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 ICタグ(RFIDタグ)に関する情報が氾らんしている。昨年までは,一部の技術専門誌や新聞が紹介する程度だったが,今ではほとんどの全国紙やビジネス誌,生活情報誌までもが取り上げるようになった。少なくともITに関係する仕事をしていれば,「ICタグについて何も知らない」という人はほとんどいないだろう。

 では,この文章をお読みの皆さんは,ICタグのことをどの程度ご存じだろうか。以下に,ICタグに関する7つの質問を示す。答えを周りの人にきちんと説明できるかどうか,気軽に試していただきたい。

質問1ICタグとバーコードは何が違う?
質問2ICタグはリーダーとどのようにデータをやり取りする?
質問3ICタグの単価はいくら?
質問4今後はUHF帯ICタグが本命になる?
質問5ICタグに寿命はある? あるなら何年?
質問6ICタグは何個単位で購入できる?
質問7システム構築費用は一般的なシステムと,どの程度違う?

 いかがだろう。回答は本記事の末尾に示した。これらの質問を含むICタグに関する35の質問と,より詳細な答えは,日経コンピュータ10月4日号の特集「ICタグ35の疑問」をご覧いただきたい。

 白状すると,記者は少し前まで質問5,6,7については,何となく分かっていただけで自信を持って答えられなかった。

誤解や認識のズレが多い

 ここでICタグの質問を掲げたのは,「ICタグを巡る誤解や認識のズレを今から無くす努力をしないと,ICタグの実用化に支障をきたしかねない」ということをお伝えしたかったからである。上で示した7問は,ICタグを利用するうえで知っておいたほうがよい,極めて基本的なものである。少しでもICタグの実用化を考えているなら,答えられて当たり前の質問ばかりだ。

 ところが,現状では上記の質問に関してでさえ,さまざまな誤解や認識のズレがつきまとう。その典型が,質問3のICタグの単価に関するものである。この質問に対して,迷わず「5円」と回答してしまった人は要注意だ。

 経済産業省が今年8月にICタグの低価格化プロジェクト「響(ひびき)プロジェクト」を始動した(関連記事)。このプロジェクトで経産省が掲げた「1個5円」という数値目標だけがひとり歩きして,「ICタグの単価が5円になる」と信じている人が少なくない。実際,ICタグが5円になると報道したメディアもあるが,それは間違いである。

 正しくは,5円になるのはICタグの原材料である「インレット」の単価。インレットとは,ICチップとアンテナをセロファンなどで封止したもので,商品や箱に取り付けるタグ(札)として利用可能にするには,シール状やカード状に加工する必要がある。当たり前だが,加工すれば,その費用がインレットの単価に上乗せされるのでICタグの単価は5円を大きく上回ることになる。そもそも「少しでも多くの利益を出したいから,1個5円でICタグを販売することは考えにくい」と,複数のICタグ・ベンダーが明かす。

 ちなみに現時点のICタグの相場は,シール状のもので1個当たり50~100円,樹脂加工したカード状のもので200~300円程度である。

UHF帯ICタグが本命とは言い切れない

 質問4についても,多くの人が誤解していたり,人によって認識のズレが生じているように思う。「本命」という言葉の解釈に個人差があることを差し引いても,「UHF帯ICタグが本命になり,従来から使われている13.56MHzや2.45GHzはすたれる」と考えている人が意外と多いのではないだろうか。ちなみに,ここでいうUHF帯や13.56MHzなどは,ICタグとリーダーがデータをやり取りする際に使う無線の周波数帯を指す(注1)

注1(追記:2004-10-20):通常,電磁波の分類では「UHF帯」は300MHz~3GHzの周波数帯を指す。ただし,ICタグの分野では「UHF帯ICタグ」は433MHz帯,860M~960MHz帯を利用するICタグを指すことが多い。本記事中では,この意味で「UHF帯ICタグ」という用語を使用した。

 日経コンピュータの編集部に先日,読者から「今後はUHF帯ICタグが標準になるのだろう。それなのに13.56MHzや2.45GHzという古いICタグの話ばかり記事にするのはどうしてだ」という問い合わせがあった。似たような問い合わせはICタグ関連のベンダーにも寄せられている。複数のベンダーのICタグ担当者が「問い合わせを受けたときに『えっ!UHF帯ICタグを扱っていないの。おたくは古いね』と言われたことがある」と証言する。

 昨年末から最近にかけて,UHF帯ICタグがICタグ関連の話題の中心だったのは確かだ。総務省がUHF帯の950M~956MHzをICタグ専用に割り当てるために検討を続けていたり(関連記事),多くのユーザー企業が経済産業省の委託事業としてUHF帯の実験を行うことになっている。

 だからといって,ICタグの本命はUHF帯ICタグだと言い切ってよいのか。記者は以前にも,この問に対する考え方を日経コンピュータで書いたが,改めて「現時点でUHF帯ICタグが本命だと決めつけるのは早計だ」と強調したい。複数の周波数を使って検証してきたユーザー企業やベンダーの担当者,コンサルタントへの取材から,少なくとも,13.56MHzや2.45GHzが古くて使えないという認識は完全な誤解だと断言できる。

 現実には,ICタグとリーダーとの通信に使う周波数は用途によって使い分けることになる。成田国際空港におけるICタグ実験を主導する次世代空港システム技術研究組合の水野一男技術部長と,日本レコード協会の田中純一理事・事務局長はUHF帯や13.56MHzの実験をした経験から,「用途によってはUHF帯ICタグよりも13.56MHzや2.45GHzのほうがよいケースもある」と口をそろえる。

 一例を挙げると,棚にリーダーを設置して,その棚に収納した商品や書類の所在を管理する場合は13.56MHzのほうが使いやすい。この用途では,UHF帯の特徴である長い通信距離が,逆にアダとなる。ある棚に設置したリーダーの電波が別の棚にまで届いてしまうため,商品や書類の所在を正確に把握できなくなるからだ。電波の出力を小さくして通信距離を短くすればよいという見方もあるが,「それなら最初からUHF帯を使う必要がない」(ICタグ関連ベンダー)。