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 日経ITプロフェッショナル2月号で,「Linuxの基礎と実力」と題した特集を掲載した。直接のきっかけは,昨年の半ば以降,多くのITベンダーが,大規模なトランザクション処理システムに代表されるミッションクリティカル・システムへLinuxを適用するための取り組みを,相次いで始めたことだ(関連記事,NECSGISAPIPAなど)。約1年前の2003年12月に公開された「カーネル2.6」を採用した主要なLinuxディストリビューションが2005年に出そろい,いよいよ実戦に投入されることも大きい。

 実際,性能や拡張性といったミッションクリティカル・システム向けOSとしてのカーネル2.6の実力は,今や“先輩OS”である商用UNIXに迫りつつある。もちろん,現在最も普及しているLinuxカーネルのバージョンである「カーネル2.4」でも,ミッションクリティカル・システムを構築した事例はある。しかし商用UNIXと比べると,スケーラビリティや処理の信頼性など,ミッションクリティカル・システムを構築したり安定運用するうえで,実力不足な点が多い。

 カーネル2.6の登場とともに見逃せないのが,Linuxの主要なプラットフォームであるIAサーバーの性能向上である。ベンチマーク・テストの業界標準TPCを見ると,オンライン・トランザクション処理性能の指標であるTPC-Cでは,常にトップ10の半数近くをIAサーバーが占める。1ドル当たりの性能では,今や上位10傑はIAサーバーの独壇場だ。

 こう見てくると,コスト・パフォーマンスの高いIAサーバーを基幹系のプラットフォームとして採用し,そのOSとしてカーネル2.6ベースのLinuxを利用するケースは必ず増えるはずである。ITエンジニアが今後Linuxを使ったシステムを提案・構築することも増えるだろう。そのときに,ユーザー企業がLinuxに対して抱えている「期待」と「不安」に理路整然と回答できるよう,Linuxを基礎から理解しておくことは欠かせない。

安くなるとは一概には言い切れない

 ユーザー企業がLinuxに抱く最も大きな「期待」は,コスト・パフォーマンスである。実際,多くのITベンダーやシステム・インテグレータは,「ユーザー企業の情報システム担当者から,Linuxに関する相談を持ちかけられるケースが,ここ1年ほどで大きく増えた」と口を揃える。しかも,新聞でLinuxを「無償公開の基本ソフト」と知った経営層から「コスト削減のためにLinuxを使え」と言われ,ITベンダーやシステム・インテグレータに相談を持ちかけられることが多いそうだ。

 確かに,商用UNIXと比べると,安価なIAサーバーを利用できる分初期投資は大幅に抑えられる。さらに,Linuxカーネル自体は無償で手に入るし,無償で公開されているLinuxディストリビューションも多い。

 しかし,無償で公開されているLinuxディストリビューションを,コスト削減のためにミッションクリティカル・システムに適用するのはムリがある。品質保証を行っていない場合があるからだ。Linuxをミッションクリティカル・システムに採用する際は,きちんと品質保証されたLinuxディストリビューション・メーカーが販売するLinuxディストリビューションを利用し,OSの障害も含めた保守・運用サポートを受ける必要がある。そうなると当然,保守サポートや運用を含めたTCO(総所有コスト)が,商用UNIXやWindowsと比べて大幅に安くなるとは限らない。

 ITベンダーやシステム・インテグレータの間でも,「ミッションクリティカル・システムの場合,Linuxを使ったからといってWindowsやUNIXに比べてTCOが下がるとは,一概に言い切れない」というのが,一致した見解だ。

 LinuxのTCOを考える上で話題になったのが,米マイクロソフトが展開した“反Linuxキャンペーン”である。同社はその名も「Get the Fact(事実を知ろう)」と題して,調査会社IDCなどのレポートを引用しながらLinuxとWindowsのコストやリスク,セキュリティなどを比較した。それによると,ネットワーク管理,ファイル共有,プリンタ共有,セキュリティ管理,Webサイト管理の5つの用途に関して,4種類でWindowsのTCOがLinuxを下回ったという(マイクロソフトのサイト「Get The Fact」)。

 もちろん,この結果だけをもってWindowsの方がLinuxより「お得」と結論づけることはできない。キャンペーンの背景には,台頭し始めたLinuxに対する危機感と,Windowsのシェア低下を食い止めたいマイクロソフトの思惑があるからだ。大手Linuxディストリビューション・メーカーの1社であるノベルも,「同レポートではLinuxの優れた点も挙げているにもかかわらず,マイクロソフトはそのことに言及しておらず,比較内容がフェアではない」といった内容の反論コメントを発表している(ノベルのサイト「確固とした真実」)。

 システムのコストは初期導入費用だけで判断すべきでない。言い古された議論ではあるが,Linuxベースのシステムを提案・構築する際も,保守サポートや運用,ユーザー教育などを含めたTCOを考慮する必要がある。仮に有償のサポート・サービスを利用せず,ユーザー企業自身がトラブルに対処することを選んだとしても,そのために費やす手間や時間は“コスト”になるのだ。

Linuxの実力と限界を知る

 一方,ユーザー企業がLinuxに抱く「不安」の最たるものは,ミッションクリティカル・システムでの実績,稼働後のトラブルなどに関するものである。実際,先駆けてLinuxでミッションクリティカル・システムを構築したケースでは,システムの設計や安定運用に相当な苦労があったようだ。IT Proでも何度も取り上げたUFJ銀行グループの事例では,前例のない挑戦だっただけに,噴出する問題に自ら取り組んだという(関連記事)。

 カーネル2.6の登場で,かなり機能が向上したとはいえ,まだ商用UNIXやメインフレームと比べると,力不足な点は多い。その1つが,1台のサーバー上で複数のOSを同時に実行する,いわゆる「仮想マシン機能」への対応である。ハードウエア資源の動的な再配分など,仮想マシン機能のメリットを最大限に活用するには,Linuxカーネルが仮想マシン環境と効果的に協調動作できなければならない。これは現状のLinuxカーネルに足りない点であり,将来のバージョンで強化が図られる見込みだ。

 ミッションクリティカル・システムに採用するOSを選ぶ際には,慎重の上にも慎重な判断が必要になる。ミッションクリティカル・システムにLinuxを提案するときに,「大丈夫です」,あるいは「いえ,その業務はLinuxには荷が重いでしょう」と自信を持って言うためには,TCOやLinux自体の機能を十分に考慮すべきである。例えば,顧客の業務に求められる性能や拡張性,信頼性はどの程度のものなのか,Linuxはその水準を達成できるのか,その裏付けは何か,導入コストはどうなるのか・・・。

 顧客が抱える問題に対して,明確な根拠をもって冷静に“ソリューション”を提案できてこそ,プロのITエンジニアと言える。そのためには,すべてのITエンジニアがLinuxを基礎から知ることが必須になってきている。もはやLinuxを「知らない」では済まされない時代になったことだけは確かだろう。

(玉置 亮太=日経ITプロフェッショナル)