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 最近のコンピュータ業界で,またまた新しい3文字キーワードが注目されている。それが「SMB(Small and Medium Business)」である。特に大手コンピュータ会社が中心に使っており,「我が社はSMB市場に本格的に取り組む」などといったキャッチ・コピーが聞こえてくる。

 このSMB,何のことはない,日本語に直せば「中堅・中小企業」である。「漢字で中堅・中小企業と書くと,どうも野暮ったいイメージだが,SMBと横文字になるとスマートで先進的な印象を与えそう」と考える人が多いのだろうか。

かつての大手都銀の姿に似ている市場

 もちろん,今までも多くのコンピュータ会社,特に地方や地元に拠点を置くような中堅・中小のコンピュータ会社はSMBを最初からターゲットにビジネスしており,いまさら新しいことではない。それが最近はSMBのキーワードで大手コンピュータ会社が積極的に乗り出している点が特徴である。既に市場の飽和感さえある大手ユーザーだけでなく,中堅・中小ユーザーまで固めようというわけだ。

 オフコンのサポート中止により,SMB市場はパソコンやサーバー,それにERPパッケージ(統合業務パッケージ)などを販売する新たな市場として魅力的に映っているのだろう。今まで中堅・中小企業に見向きもしなかった外資系コンサルタント会社まで,SMBに食い込もうとチャンスをうかがっているほどである。

 しかし大手のコンピュータ会社にとって,SMB市場の開拓は容易ではないだろう。そこには大手ユーザーでは経験したことのない,多くの難題が待ち受けている(詳細は日経ソリューションビジネス7月30日号の特集を参照)。

 記者は以前,弊社のIT経営の専門雑誌「日経情報ストラテジー」のほか,現在は休刊になっている「日経IT21」「日経アドバテージ」といった中堅・中小ユーザー向けのIT経営誌の編集部にも在籍し,多くの企業をIT経営の視点で取材した経験がある。現在のSMBブームを見ていると,かつて大手都銀が「リテール戦略」の名称で個人金融に進出して失敗し,結局はノウハウを持つ消費者金融と提携した姿に似ているのでは,と思う。

 なぜ難しいのか。その理由をやや極端に言えば,中堅・中小ユーザーには,大手ユーザーのような一般的なIT経営の考え方が通用しないからだ。この市場では,3文字キーワードは――ERPもSCM(サプライチェーン・マネジメント)もCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)も――無力である。

標準化できない部分に存在意義がある

 実際,こんな例がある。大手メーカーの下請けであるA社の場合だ。多くの製造業が中国移転する中,国内で頑張るA社だが,実は満足な生産管理システムもなく,人手で生産計画を組み替えている。それでも大手メーカーに信頼される理由は,大手メーカーの無理な依頼に十分に対応できる柔軟性だった。

 「大手メーカーはSCMでどんどん発注するが,キャンセルが多く,いきなり発注が来ることもある。分割発注,納入など当たり前。とても生産計画など立案できない。だからウチには生産計画システムなど必要ない」とA社の社長は語る。「システムで計画生産できる製品は中国企業の工場で大量生産している。今,国内に残る製造業は大手メーカーの無理に対応できなくては。そうした要求に対する処理はなかなか標準化できず,システム化も難しい」。

 A社の場合,システムに縛られると,逆にA社のメリットが生かせなくなる。システムが標準処理を大量に扱うことが目的ならば,ニッチな部分に存在意義を見出している中堅・中小ユーザーとは相容れないだろう。

 しかしA社の場合,すべての情報システムに期待していないわけではない。実はコミュニケーション系のシステムには大きな関心がある。例えばインターネットを使ったパソコン会議システムとか,構内PHSシステムのように必要な相手を素早く見つけてすぐに相談できるようなシステムである。これならば,A社が備える柔軟性のメリットをさらに発揮できるのでは,と社長は見ている。

新しい「知恵」が不可欠になる

 コンピュータ会社がSMBの市場を開拓するには,画一的なシステム内容ではなく,新しい「知恵」が求められるのかもしれない。特に経営戦略などを踏まえてシステム提案するなら,大手ユーザーと同じIT戦略を示しても意味がない。中堅・中小ユーザーならではのIT戦略が求められるだろう。

 そうなると,商談規模が小さいという理由で「大量かつ手離れよくシステムを売りたい」と考えるのは間違い。むしろSMBは手間がかかり,手離れも良くない。しかも商談規模が小さいとなると,売上金額に比例して評価される大手コンピュータ会社の営業部員にとっては「やる気」がなくなるかもしれない。営業部員のモチベーションを向上させる新しい評価体制やマネジメント方法まで問われる。安易なブームでSMBに乗り出しても失敗するだけだろう。

 とはいえ,日本経済の屋台骨を支える中堅・中小企業の経営改革は待ったなし。これを支えるのがコンピュータ会社であることは言うまでもない。自社の売り上げアップだけでなく,それだけの自覚を持ったソリューション提案が欲しいところだ。

(大山 繁樹=日経ソリューションビジネス)