今年の8月,本コラムでも紹介させていただいた「パソコン活用大賞」(記事へ)。日経パソコンが主催し,パソコンを業務に活用することでコスト削減,業務の効率化,プロジェクトの成功といった成果を上げているユーザー,職場を探して表彰しようという企画だ。

 大規模案件ではなく部課単位,ユーザーから半径数メートルの取り組み,すなわち「エンドユーザー・コンピューティング(EUC)」の推進者にスポットを当てるのが狙いである。スタート当初は本当に応募者が集まるのかと,不安でいっぱいだった。だが,皆さんのおかげで,約3カ月の募集期間に177件もの活用事例をお寄せいただいた。改めてお礼を申し上げたい。

新しい時代の情報化リーダー

 応募者の企業規模は,個人事業者から中小企業,大企業までさまざま。営業,エンジニア,教育関係者,医師,地域ボランティアなど,職種も仕事の内容も幅広い。ただ,共通しているのは,パソコンを活用して仕事を改善しよう,生産性を高めよう,という強い意欲である。

 どの応募にも甲乙はつけがたかったが,2段階の選考で大賞を決定した。まずは日経パソコン編集部で書類選考と取材を実施。これを通過した事例について審査員が討議し,受賞者を選んだ。

 一次審査を通過したのは12の事例。その中で大賞を射止めたのは,広島県に本社を置く老舗の洋家具メーカー,マルニ木工の佐々木一成氏だ。佐々木氏が応募したシステムは2つ。オフコンなどで管理している商品情報をExcel上で呼び出してカタログや提案書,見積書などを作成できるシステムと,オフコンにある在庫や売り上げなどのデータをメールで自動配信するシステムだ。

 両システムとも現場の要望をベースにしたものであり,オフコンのデータを生きた情報として現場に流す仕組みである。なかでも秀逸なのは,Excelやメールなど既存のツールを組み合わせる独自のアイデアを盛り込んでいる点。現場のユーザーを第一に考えた分かりやすさも魅力だ。モバイル活用で仕事の幅も広がっている。こうした点が総合的に高く評価され,大賞にふさわしいと判断された。

 当初,本大賞は,自分たちの仕事の生産性を上げるためにシステムを活用した営業など現場の人に贈ることを想定していた。ところが佐々木氏はシステム担当者である。それでも,ユーザーとシステム部門が協力していく「新しい時代のシステム担当者,情報化リーダーの一つのあり方を見せてくれた」と,審査員の意見が一致,大賞を贈ることになった。詳しくはパソコン活用大賞・受賞事例のページをご覧いただきたい。

全体計画に基づいているか

 審査会では,新しい時代の情報化リーダーのあり方について随分と議論が交わされた。例えば,「現場がやみくもにシステムを導入してよいのか」という議論。現場が作ったシステムが,会社全体のシステム化のロードマップに乗っているかどうかは,常に検証されるべき,というわけだ。

 実際,応募事例のなかには「上司には理解されていない」というコメントが付いたものが少なくなかった。これらについて,審査員からは「全体計画に基づかないシステム化は短期的な投資に終わる。しばらく経ったら作り直しということになりかねない」という,ある意味,辛口の指摘も寄せられた。

 一方で,審査員の共通した見解として,社内の部署と部署,もしくは営業と顧客といった関係を「つなぐこと」の大切さも挙げられた。システムの広がりがあれば,ビジネスの変化に応じた将来の発展や拡張を考えることもできる。

 こうした議論を踏まえて,日経パソコン,インテル,マイクロソフトはそれぞれの名前を冠した部門賞を選定した。

 日経パソコン賞には,真空ポンプの開発製造を手掛ける樫山インスツルメンツの立岩俊彦氏が選ばれた。立岩氏は,東京や大阪,名古屋など各地の営業所と長野の工場を横断的にシステムでつなぎ,真空ポンプの修理発注から工程管理,履歴の分析まで可能な仕組みを構築。従来は場当たり的に人手に頼っていた業務の流れを整理,効率化させ,生産性を格段に向上させた。

 インテル賞には,営業と顧客をつなぐ手段として,無線LANを核にしたシステムを活用した悠大興業の渡辺充氏が選ばれた。同社は,ビル清掃用具の販売やビル管理の事業を手掛けている。インテルは,オフィス内での無線LAN利用はもちろん,外出先でのノート・パソコンの活用で営業効率をアップさせたことなどを高く評価した。

 マイクロソフト賞には,紳士肌着の営業支援システムを構築したグンゼの元木雄一朗氏,村田洋一氏の事例が選ばれた。両氏は,ビジネス向けのグラフィックス・ソフトとして知られるマイクロソフトの「Visio」というソフトを活用。ホスト・コンピュータと連携させて,営業提案から生産発注までできるシステムを構築した。その結果,1シーズンで1億円の在庫圧縮を実現した。

ちょっと裏話

 ここまでは大賞のご報告だが,少し,審査の裏話も紹介しよう。一次選考で応募内容を記者が読み,「これは!」と思った応募者に編集部からコンタクト,実際に取材という手順を踏んだのは前述の通りだ。この一次審査に進んだ応募者は実は12人ではない。あと3人,一次審査通過者がいた。

 この幻の一次審査通過事例,いざ取材という段階で会社や上司からストップがかかってしまったのだ。具体的な事情は各者各様だ。編集部としては,公表内容に関しては最大限配慮すると申し上げたが,残念ながら取材はかなわなかった。

 業務システムを公表することをためらう会社側の気持ちや理屈もよくわかる。本業への直接のメリットはないという判断なのかもしれない。が,現場の志気を鼓舞し,やる気を引き出すという判断があってもよかったのではないだろうか。これもエンドユーザー・コンピューティングの一つの現実なのかもしれない。

(本間 健司=日経パソコン)