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 「ソフトバンク,家庭向け光通信検討。今夏にも,NTT回線活用」――。今から約6カ月前,4月28日付けの日本経済新聞で報道された記事の見出しである。皆さんは覚えておられるだろうか?

 ゴールデン・ウィークを挟んだその10日後,5月8日付けの日経新聞にも「集合住宅向け光ネット接続,ソフトバンクBB参入。月3500円,今夏にも」という見出しが躍る。

 ソフトバンクのFTTH(fiber to the home)市場参入は,それまでもずっとうわさに上っていた。5月10日にソフトバンクの決算発表が予定されていたので,この一連の報道を見ていた関係者の多くは「いよいよ正式発表か」と考えた。

 しかしフタを開けてみると,5月10日の決算発表では「FTTH提供に向けた準備は進めているが,参入時期などを言うのは時期尚早」と,孫正義社長がコメントするにとどまり,完全に肩透かしだった(関連記事)。実際にソフトバンクがFTTH参入を表明したのは,それから5カ月近くたった10月4日のことである(関連記事1関連記事2)。

 参入表明まで,一体何が起こっていたのか?

 自社の光ファイバを引き込んでもらうため,マンションのデベロッパーや管理会社には,FTTH事業者の営業が頻繁に訪れる。彼らにソフトバンクの動きを聞いてみると,やはり4月末の新聞報道と実際の参入表明のタイムラグには理由があった。

 10月4日にソフトバンクが発表したFTTH市場参入は「満を持して」などと報道されていたが,実際はそうでもなく,かなりの苦難の末の船出だったようなのだ。周辺取材から得た証言やこの間の業界動向を基に,ソフトバンクのFTTH参入までの苦闘を筆者なりに浮き彫りにしてみた。

本当は5月に発表するはずだったが・・・

 複数のマンション・デベロッパーやマンション管理会社の関係者は,「ソフトバンクは5月にFTTH参入の発表を予定していたが,発表直前に突如延期になった」と語る。出入りするソフトバンクBBの営業担当者からそう説明を受けたのだという。ソフトバンク関係者も,参入表明の延期については明確に否定はしていないので,この可能性は高い。4月末と5月初旬に,ソフトバンクのFTTH参入を報道する記事が出たのは,この動きをとらえたからだと推測できる。

 ではなぜ発表が延期になったのか?

 意外にも,そこには有線ブロードネットワークス(USEN)の存在があった。正確に言うと,USENが4月28日に発表した月額2980円の激安FTTHが影響を与えた(関連記事)。前述のデベロッパーや管理会社は「ソフトバンクBBが参入表明をしようとした矢先,USENが月額2980円のビックリ価格を出してしまった」と説明する。ソフトバンクBBの営業担当者が「USENのせいでFTTHの発表が延期になった」と漏らしていたのだという。

 これだけが理由ではないのかもしれないが,延期を検討するには十分な要因だっただろう。ソフトバンクといえば,高速性と破格の値段を引っさげてADSL(asymmetric digital subscriber line)に参入した当時の,鮮烈なイメージが依然として強い。「USENが2980円のFTTHサービスを発表した直後に,ソフトバンクがそれよりも高い料金のFTTHサービスを発表するのでは,あまりにもインパクトに欠ける」(ソフトバンク関係者)というのである。ADSL(asymmetric digital subscriber line)の価格破壊を引き起こした立役者だというプライドにもかけても,そのタイミングで参入表明はできなくなったということか・・・。

 マンションに多くの営業担当者を出入りさせているUSENが,ソフトバンクのFTTH参入の動きを察知していなかったはずはない。これはあくまで筆者の想像だが,USENは,ソフトバンクの出鼻をくじくために,あえてその時期に格安FTTHをぶつけたのではないか。

 USENが格安のFTTHを発表した4月28日には,NTT東西地域会社もFTTHに関する重要な発表をしている(関連記事)。「03」などの市外局番で始まる既存の電話番号(0AB~J番号)が使える,マンション限定のIP電話サービスの認可申請である。ソフトバンクのFTTHでは,今でも0AB~J番号が使えるIP電話サービスを提供していない。USENの2980円FTTHだけでなく,これもソフトバンクがFTTH参入延期を決める要因になった可能性がある。

 ソフトバンクが戸建向けFTTHの切り札として導入するGE-PON(1Gビット/秒に対応したFTTH装置)の大量調達と東西NTTとの接続協定については,4~5月時点でまだメドがたっていなかった。そのため,試験サービスを以前から進めてきたマンション向けFTTHを先に始める予定だったのではないかと筆者は推測している。

 価格,機能ともに競合他社に劣る状況でマンション向けFTTHに参入するなら,「世界初」をアピールできるGE-PONを使った戸建向けサービスを展開できるまで,マンション向けの提供も待とうと戦略を練り直したのではないだろうか。

「ファミリーネットを57億円で買収」の謎

 マンション向けFTTHの参入時期の変更を余儀なくされただけでなく,ソフトバンクは,サービス開始後のスタート・ダッシュをくじかれる事態にも遭遇している。