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 少し前の話になるが,日経ソリューションビジネス2004年12月15日号に「戦略的失注のススメ~“危ない”案件撲滅大作戦」という記事を書いた。ここ数年,数多くの赤字案件がソリューション・プロバイダの経営を圧迫したが,当事者の多くは「根本的な問題は受注プロセスにあった」と証言している。そこで「組織的戦略としての失注」を議論したいと思ったからだ。

 取材を進めるうち,あるシステム・インテグレータの敏腕営業マネージャが,「取材の趣旨とちょっとずれるけど」と前置きした上で語ってくれた話が面白かったので,ここで紹介する。「“危ない”案件撲滅大作戦 ~個人編~」とでも名付けようか。今日からでも始められる現場視点のリスク・ヘッジ法だ。

“危ない”案件撲滅大作戦 ~個人編~

――“危ない”案件の見分け方を聞きたいんですが。

 IT業界に限らず,1000万円とか1億円を超えるような高額の耐久消費財の営業に共通するのは,何と言っても支払い関連のリスクでしょう。「支払いの話になると怒る,機嫌が悪くなる」という客は要注意です。

 上場企業だから安心ということもありません。事業部長やら部長やらが単独で動いていることも多いので,全社としての与信は見えても,実質的な与信は分からない。帝国データバンクなどの会社情報だけを頼りにしていては,自分の会社を守れないということです。客にはどんどん「金,決算書,財務諸表を見せろ」と言うべきです。「言いにくいけど,そこを言え」と部下には言っています。

――他にはどんなリスクが?

 危ないパターンは主に3つ。1つめは犯罪に巻き込まれること。2つめは客や外注企業などが倒産すること。3つめはプロジェクトそのもののリスクです。この中で営業が特に気を付けるべきは1番目と2番目でしょう。

 まず犯罪の場合は,相手もだまそうと仕掛けてくるので,見分けるのは難しい。財務諸表なんかも快く見せてくれます。粉飾していますから。社印も少し時間はかかるけど押してくれる。これも偽造していたりします。社印がいつも総務の机の上に置いてあるというような,管理がずさんな会社もありますしね。

 知り合いの経験ですが,大手外資系メーカーの代理店の店長に頼まれて,国産メーカーのパソコンを卸したそうです。で,代金回収に行ったらその店長がドロンしていた。このときは相手が社印を偽造していました。

 別の話ですが,上場企業の役員に「新会社を作るから頼む」と言われてパソコンを卸したケースでは,最初は現金取引から始まりました。その次は半分手形で半分現金。最後は期末の押し詰まった時期にすべて手形で来た。そしてドロンです。また,少し前に関西で起きた3億円規模の詐欺事件では,多くの会社がパソコンで1000万円ぐらいずつやられました。中小ディーラでは,これで潰れたところもあるんじゃないかな。

 こういう時,「工事業者はどこですか?」などとさりげなく聞いておくといいんですが,相手が怒るので聞けないんですね。チェック・ポイントとしては,「先方のオフィスできちんと話ができているか?」「アポなしで急に顔を出しても不自然なことはなかったか?」といったことがあります。お菓子を持って「近くに来たので」と言えば,何も不自然なことはないんです。その際は,いつもと違うやり方で相手を呼び出すといい。例えば,普段直通電話で呼び出すところを,総務や代表電話から呼び出してもらうとかね。

――お客さんの倒産も怖いですね

 ええ。でも実は客以上に怖いのが外注会社の倒産です。本来,ITサービス企業は倒産しにくいけれども,身の丈に合わない商売を始めるような会社は危険です。こういう会社は,例えば客に対して債務保証をしてしまっていたりする。お金の話は最初からきちんとしておかなければいけないのに,後からリースが使えないことが判明して債務保証してしまう。それで客が倒産すると手元資金が吹っ飛ぶというわけです。

――どうやってその兆候を知るんですか?

 経営が危ない会社では,営業担当者が急に茶髪になったり,それまできちんとしていたSEが遅刻するようになったり,アポイントメントがころころ変わったりしますね。

 それと,結局は皮膚感覚的なところが大きいんですが,例えば応接室や受付にある熱帯魚の水槽とか観葉植物がなくなる,置いてある雑誌や新聞の日付が古くなる,アシスタントさんが新顔になる,担当者の身なりが変化する,オフィスが何とはなしにざわざわしているといったことです。会社にとって,こういう皮膚感覚を持った営業を育てることはとても重要です。

 ですから,客にしろ外注企業にしろ,ノーアポでひょっこり訪ねることはリスク管理面から見てもすごく大事なことです。お菓子持って「時間が空いたもので・・・」と言って行けばいいんですから。ぜひいつもと違うルートでね。「下請けだから」とか「小さい会社だから」といって行かないような営業マネージャは失格です。

 どうだろうか。システム営業の話ではあるが,結構応用範囲は広そうだ。記者業にも効くかもしれない。

(佐竹 三江=日経ソリューションビジネス)