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 IT市場にわずかずつ薄日が差し始めた。複数のITサービス事業者の幹部が「2004年の市場は確実に回復基調にある」と口をそろえる。その一方で「顧客のコスト削減要求は厳しくなる一方で,少しでも見積もりを誤ったり失敗したりすれば即,赤字だ」との声も絶えない。そして,ユーザー企業が求める“IT”とITサービス事業者が提案する“IT”の間にあるギャップも確実に広がっている。

 「回復基調」と頬を緩ます企業と「採算割れも覚悟」と眉間にしわを寄せる企業の違いは何か。システム開発力やプロジェクトマネジメント力もさることながら今,ITサービス産業の企業間競争力に最も大きな差となって表れているのは営業力,特に自らが顧客を獲得するための営業力だ。

変わらぬ売り上げ至上主義,予算は今も右肩上がり

 営業力がこれまで以上に重要になっていることは,ITサービス産業の誰もが気付いている。ここ数年,いわゆる下請けからの脱却を目指し,大手独立系ITサービス事業者を筆頭に,新規顧客開拓に向けた営業体制強化を経営課題に掲げる企業が増えている。だが皮肉にも,その結果起こったのが2003年度に多発した数々の赤字プロジェクトであり,度重なる下方修正だ。

 プライムコントラクタ(主契約者)が顧客と決めた仕様通りに開発することに慣れた身体では,自らが先陣に立って顧客と交渉し,仕様を決めたり,価格を見積もったりが十分にこなせなかったからだ。当然,価格競争に巻き込まれ無理な価格で受注した例も少なくないだろう。もっとも,プライムコントラクタ自体の交渉力も低下しているので,下請けですら仕様通りに作ることが難しくなっている。

 こうした傾向に拍車を掛けたのが,ITサービス産業のIPO(株式の初回公開)ブームと,時を同じくして浸透し始めた成果主義だ。公開企業はマーケットの期待に応えるために売り上げ拡大を宣言し,顧客開拓に向けた営業を強化する。そして現場の営業担当者は四半期や1年単位で掲げた目標達成に向けて走る。顧客が抱える課題を解決するために頭を使ったり,必要な製品や人材を捜しまわったりするよりも,利益率が高い製品,営業が売りやすい製品を核にした営業活動になっても不思議はない。

 実際,地方市場ほど営業の実態は悪循環に入っているという。大阪に拠点を置く複数のITサービス事業者のトップらによれば「大手は支社・支店から有力な人材を首都圏に集中させているし,東京で考えた販売戦略の実施を要求され,営業は契約さえ取れれば次の案件,と顧客を見ていない。一方,中堅どころも効率が悪い新規顧客開発に取り組まず,既存顧客からの追加発注取りに特化している。関西は今,不況期を踏みとどまった顧客が事業拡大に向けたIT投資を検討し始めているが,彼らはITサービス産業にとっては“新規顧客”だから,誰に相談すればよいかといった段階から困っている」。

 顧客を増やすための営業強化や,営業担当者に動機付けるための成果主義などが,逆に顧客との接点を少なくし,さらには「本当に欲しいソリューションを提案してくれない」など顧客の期待を自ら裏切っているというわけだ。

システムの売り上げは“個人”の成果? 結果よりもプロセスを見る時代

 営業活動の悪循環を断ち切るための手法として注目され出したのが「営業プロセスマネジメント」だ。営業活動の結果である売上高ではなく,活動の過程そのものをマネジメントすれば,結果的に売り上げ増が期待できるという考えだ。そこでの発想は「商品を売る」から「商品が売れる」に変わる。

 プロセスマネジメントの考え方は,製造現場やアルバイトやパート・タイマーなど非正社員が多数働く現場では相当に定着している。トヨタのカンバン方式やマクドナルドのマニュアルなどである。IT業界にも,システムの仕様決めや開発過程を対象にすればプロジェクトマネジメントのPMBOKやソフト開発のCMMなどの手法がある。だが,営業活動はこれまでプロセスマネジメントの対象外だった。「できる営業は商品ではなく自分を売る」とよく言われるように営業は個人活動色が強かったからだ。

 「営業のムダ取り」を掲げコンサルティングや成業支援ツールを販売するソフトブレインの松田孝裕副社長は「プロセスマネジメントとは,いわゆる可視化やトヨタの“見える化”だ」と話す。そして,そのトヨタも「次は営業の見える化を課題に挙げている」(同)。日本の製造業が誇る製造現場の強みを,顧客接点となる営業現場にまで広げようというわけだ。

 ところで,そもそもITサービス産業の“現場”はどこだろうか。それは,開発現場だけではないことは明らかだ。“ソリューション”の視点でいえば,顧客の課題を聞き出し明確にしている提案活動も“現場”だし,最近のROI(投資対効果)重視の視点で見れば,システムがカットオーバーし安定的かつ成長しながら稼働し続ける保守・運用段階も立派な“現場”だ。これらの現場が顧客の価値観に沿って同じベクトルを持てなければ,真に満足してもらえるITサービスは提供できない。

 例えば富士通は今,「顧客起点」を掲げ組織体制を大きく変更している。営業部隊とSE(システムエンジニア)部隊を統合したり,地方の支店を廃止し地域営業本部にしたり,といった施策を進める。そこでは,成果主義のあり方も見直しが進んでいるという。少数の“スター”を作るよりも“チーム”としての動きを重視するものになるようだ。ITサービスの発端は個人のアイデアでも,仕組みとしてはチームとして,会社全体で取り組まなければ動かないからだ。

営業プロセスの手本は身近にある。現管理職が持つノウハウを伝えよ

 この営業プロセスマネジメントの実現に,日々の実践活動の中からたどり着いたITサービス会社がある。岡山県津山市という地方都市でパソコン・ディーラとして創業したアスクラボ(設立当時はカワシマ商事)だ。同社の川嶋兼社長は「オープンシステムの台頭で,誰もがプロプライエタリ(独自)からオープンへと技術を切り替えることに専念してしまったことが最初のボタンの掛け違えだ」と指摘する。そこでは「顧客が求める業務アプリケーションに興味を失い,新規開拓をしなくなった。顧客とともに業務を勉強し,ソリューションを考えていたメインフレーム時代のSE(システムエンジニア)のスキルの伝達が途絶えた」という。

 アスクラボが営業プロセスマネジメントの中核に据えるのは,一度途絶えたSEのスキル,すなわち川嶋社長自身を含め,以前は数々の経験を積んできた今の管理職が持つスキルを“現場”に再度,伝えることだ。そのためには,売り上げだけを管理していてもダメで,プロセスそのものをマネジメントする必要があるということにたどり着いた。「最も効果的なタイミングに,最も有効なスキルを現場に伝えるには,営業プロセスを把握しておく必要があるからだ」(川嶋社長)。

 ある大手メーカー系ITサービス産業の営業担当役員は,営業には3つの責任があるという。「受注,納期,回収」だ。その意味は,受注は当然,成約までのいわゆる提案活動のこと。納期とはシステムが稼働するまで,すわなちプロジェクトマネジメントのこと。回収とは実際にお金をもらうまで,すわなち顧客が速やかに検収してくれるだけの品質管理のこと。「受注はもとより,開発過程も稼働後までも常に顧客接点の最前線に立つのが本来の営業の姿だった」という。ITサービス産業が営業プロセスマネジメントに取り組むことは,企業活動全般をマネジメントすることにほかならない。

 さて,ITサービス産業に,マネジメント対象になるだけの企業活動方針,すわなち経営ビジョンがある企業はどれだけ存在するだろうか?その解は,営業プロセスマネジメントの成果が表れる今後の決算数字が教えてくれる。

(志度 昌宏=日経ソリューションビジネス)