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 ここ数年,講演などで「やわらかいIT」という話をすることがある。弊社の雑誌に短い記事も書いているので,すでに見聞きされている読者の方がいるかもしれない。今回は,企業だけではなく社会のIT化を進めるときに気にかけたい「やわらかいIT」について考える。

 ITあるいは情報システムというと,ハードウエアやソフトウエア,ネットワークといったところが頭に浮かぶ。記者が主張したい「やわらかいIT」は,ITと一体となって存在する(存在すべき)ものだが,ハードウエアやソフトウエアとはちょっと毛色が違う。ハードウエアやソフトウエアだけではなく,社会制度や法律,教育などを絡めてITの長所を引き出し,安心感があり柔軟性に富むビジネスや社会を実現すべきという考え方である。ソフトウエアよりもソフトということで,「やわらかい」と名づけた。

 ITは急速な進展を遂げた結果,安心感をなおざりにしてきた面がある。ドッグイヤーと一時さかんに叫ばれたが,イヌの寿命のスピードでやみくもに走られたのでは,専門家はともかく,普通の人々(一般消費者)はたまったものではない。そのITに,企業や経営だけではなく,一般消費者の視点を持ち込みたいという思いも,「やわらかい」という表現に含んでいるつもりである。

何故か,おどろおどろしい

 ところで一般消費者は,ITに安心感をもっているだろうか。かなり疑問だと記者は考えている。

 一般消費者にとって身近なパソコンは,改善されたとはいえ,フリーズなど挙動不審な動きを相変わらず見せる。インターネットを使ったら使ったで,架空請求やフィッシング,ウイルスの被害にあうかもしれない。スパム・メールはうんざりだし,個人情報の漏洩だって心配だ。何が起こるかわからないので,ノート・パソコンを持ち歩くのも躊躇する。脚光を浴びているICタグについても,プライバシの問題が気にかかる。少し前の住民基本台帳ネットワーク騒ぎも,安心感の欠如のなせる業だろう。

 そういえばITの世界には,わざと人を脅かすような言葉が少なくない。「暴走」「クラッシュ」「ダウン」「フリーズ」・・・と目白押しである。当初は専門家が,ある種の愛着を込めて表現したのかもしれないが,パソコンが普及するにつれて,ITの理解しがたい挙動を表す言葉として,いつしか一般化した。わざわざ強面(こわもて)を演出しているようなものだ。いずれにせよ,ITには便利な半面,何となく抵抗感や不安がついてまわる。

人知の及ぶ範囲ではない?

 では,どうすればよいのか。

 これまで,安心ではなく,安心“感”と述べてきたことに,少し秘密がある。ITが急速に広がった結果,安全や安心を完全に保障するのは正直なところ難しい。数多くのコンピュータがネットワークにつながる状況が進むなか,難易度はどんどん上がる。理論上は可能なのかもしれないが,コストを考えれば,完璧な安全や安心は今のところ現実的ではない。

 そもそもコンピュータは,単体でも“暴走”しかねないのに,品質も性能もバラバラな無数のコンピュータがつながった場合にどうなるのだろうか。人知の及ばない世界が,ひょっとすると,すぐそこにある。情報システムが社会に与える影響が格段に大きくなっているだけに,少々気になる。

 この状況を打ち破るのが,安心・安全について技術的に万全を期す一方で,社会的な支援を加味することで,「安心・安全なんだな」という感覚を一般消費者にもってもらうことだろう(もちろん技術も頑張っている。技術的に万全を期す次世代システムの「新発想」を,日経バイト4月号で特集する。興味のある方は,ご覧いただければ幸いである。

自動車を見習う

 あるITベンダーの幹部は自動車を例にあげ,記者にこう語ったことがある。