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 私事で恐縮だが,記者はこの4月で記者生活丸8年を迎えた。自分では全くその気はないのだが,経験年数だけで言えば中堅クラスである。

 最近,ふと3年後の自分をイメージしてみた。いったいどんな記者になっているのか。そもそも自分の専門性は何なのか。改めて自問すると,なかなか答えが見つからない。

 なぜこんな疑問が浮かんだかと言えば,日経ITプロフェッショナル5月号の特集の取材がきっかけだ。特集のテーマはITエンジニアのキャリアパス。自分の専門性を磨きながらキャリアを形成するための指針や,目指すべき職種像を探った。この特集の取材を重ねた結果,自身の行く末を大いに考えさせられたのである。

 本欄の読者の方々にとっても,将来への不安は同様ではないか。次から次へと登場する新技術,基盤技術や基本的なスキルを獲得できる新規の大型開発案件の減少,成果主義の名の下に賃金抑制を強いる人事制度・・・。厳しさを増すIT業界にあって,「将来に不安を抱くな」という方がムリというものだろう。

 あるシステム・インテグレータに勤める記者の友人も,こう漏らしていた。「30代後半の先輩は,だいたいプロジェクト・マネージャをやっている。たぶん自分もそうなるだろう。でも,今の開発現場の仕事には,やりがいを感じているし,自分にマネジメント職が務まるとは思えない」。プロマネが重要な職種であることは,言うまでもない。問題は望むと望まざるとにかかわらず,ある年齢になると画一的にプロジェクト・マネージャとしての役割,能力が求められるケースが多いことだ。

市場価値の高まる職種を目指す

 「自分の望む仕事に就き,生き生きと働く」――ビジネス・パーソンとしての理想である。でも,それを実現できている人はごく少数だ。「こんなはずじゃない」「いつまでこの仕事が続くんだ」と心をくすぶらせながら働いている人がほとんどじゃないだろうか。

 困ったことに,キャリア設計には「こうすればうまくいく」という方程式が存在しない。記者は,特集を執筆するにあたって,キャリア設計に関するいろいろな本を読んだり,多くのベテラン・エンジニアに話を聞いてみた。そこで知ったのは「キャリア設計に正解なんてない」ということだった。

 例えば,ある人は「自分が好きなことをやれ」と言う。「好きなことをやらないと後で後悔するぞ」と言われるとたいていの人は焦ってしまう。でもその一方で,「本当に好きなことを仕事にするべきではない」という人もいる。仕事とは,そもそも生きる糧を得るためのものであって,つらくて当たり前なのだという。そう割り切れたら楽になるかもしれない。最初はつらくて仕方がない仕事でも,うまくできるようになるとだんだん面白くなってくるというケースはよくある。逆に,本当に好きなことを仕事にして,うまく行かなかったら,つらさは倍増してしまうかも知れない。

 また,5年後,10年後のキャリアの目標を立てろという声もよく聞いた。目標をしっかりと定めて,それを実現するための計画を立てなければキャリアは開けないというわけだ。だが逆に,「目標なんて立てずに,目の前のことを一生懸命やり続けていれば,キャリアは開ける」という意見もある。無責任な言い方かもしれないが,キャリア設計は自分の力だけではどうにもならない部分があると思う。社会人になった際に,技術力一本で勝負すると心に誓ったITエンジニアが,社内ローテーションによって,いつの間にか人事のプロになっていたというケースもある。

 キャリア設計に正解はない。だが,これだけは確実に言えることがある。遅かれ早かれ,ITエンジニアには,自分のキャリアを見つめなおさなければならない時期が必ずやってくる。どんなに毎日が忙しくて,目の前の仕事をこなすことで精一杯でも,「自分は何をしたいのか,何をすべきなのか」と自問してみなければならない。

 特集記事では,自分の将来像が見えないITエンジニアに向けて,キャリア設計のヒントとして,今後,市場で価値が高まるであろう職種を提示した。高い市場価値を持つ職種に進路をとることは,キャリア設計の考え方として極めて有力だと考えたのだ。

 市場価値が高まる職種の代表例が,顧客のシステム戦略に基づくソリューションの枠組み策定,システムの実現方式の設計などを行うアーキテクトである。日本のIT業界でアーキテクトが職種として認知され始めたのは,全体最適の視点から業務やシステムを構築するEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)が注目され始めた2001年ごろからだ。さらにITスキル標準(ITSS)にアーキテクトが定義されたことで,知名度がより高まった。

 「業務やシステム全体を率いるアーキテクトもいいけど,自分は特定の技術分野のスキルや知識を突き詰めたスペシャリストになりたい」。こう考える読者も多いだろう。従来,専門分野に特化した技術を極めたスペシャリストは,その技術力が評価される一方で,「管理職への道を歩めなかった人」というイメージもつきまとっていた。だが,システムを構成する要素技術が複雑化,高度化していくにつれて,スペシャリスト型人材も今や立派なキャリアのゴールになった。もちろん,従来から多くのITエンジニアが目標としていたプロジェクト・マネージャやコンサルタントも,目指すべき主要な職種であり続ける。

 特集の取材を通じてITエンジニアを取り巻く厳しい現状とともに,ITエンジニアに対する「エール」も数多く耳にした。「ITのスキルと知識を駆使して顧客のビジネス課題を解決するITエンジニアは,今やビジネスの変革をリードする原動力だ。ITエンジニアは,自分の仕事にもっと誇りを持っていい」(ユーザーとベンダーの双方にコンサルティングを提供している,札幌スパークルの桑原里恵システム コーディネーター)

 ビジネスのイノベーションを起こす原動力──。なんともやりがいのある仕事ではないか。結局は,「自分は世の中の役に立っている」と思えることが一番大切なのだろう。IT Pro読者の皆さん,仕事への誇りと,元気を持っていきましょう。

(玉置 亮太=日経ITプロフェッショナル)