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 日本で,FTTH回線によるユーザーの囲い込み競争が激しさを増してきた。競争のプレーヤーは,NTTグループをはじめ電力系通信事業者,KDDI,ソフトバンク・グループなどの大手通信事業者である。各社はFTTH回線を使ってインターネット接続と固定電話,テレビ受像機向けの映像配信サービスをセットにした「トリプルプレー」の事業展開を図る。

 その背景にあるのは,ADSLサービス用に電話回線(メタル回線)を提供してきたNTTグループが2004年11月に,将来的にFTTH回線に完全に移行する計画を打ち出したことだ。この計画に従えば,メタル回線はいずれ提供されなくなる。こうしたなかNTTグループなど各社は,新聞の折り込みチラシにとどまらず,テレビCMでも自社のFTTHサービスの露出度を急速に高めている。

 各社の狙いは,ユーザーに真っ先に自社のFTTH回線を引き込んでもらうということだ。いったんFTTH回線を引き込んでもらえれば,そうそう変更されることなく,固定電話を含めた通信・放送サービスを一手に提供できるとの読みがある。その半面,こうした囲い込み競争に勝利できなければ,これらの市場を一気に取りこぼしてしまうことになりかねない。

上場を機にCATV連合に動き出すJ-COM

 ただ,こうしたトリプルプレーの事業展開を図っているのは,通信事業者だけではない。ここにきて,光ファイバーと同軸ケーブルを併用した自前のHFC(ハイブリッド・ファイバー・コアックス)網を持つCATV事業者が巻き返しを図っている。

 その代表格が,2005年3月にジャスダック上場を果たしたCATV統括運営会社のジュピターテレコム(J-COM)である(関連記事)。J-COMは既にCATV網を使って,CATVの多チャンネル放送サービスだけでなく,インターネット接続や,NTT東西地域会社の加入電話と同じ「0AB-J番号」を使える固定電話をセットにしたサービス展開を行っている。さらに今回の上場で得た800億円を超える資金などを活用することで,ほかのCATV事業者の買収や業務提携を積極的に進める方針を打ち出した。

 そこには,FTTHで囲い込みを図る大手通信事業者に対して「いずれインターネット接続や多チャンネル放送市場まで奪われることになりかねない。資金力もある大手通信事業者に対抗するには,全国のCATV事業者が連合するしかない」(J-COM)との強い危機意識がある。

さらなる日本市場への投資姿勢見せる米LMI

 さらに,そこで忘れてはならないのが,J-COMの筆頭株主(LMI/Sumisho Super Media経由)である米リバティーメディア・インターナショナル(LMI,本社:米コロラド州,会長兼社長:ジョン・マローン氏)の存在だ。LMIは既にJ-COMだけでなく,番組供給統括会社のジュピター・プログラミング(JPC)の筆頭株主にもなっている。また,CATV統括運営会社のメディアッティ・コミュニケーションズに出資するなど,既に日本のCATVや多チャンネル放送事業に対して大規模な投資を行っている。J-COM上場を果たし,今後はJ-COMなど既存事業の支援に加えて,新たに1000億円単位の大規模な投資を行う用意があるようだ。

 こうした日本市場への積極的な投資姿勢には,リバティメディアのジョン・マローン会長の意向が強く働いているという。同会長は米国で1970~90年代に,「TCI」(テレ・コミュニケーションズ)を全米最大規模のCATV統括運営会社に育て上げた実績を持つ。このTCIのCATV事業は99年に米AT&Tに売却(現在はコムキャストが事業を継承)することになったが,マローン会長には「次世代型のTCI」を日本で実現したいとの思いがあるようだ。

 米国では現在,トリプルプレーのサービスを手がけるCATV事業者が,携帯電話サービスに進出する動きを見せている。こうした動きを日本でも目指す可能性がある。さらに,放送関連ではJPCが持つコンテンツの多メディア展開(ウインドウ戦略)を考えるうえで,新たな放送メディアへの出資もあり得そうである。

 これまで日本の通信業界には,例えばAT&Tや英BTが日本テレコムの主要株主となりながらその後に手を引くなど,外資による参入・撤退の歴史がある。こうしたなか新たな通信・放送統合時代に,次世代型TCIの実現を目指すマローン会長率いるLMIが,日本市場で大きな役割を果たす可能性が出てきた。実現すれば,FTTHで囲い込みを図る日本の通信事業者にとって,手ごわい相手となるのは間違いないだろう。

(渡辺 博則=日経ニューメディア)