PR

 米SCO GroupがLinuxの著作権侵害などを主張して起こした訴訟が話題にのぼることは少なくなった。一方で,オープンソース・ソフトウエアに関する特許侵害の懸念の表明するニュースが相次いでいる。

 8月2日,米Open Source Risk Management(OSRM)は,Linuxが283件の特許を侵害しているとして訴訟を起こされる可能性がある,という調査結果を公表した(関連記事)。

 米OSRMは,Linuxの訴訟リスクに対する保険を販売している企業である。ただし調査に当たったのはGNUソフトウエアを開発する米Free Software Foundation(FSF)顧問で特許監視団体米Public Patent Foundationの設立者Dan Ravicher氏だ。調査結果によれば「Linuxは裁判所に認められたソフトウエア特許は侵害していない」が,「まだ裁判所で有効性が判断されていないソフトウエア特許283件については,訴訟を起こされる可能性がある」。

 8月4日にはドイツのミュンヘン市が,特許侵害のおそれを理由として,1万4000台のLinuxデスクトップ導入計画を一時凍結すると発表した(関連記事)。Linuxにソフトウエア特許侵害のおそれがあり,特許料の支払いなどを求められる可能性がある,との市議会からの指摘があったためだ。

かねてから指摘されてきた特許への脆弱性

 オープンソース・ソフトウエアに対する特許のリスクは,弁護士の岡村久道氏など多くの専門家がかねてから指摘している(関連記事)。

 ミュンヘン市では8月11日にChristian Ude市長が記者会見を行い,ソフトウエア特許がはらむ問題を訴えるとともに「Linuxへの移行計画は継続する。一時中断して危険性の程度を明らかにする」と話した。

 欧米の報道によれば,特許侵害の危険性を分析したのは,Foundation for a Free Information Infrastructure (FFII)であるという。FFIIはソフトウエア特許に反対している団体であり,その目的はソフトウエア特許の危険性を示すためのデモンストレーションという見方もある。

 もともと欧州ではソフトウエアに特許を認めていなかったが,2003年9月にEU閣僚会議でソフトウエア特許を認める議案が可決された。この議案に対しては廃案を求めるデモが実施されるなど多くの議論を呼んだ。

 特許問題は,オープンソースに限らず商用ソフトウエアにも存在し,米InterTrust Technologiesに訴えられた米Microsoftは和解金として4億4000万ドルを支払っている(関連記事)。しかし,オープンソース・ソフトウエアではソースコードが公開されているため,特許を侵害しているかどうかの判定が容易だ。また無償で使用できるオープンソース・ソフトウエアの場合,誰がそのリスクを担うのかが問題となる。ミュンヘン市のような純粋なユーザーが訴訟リスクを負いかねない。

「法的リスクを保証する」ことをビジネスにする

 このような法的リスクは誰が負うべきなのだろうか。

 保険もあることはある。前述のように米OSRMが提供しているが,例えば100万ドルの保険に加入するには最大補償額の約3%,つまり毎年の3万ドル支払うことになる。しかも上記料金は著作権侵害に限定されたもので,対象を特許にも拡大すれば,さらに保険料は膨らむ。それだけの費用を負担してもオープンソース・ソフトウエアを使い続けるユーザーがいるだろうか。

 筆者は,ディストリビュータをはじめとするベンダーが「法的リスクを保証する」ことをビジネスにする以外,解はありえないのではないかと考えている。

 すでに米Red Hatや米Novell,米Hewlett-Packardは訴訟費用を負担する保証プログラムを提供している。

 しかし,現在の保証ですべての法的リスクをカバーできているわけではない。ミュンヘン市が採用したはNovellのSUSE Linuxである。それでも導入を中断したのは,Novellの免責保証プログラムは「著作権侵害が対象で,特許までカバーしていない」(ノベル日本法人)ためだ。

 しかし,リスクはある意味利益の源泉でもある。ベンダーには,ソースコードを調査するノウハウはある。出所の不明なコードや明確な特許侵害を排除してリスクをコントロールすることが可能だ。

 法的リスクに対する保証を提供することは,オープンソース・ソフトウエアにユーザーが代金を支払う動機になる。

ユーザーの役割は知的財産権活用の均衡点形成

 ユーザーがやるべきこともある。特許を含めた知的財産権制度の適切な策定と運用がなされるための働きかけだ。

 記者会見でミュンヘン市は「ソフトウエア特許を認めている米国では新規性のない発明に特許が付与されている。また,多くの特許を出願する資金力のある大手企業に有利な状況になっている」とソフトウエア特許を批判した。

 知的財産権は,イノベーションを促進し,その成果を社会に行き渡らせて公共の利益を最大化するために存在する。発明者がそのために払ったコストとリスクに見合う利益を得られなければ,研究開発への投資が促進されない。半面,それを過剰に保護することは,社会での活用を阻害する。

 最適な解は双方のバランスの上に存在する。その均衡点は社会のコンセンサスに基づく。コンセンサスを形作るのはユーザーを含む国民の役割である。

(高橋 信頼=IT Pro)