めたプロジェクトだった。資金も,国境も絶対的なハンデにはならなかった。

 これらの例は,日本でソフトウエアをビジネスとする企業,資金のない企業も「デファクト・スタンダード的な地位を占めたほんの一握りの企業」になれる可能性があることを教えてくれる。

(高橋 信頼=IT Pro)