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 最近,ブロードバンドを利用できない地域を取材する機会があった。ブロードバンドを使えることと使えないことの違いで生じる格差,いわゆる「デジタル・デバイド」(注1)の環境下にある自治体やそこの住民,企業などに話を聞いたのだ。

注1:デジタル・デバイドという用語は「パソコンを使えないため入手できない情報がある」など,他の意味で使われる場合もある。

 1月26日,北海道の女満別空港に降り立つと,温度計はマイナス18℃を示していた。この日の目的地は,オホーツク海に面する小清水町。同町ではこの日,4月に全域でサービス提供がはじまる無線ブロードバンド・サービスの設備工事が行われていた。筆者は,工事の模様と町役場,通信事業者の取材に出向いたのである。

 現在,小清水町にはブロードバンドを使えない地域がある。最初に訪れた町役場で,企画財政課の村上信二・企画振興係長はこう訴えた。「町内にはブロードバンドを使える地区と使えない地区がある。ブロードバンドを使えない地区に,帳簿をパソコンで付けていてインターネットも使っている,産直販売のWebサイトを作りたいといった農家の方々がいる。こうした住民もブロードバンドを必要としている」

 その後,無線の基地局工事の模様を見学させてもらった。作業の合間を見て,昼食を取りながらワイコムの秦野仁志・代表取締役社長にインタビュー。ワイコムは,北海道内の人口密度が低い地域を中心に,無線ブロードバンド・サービスを展開している通信事業者である。

 聞くとやはり,デジタル・デバイドの現状は深刻だ。「道内の一部にはISDNを使えない地域もある」「家ではブロードバンドを使えない農家の人が,サービスを使える場所まで車で来て,Windows Updateなどをしてまた帰っていくといったケースがある」といった話が出てきた。

 基地局工事は午後も続く。この日小清水町は晴天だったが,14時を過ぎると冷え込んできた。15時に温度計を見るとマイナス10℃。無線アンテナを取り付けるために鉄塔に登っている作業員の方は,相当低い体感温度下で作業をしていたはず。作業関係者にブロードバンドへの情熱と執念を見た気がした。

Bフレッツが開通した「我が村」のこだわり

 翌1月27日,筆者は富山県の舟橋村に移動した。この日村役場では,無線を併用するタイプのBフレッツの開通を記念した式典を開催。その模様は「我が村に“新型Bフレッツ”がやってきた」富山で開通式としてお伝えしている。

 開通式の前に,総務課の吉田昭博係長に話を聞いた。同村は富山市の隣にある人口2600名の村。1991年~92年ころの人口は1400名だったという。宅地造成が続き,人口が増えている。

 「新しく家を構える方は富山から来た人がほとんど。インターネットは生活の必需品であって当たり前という認識なのかもしれない」と吉田係長は説明する。「2003年から,他の市町村で提供されているCATVインターネットを,舟橋村でも使えるようにしてほしいといった電話が頻繁にあった。1日に3~4件に達した日もある」と振り返る。

 しかし,最初に村内でのサービス提供を目指したCATVは補助金が下りず,ADSLも装置を置くスペースがないことで,提供をあきらめるしかなかった。

 今回のBフレッツ導入にはこんな経緯があった。当初,村役場はNTT西日本富山支店から「基地局1つ分ならBフレッツを提供できる」と言われたが,何とか全域での提供を実現したかった。そこで住民アンケートを実施。その結果,120件程度の加入があると見込むことができた。村役場はそれを,NTT西日本富山支店を説得する材料の一つにしたのである。

デジタル・デバイド問題は全国に

 ブロードバンドを使えない地域は,他にも数多くある。しかもデジタル・デバイドは,時間の経過とともに広がっていく。ブロードバンドは,通信事業者の競争や技術革新によって通信速度がさらに増していくが,それがなければISDNかダイヤルアップのままである。

 NTT東日本の尾崎秀彦・経営企画部営業企画部門長は「時期は不明だが,いつかはFTTHが来ることになるだろう」と話す。昨年11月に,NTT持ち株会社は「光3000万回線計画」を発表した(関連記事)。この計画が進むと,メタル回線と光ファイバを二重に維持しなくてはならないためコストがかさむ。つまり電話だけ使う人でも光ファイバにした方がいいということに,いずれはなるというわけだ。

 だがまさに今,インターネットを仕事で使う人(もちろん私用で使う人も)が全国にいる。出張取材の中では,ブロードバンドを使えるようになった地域の地元企業から話を聞く機会もあった。すると「仕事先から受け取るCADのデータ・サイズが大きいためにCD-Rで郵送してもらわざるを得なかった」「Webを見て顧客からの問い合わせに答えようにも表示が遅い」といった苦労談がいくつも出てきた。こうした人々は,いつ開通するか分からないブロードバンドを待ち続けるわけにはいかない。

 だが,採算が取れない地域でサービスを提供することは難しいというのが通信事業者の実情。そこでこうした地域では,「採算性が取れるラインまで,自主的に加入者を募る」「採算性が合わない分を,補助金を出したり地域イントラネットを開放することで補填する」といった策が必要となる。

 そして地域によって最適な策は違う。例えば,補助金を適用すればデジタル・デバイドが解決するとは限らない。都道府県ごとなど地域によって,補助金制度の有無が異なるためだ。ブロードバンドを使えない地域一帯の世帯数が少ないために,加入希望者を集めることが難しいケースもある。こうした地域では,少しでも多くの住民にインターネットへの興味を持ってもらうところから取り組みを進めていたりする。

 今回,国内各地を取材して回ったのは,日経コミュニケーション3月1日号の特集でデジタル・デバイドの現状と,その問題の本質を探るためだった。誘致に成功した地域の自治体や住民は,それぞれの地域に合った形で地道な努力と積極的な協力を積み重ねている。こうした取り組みから得られるノウハウも少なくない。

(山崎 洋一=日経コミュニケーション)