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 10月23日午後5時56分,新潟県の中越地方で強い地震が発生。川口町では震度7という強烈な揺れが襲った。

 筆者は地震による企業ネットワークやシステムへの影響を取材するため,2日後の25日に羽田空港から臨時航空便で新潟に向かった。いったんは東京に戻ったが,延べにして8日間,大きな被害を受けた小千谷市と長岡市,そして新潟市,中之島町,白根市での企業や自治体の方を取材させていただいた。

 取材を通して,企業や自治体は基本的なところから災害対策を今一度見直すべきだと感じた。

 一つが停電時の電源確保である。地震発生と同時に被災地とのその周辺では「近年まれにみる規模」(東北電力)での大停電が起こったのである(注1)。もっとも企業や自治体のサーバーの大部分は無停電電源装置(UPS)を装備していたため,正常にシャットダウン。多くが事なきを得た。土曜日ということもあって,稼働していなかったサーバーも多かった。

 しかしその後,新潟県内の19の市町村でバッテリーを確保していなかったため,防災無線が使えないという状況に陥っていたことが判明した(関連記事)。さらに携帯電話では地震発生後数時間から1日を経過したころから,基地局の予備バッテリーを使い果たした局が停止に追い込まれ始めた(関連記事)。

注1:ちなみに「単純に停電といってもさまざまな要因が組み合わさって起こる」と東北電力の広報の方が教えてくれた。地震の揺れによる変電所設備の損壊を回避するため安全面から送電停止を停止する場合もあるし,土砂崩れで電柱などの設備が押し流されたり,送電の幹線が切断されたりする場合もある。さらに電柱の上にある送電設備の損壊など,さまざまな要素が複合的に組み合わさり,停電となるのだと言う。また,「阪神淡路大震災の教訓で,給電の再開には慎重を期した」と言う。

 もう一つの課題が,スタッフの安否確認の手段や方法である。被災地に拠点を抱える会社や団体が地震発生と同時にまずとりかかったのが,従業員の安否の確認。小売業であれば「第一に顧客の避難」(大手スーパー,原信の経営企画部業務企画担当の我伊野治氏)が極めて大事である。

 被災地とその周辺の企業や自治体は,電源の確保や安否の確認でギリギリの対応を迫られた。こうしたユーザー,通信会社,自治体それぞれの担当者の奮闘について,日経コミュニケーションの11月15日号で緊急レポートを組ませていただいた。本誌読者の方には多少重複する点もあるが,ここでは「震災時の緊急連絡手段」について現地で実際に採られた対応と,それを踏まえた教訓を紹介させていただきたい。

優先電話でさえもかかりにくく

 今回,NTTの加入電話/ISDN,各社の携帯電話は,「震災の直後は10回かけて1回かかればいいという状況」(新潟を営業基盤とする大手ホームセンター,コメリ秘書室の早川博シニアマネジャー)と,極めて使いづらい状況となった。

 電柱の倒壊や回線の切断によるサービスの中断もあったが,多くがトラフィックの集中によって通信会社が大幅な通信規制をかけたためだ。携帯電話では「県外から新潟県内へ通常の45倍」(NTTドコモ ネットワークテクニカルオペレーションセンター一場政美所長),加入電話/ISDNでは「県外から新潟県に通常の50倍」(NTT東日本 ネットワーク事業推進本部災害対策室の東方幸雄担当部長)という状況が地震発生直後から約1時間続いたためだ(注2)

注2:加入電話/ISDNの規制は主に,かける側の電話局で被災地の局番への通話を制限するもの。ただしかける側の規制を潜り抜けても,受ける側の電話局の交換機が手一杯であれば加入電話/ISDNはつながらない。携帯電話の場合は,これらに加えて基地局の電波のチャネル数を超えれば,発信できなくなる。

 一般の加入電話/ISDNよりも優先的に使える緊急電話でさえも「3回に1回はかからなかった」(金融機関)というほどだった。

 これら非常時の問題は,阪神淡路大震災など大規模な災害で繰り返されてきたことだ。ただ阪神淡路大震災は約10年前。ユーザーが少なかった携帯電話が連絡手段として活躍していた当時とは,通信を取り巻く状況は変わってきている。NTTは阪神淡路大震災を教訓に,災害用の伝言ダイヤル(171番)を98年3月から運用し始めたりしている。11月1日現在で約35万件もの利用があり,新たな連絡手段として再認識された。

地震直後もIP電話はつながった

 加入電話とISDN以外の連絡手段として,やはりIP電話が注目される。

 新潟県内に展開する小売業A社は,IP電話を使っていた。同社の担当者は北海道の同業者から「地震で普通の電話がつながりにくくても,IP電話は使えた」との話を耳にしていた。そして今年の1月。コスト削減との合わせ技でIP電話の導入に踏み切った。それから1年も経たずに地震が発生。震災の直後でも, IP電話で新潟市と被災した長岡市の店舗との間で問題なく通話ができていたという(注3)

注3:企業によっては,震災の発生が土曜日の夕方だったのでオフィスに社員がいなかったというところも多かった。そのためIP電話や内線にVoIP(voice over IP)を導入していても「使えていたかどうかは確認できない」(大手食品メーカー,金融機関)と答える取材先の方も少なくない。

 加入電話/ISDNと携帯電話がつながりにくいのは,震災直後だけではなかった。朝の時間帯はその日にするべき作業の連絡,余震時には安否確認で,いずれもつながりにくい状態が続いていた。藤田金属は全国の拠点にIP電話サービスを導入。システムの担当者は「加入電話がつながりにくい状態でも,新潟市内の本社と長岡の拠点で,IP電話で何の問題なく通話ができた」と証言する。

レジが停電を自動連絡,携帯には安否確認メール

 非常事態の発生をシステムが察知し,警告を自動的に送信するようにしている企業もある。

 コンビニエンスストア・チェーンのローソンでは,震災や停電の発生と同時に危機管理システムが一斉に稼働する。FCサポート本部業務部吉田浩一シニアマネジャーの説明には正直言って驚いた。

 まず地震が起きるなどで停電すると,その店舗のPOSレジは予備バッテリーによる運用にスイッチ。同時に本部に対し,レジ自身が停電の発生をISDN経由で送信する。この時点で本部の側が店舗に異常があったことを察知。実際に「今回の震災で停電した店舗から本部にきちんと警告が上がった」(吉田シニアマネジャー)という。

 地震に特化したシステムもある。震度5強以上の地震が発生すると,社員の携帯に安否確認のメールを自動送信するのである。今回は「新潟県内の社員には安否確認,それ以外の社員には地震発生を伝えるメールが自動的に送られた」(吉田シニアマネジャー)という。これを見た社員が,メールで安否を返信する。サービスは専門の会社が行っているものだ。

電話以外のインフラは本当に強いのか

 ここまで各社の“電話以外”の連絡手段を見てきたが,本当に震災に強いのか――と細部に疑問をお持ちの読者もおられるだろう。

 具体的には,
(1)激震の中,小売業A社の通信サービスは動いていたのか
(2)IP電話は停電したら使えないのではないか
(3)ローソンのレジがつながっているISDNは規制されなかったのか
(4)ローソンの携帯メールは規制されなかったのか
といった4点が挙げられる。順に説明をさせていただきたい。