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 企業の内線電話網を全面的にIP化する,IP電話商談が好調だ。供給サイドからは,「前年同期と比較して,案件数は倍以上」(ネットワンシステムズ),「今年はFOMA/無線IP電話のデュアル端末を使ったソリューションで,700~800件の顧客を獲得する」(NEC)と,そろって景気のいい話が飛び出してくる。

 しかしその陰で,一部とはいえ,受注を獲得しながら導入が進まない案件や,顧客の開拓に苦戦するソリューションプロバイダの話を,記者が取材で耳にするのも事実だ。前者の代表例が,世界最大規模といわれたUFJ銀行のIP電話導入プロジェクトだ。後者で目に付くのが,2004年から相次ぎ参入したIT系のソリューションプロバイダである。

撤回も視野に?,UFJ銀の大規模プロジェクト

 「4万台近いIP電話を導入」「全500店舗のPBXを撤去へ」と報じられ,2003年秋にIP電話の導入に着手したUFJ銀行(関連記事)。しかしこの大規模プロジェクトが,一部支店での試験導入のまま,1年近く凍結されている。

 もちろん,その大きな理由には,後にUFJグループと三菱東京フィナンシャル・グループの経営統合が浮上したという特殊事情があった。取材はかなわなかったが,UFJ銀行はIP電話プロジェクトについて「統合を控え,中止・続行の両面で検討している。中止を決めたわけではなく,検証のために試験導入の拠点を増やす計画もある」(広報部)という。一方で,業界関係者からは「東京三菱銀行に合わせて,既存の内線電話にPHSを組み合わせる案が進行中」という話も聞こえてくる。

 この大型IP電話案件の行方は,両グループのシステム統合(関連記事)の全貌が明らかになるまで待つしかなさそうだが,少なくともその障害になったのは2行の統合という特殊事情だけではなかった。関係者によると,UFJ銀行の導入計画は経営統合が浮上する前から遅れ始めていたからだ。

 「IP電話はPBXの更新より少し安い程度。コスト削減だけが目的では失敗する」――。UFJ銀行の関係者がかつてこう語ったように,UFJ銀行が目指したのはIP電話を活用した“業務改革”だった。ここからは記者の推測が入るが,UFJ銀行のプロジェクトが早くから停滞したのは,コスト削減効果が限られる中,試験導入では“業務改革”のモデルを確立するに至らなかった可能性もあるのではないか。逆に言えば,コスト削減効果が十分に大きければ,“業務改革”は後回しでもIP電話の導入がより進んでいただろう。

IT系SIerには難かったIP電話商談

 “業務改革”や“ITとの連携”を訴求したIP電話商談の難しさは,新規参入したIT系ソリューションプロバイダも十分に味わっている。電話を超えたIP電話の活用に顧客の関心は高いが,電話のリプレースである以上,最大の関心事はまずは「使い勝手は同等以上で,いかに安いか」に自然と集まってしまうからだ。

 そうした新規参入組の1社が,NECのIT系パートナーである日本事務器だ。子会社のNJCネットコミュニケーションズ(NJCネットコムズ)を立ち上げ,2004年6月に内線電話のアウトソーシングを請け負うIPセントレックスサービスに参入。顧客には業務システムとの連携やソフトフォンの活用の提案に力を注いできた。しかし「9割の顧客が関心を持つものの,コスト削減にならないと分かるや興味を失ってしまう」(出原正伸計画部長)という現実に直面。現在の顧客は計画を下回っている。

 同様に,日本IBMもシスコシステムズと提携し,2004年秋から中小企業向けのIP電話パッケージを投入したが,IBMに近い関係者は「売れ行きは芳しくない」と漏らしている。このパッケージはリースによって導入コストを引き下げたほか,IBMのグループウエア「Lotus Notes」などとの連携が売り物だった。しかし,その前に「米国の内線文化に根ざしたシスコ製品が,中小企業には取りつきにくかった」というのが関係者の証言だ。

IP電話はおまけ,強みの業務システムを生かせ

 この現状から分かるように,今のIP電話商談は,WAN/LAN設計にノウハウを持つ通信系ソリューションプロバイダが,トータルでのコスト削減を実現できる顧客を拾い上げているのが主流だ。ノウハウに乏しいIT系ソリューションプロバイダが同じ土俵で競っても勝ち目はない。

 では,IT系ソリューションプロバイダなどの新規参入組は,IP電話とどう向き合うべきだろうか。そのヒントを与えてくれるのが,先のNJCネットコムズが過去の反省から導いた「電話が“主役”である限り,業務改革を訴求しても我々の提案は評価されない」(出原部長)という教訓だ。

 つまり発想を転換して,「IP電話は裏方に回り,我々が強みとするソリューションを主役に提案」(出原部長)することこそが,IT系ソリューションプロバイダがIP電話商談で足場を築く最善の策ではないか。多くの場合,その主役は顧客に食い込んでいる業務システムだろう。当たり前のことを言っているようだが「餅は餅屋」。新たな挑戦になるIP電話商談も,自分が強みを出せる土俵でこそ勝負すべきという考え方だ。

 そこで,NJCネットコムズが電話に代わる主役に据えたのが,2200システム超の稼働実績がある自社のERPパッケージ(統合業務パッケージ)「CORE Plus」である。具体的には,CORE Plusのうち販売管理系システムや,旅館・ホテル業向けなどの一部業種向けパッケージを対象に,4月からIPセントレックスサービスを付加機能として提供し始めた。

 提案が“上滑り”しがちだった業務改革の訴求から,CORE Plusの既存顧客や新規開拓の顧客に狙いを定め,「取引先や顧客からの電話をトリガーにして取引履歴や顧客情報を呼び出す」「受発注データなどの入力を支援する」といった用途の開拓に着手した。

地場の“素人SIer”が無線IP電話を売った

 「電話を売らない」というアプローチで、IP電話の“素人”に近い地場のIT系ソリューションプロバイダが,180台規模のIP電話導入商談を獲得する成功例も出始めた。詳しくは,『日経ソリューションビジネス』の5月15日号の特集記事で紹介しているが,仙台商工団地情報処理センター(SJC,宮城県仙台市)がある地元食品メーカーから受注した案件だ。

 SJCが,商談の基点にしたのは受発注から販売管理・経理までを受け持つ基幹業務システムの更新商談だった。外回りが多い営業を支援する仕組みを携帯電話でまず提案し,最終的にはFOMA/無線LANのデュアル端末「N900iL」30台などを含む商談に発展した。IP電話講習会で「売り方が分からない」と真っ先に漏らした大友俊一営業部次長は,今では「電話を売りに行く必要はなかった」と手応えを語る。

 IP電話事業に対する発想を変えた日本事務器とNJCネットコムズは,今後はERPに加えて,IPセントレックスと組み合わせて使える各種ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスも拡充させる方針だ。顧客に食い込んでいる業務システムを主役に,今期に100社の顧客開拓を目指すと意気込んでいる。

(玄 忠雄=日経ソリューションビジネス)

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