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 いつでもどこでもしっかりつなげるための技術が「世界では」充実してきた。映像機器の相互接続,携帯電話への動画配信,移動しながらのLAN接続,LAN配線不要のホームネットワーク,RFIDを使っての商品管理・物流管理。いずれも,電波を利用してIT機器の利便性を飛躍的に高めようとするものだ。

 これらの多くが,海外では既に実用段階に入っているのに,日本では残念ながら,利用の是非を議論する段階にとどまっているものが多く,本格的な活用はずいぶん先に送られている。

WiMAXもUWBも電力線通信も様子見

 こうした用途に使われる無線技術はさまざま。見通しのきく50kmくらいの距離まで最大75Mビット/秒もの伝送速度でつなぐWiMAX,至近距離10m以内程度で数100Mビット/秒を実現するUWB,無線ICタグの中でも数10m以内の距離にある物品を認識できるUHF帯のRFID,そして一般の電力線を使いLANを構成したりPtoPでハイビジョン映像などを送信する電力線通信など,多様な無線技術が生活の中に入りつつある。

 こうした新しい無線技術に対して,日本ではこれまで積極的推進策がとられてこなかった。既得権益を持つ事業者などへの遠慮があり,新技術をいかにして育てるかという議論になかなか発展してこなかったためである。例えばUWBは北米では既に2002年の段階で認可され,免許不要で使える基盤が完成,次は一般にどう浸透させていくかというところにまで来ている。しかし,日本ではUWBが非常に微細な電波出力ながらきわめて広い周波数帯域を使うという性質上,干渉に対する危惧が先行した。

 電波の配分に対する監督省庁である総務省は,技術的に成熟レベルに達してしまったものを放置するわけにもいかず,ようやく重い腰を上げることとなった。今,まさにその施策をどうするべきか議論を進めているところだ。2004年11月から「ワイヤレスブロードバンド推進研究会」を発足させ,2005年11月をめどに結論を出したい意向だ。しかし,この動きは率直に言って遅すぎる。

 既にこれらの仕組みに対応したチップなどが出荷されるところまで来た。しかし,WiMAXもUWBも電力線通信もおあずけ状態だ。

 総務省は4月14日,推進研究会の中間報告書を公開,さらに,ワイヤレスブロードバンドを活用するためのシステム提案を募集開始した。これで,ようやく「世界最先端のワイヤレスブロードバンド環境の構築」(研究会)に向かって邁進することになった。

世界を引っ張って行く施策がほしい

 しかし,こうして「世界最先端のワイヤレスブロードバンド環境の構築」を目指す,というスローガンを今掲げるのなら,数年前から,世界を引っ張る形でそれら技術を応援してくれればどんなに良かったのにと思う。

 特にこれからはそれら無線機能はモバイル機器にどんどん搭載されて行く。当然,人の移動とともにそれら機器は国際的に移動する。国ごとに異なる周波数を使っていれば,発信器部分はアダプタ形式にするなどにして,各国ごとのシステムが必要になる。これは考えるだけで不便きわまりないし,機器製造コストも上昇する。

 インテルなどによるとWiMAXは将来ノート・パソコンの標準機能として搭載される可能性があるという。こうなると,WiMAXを積んだパソコンを持ったビジネス・パーソンが世界を飛び回る。そんな時代に日本だけは取り残されてしまう姿が頭に浮かび上がる。

 2.4GHz帯を使うWi-Fiは世界のほとんどの国で今,利用している仕組みをそのまま活用することができる。これにより,どこに行ってもブロードバンド・アクセスが使えるし,Skypeなどを入れたPCでは世界中の人と通話をすることも簡単だ。

 WiMAXは周波数2G~66GHzの間のきわめて広い帯域の電波のうち,各国の事情が許す周波数帯を選んで使う。早い段階で議論を巻き起こしていたなら,より広範な国で共通に使える電波帯を捻出することもできたはずだ。そうなれば,WiMAXで通信サービスを提供しようとしている事業者のコスト負担を抑えるとともに,端末側の設備も安くなる。

 当然,そのためには,既存無線局の使用周波数帯を動かすなどの検討も必要で,コストもかかることとなる。しかし,そのコスト計算は,周波数移転費用と世界の中での日本の通信ビジネスにかかる経済効果を天秤にかけて行われるべきものだ。そうした観点からの議論に発展してこなかったのがいかにも残念だ。

電波は有限か無限か?

 古くからの議論に「電波は有限か?」というモノがある。同じ周波数帯域を使う無線機器はお互いに干渉するため,地域ごとに使える周波数帯を変えたり,利用分野ごとに特定領域を配分する必要がある。

 同じ地域内に隣接する周波数帯を使う放送局があれば混信の恐れがあるのは当然だ。しかし,電波技術はきわめて進化している。同じ周波数帯を同時に使って複数の伝送路を確保する技術も利用可能だ。また,波長の短い帯域では強い指向性を持たせ,同一周波数帯で複数の無線機器を運用することも可能だ。さらに,アダプティブ・アレー方式のアンテナを使えば,利用者に向けてダイナミックに電波放射方向をコントロールするといったこともできる。

 こうした技術を積極的に使えば,今の電波配分は大きく整理することができる。電波法が作られた時代とは技術レベルが全く違うということをもっと積極的にとらえるべきだ。一軒家が密集した地域を区画整理し,ゆったりとしたマンションに建て直し,しかも緑を呼び込む,といったことが電波配分でもできる。

 既存の無線設備の統廃合も真剣に考えなければならない。その無線局は本当に国民の利益にかなうものなのか? 占有する無線帯域に見合う経済効果があるのかどうかをきちんと算出し,ずらせるものはずらす,廃止できるものは廃止,他のシステムに統合できるものは統合するというぎりぎりの議論も必要だ。

同一周波数も分け合える

 米国のFM放送などを聴くと,受信帯域の端から端までびっしり何100という放送局が詰まっている。ところが,日本では,スカスカ。「日本では混信がない。素晴らしい電波行政だ」という見方もできるかもしれない。しかし,これは端的に電波行政の無駄を表している。せっかく経済性のある電波が空いたまま放置されているのだ。こうしたことが,他の電波帯域でも散見される。

 同一周波数帯を単純な平面の色分けだけで配分せず,立体的に,空間的に,そして時空間で配分すれば,電波は事実上無限に活用できる。同じ周波数帯を異なる目的の機器で共用することも可能な応用分野もある。実際,2.4GHz帯の無線LAN,Bluetooth,電子レンジ,家電の映像送受信装置などひしめき合って使われているが,なんとか実用性を保っている。こうした考え方がをもっと広く適用して行くべきときだ。

 ぜひ,どこに行ってもWiMAXが使え,UWBで映像などが視聴でき,コンセントに家電を刺すだけで,ネットワークがつながるような世界を目指してほしいものだ。でなければ,とうていユビキタスなんて言葉を使うことはできないだろう。

(林 伸夫=編集委員室 編集委員)