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 前回までの動かないコンピュータ・フォーラムでは,皆さんが実際に経験された動かないコンピュータの事例を中心に議論を進めてきた。例えば昨年7月に公開した「『動かないコンピュータ』からは脱出できない,陥らないことが重要」では,皆さんから寄せられた「動かないコンピュータに直面した場合の対処法」を取り上げた。

 ここで紹介したように,個別のプロジェクトにおいて,個々のユーザー企業やベンダーが動かないコンピュータをなくすために取り組み,問題を解決できる場合もある。だが,ユーザーかベンダーかを問わず,一企業の取り組みには限界がある。

 そこで今回は少し視点を変え,ITにかかわるものすべて,言い換えれば業界全体が協力し,何ができるかを考えてみたい。

なかなか進まないトラブル処理,悲惨な実態

 こういったテーマでを取り上げてみようと思った理由はいくつかある。一つは,例によって取材の過程で聞いたある動かないコンピュータについての話だ。

 ある大手企業の話だが,基幹系システムの開発がうまく進まず,ユーザーもベンダーも対処に追われることになった。ここまではよくある話だ。本来なら当初予定の稼働時期から少し遅れるだけでシステムが稼働する可能性もあったのだが,実際には大きく完成が遅れることになった。トラブルの責任がユーザーとベンダーのどちらにあるか,追加費用をどちらが負担するかという話し合いがまとまらなかったことが理由である。

 予定していた稼働時期を過ぎても,ユーザーとベンダーの話がまとまらず,結局は数カ月にわたってほぼ完全に開発がストップしていたという。結局,両社の間で責任の所在が明らかになりプロジェクトの進め方が決まるまでに,半年以上がかかった。このプロジェクトは現在も開発中である。

 実は,記者はこの話と非常に似たトラブルについて,何年も前に取材したことがある。少なくともこの間,システム開発の解決法に関して業界に大きな変化はなかったわけだ。トラブルが起きるたびに,当事者間で気の滅入る交渉を続けて,問題を解決しているのが現状なのである。

 少しレベルは違うが,トラブルの渦中にあるベンダーの担当者の苦労を立て続けに知ったこともきっかけになった。

 あるベンダーの担当者は,稼働させたシステムに不具合が多発したため,ユーザーと事後の交渉を進めるための会合を持った。席に座ろうとしたその担当者は,怒り心頭に発したユーザーから「座るところが違うだろう」と言われ,床に正座したままで交渉を進めた。

 別のベンダーの方はずっと座れなかった経験について語ってくれた。ある製造業のユーザーで,稼働していた受発注システムが突然障害を起こし,何日間か取引先との受発注ができない状況になった。このベンダーの方はこの間,不眠不休に近い形で問題の処理に当たったが,トラブルは収束しなかった。トラブル発生から数日後,ユーザーの担当者と対応策を練る打ち合わせを開くことになったが,「問題が解決するまでは座るな」と言われ,もうろうとした頭で立ったまま打ち合わせをこなしたのだそうだ。

 トラブルの原因となったシステムを開発したベンダーの責任は大きいだろうが,あまりに非人間的な扱いとはいえないだろうか。ユーザーが怒る気持ちも分かるが,こういった対応で交渉がうまく進むとは思えない。トラブル時にユーザーとベンダーがどう対応すべきか,といった規範や標準が,この業界には確立していない。それが悲惨な事態を招いている面があるのではないだろうか。