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 NECや富士通,日本IBMなど,大手のIT製品ベンダー各社が,中堅・中小企業の市場攻略に本腰を入れている。この市場はベンダーにとって,販売パートナーによる間接販売で攻める市場。各社は,新たなパートナー戦略を次々と打ち出し始めた。

 もちろん今までも,IT製品のベンダー各社は,中堅・中小企業市場開拓を目標に掲げ,そのためのパートナー施策を進めてはきた。だが不況でIT投資をする企業が大手の顧客に集中していたこれまでは,ベンダーの拡販策が大手中心だった感は否めない。「中堅・中小企業向けの案件は,手間がかかる割りに案件規模が小さく,利益が見込めない」と,二の次になっていたのだろう。これまでの戦略は,中堅・中小企業の市場ニーズとミスマッチだったのでは,という声は少なくない。

 調査会社米アクセス・マーケッツ・インターナショナルの稲村潤一郎日本代表は「ITベンダーは,これまでも中堅・中小企業の市場を重視してきたが,明確な方針を持っていなかった。今こそセグメントを明確にした販売戦略が不可欠」と指摘する。ベンダー側であるNECの細谷豊造パートナービジネス営業事業本部長も「中堅・中小ユーザーに対し,我々が明確な提案をしてきたか,と問われれば実際は,そうではなかったと思う。例えば電子商取引のシステム商談は,中堅・中小企業にも必要であるにもかかわらず,手つかずの状態だった」と認める。

 景気回復を受け,中堅・中小企業のIT投資も,次第に活発化してきた。政府や自治体も,中堅・中小企業のIT化を強く打ち出すなど,ベンダーにとってようやく追い風が吹き始めた。IDCジャパンが2004年12月に発表した調査では,国内のIT投資額は2004年の11兆1747億円から,2008年には12兆2,450億円に成長すると予測している。そのうち従業員が1000人未満の中堅・中小企業のIT投資が占める割合は,2004年の30.2%から,2008年は34.0%に伸びると見込む。

 サーバーやPCの市場はゼロ成長が予測され,大手企業のIT投資が一巡した感がある中,ベンダーにとって中堅・中小企業は最後の宝の山に見えるのだろう。それだけに,各社の今回の取り組みは,真剣度合いが増しているように見える。

流通制度の見直しも始まる

 日本IBMが流通制度改革を急いでいるのはその典型だろう。同社は2002年には,1次店を「バリュー・ディストリビュータ(VAD)」と呼ぶ一部のパートナーに集約する施策を打ち出していた。これに対して,一部の1次店から「なぜウチが2次店に格下げされるのか」といった不満があり,今までは切り替えがそれほど進まなかった。しかし日本IBMは,この施策の徹底を今年2月にパートナー各社に改めて宣言。今年末を期限に2次店への移行を促す方針だ。以前は「米国の取引形態を日本市場にも根付かせたいが,日本の商習慣を考えると難しい」といったあきらめムードもあったが,今回は本気だ。

 日本IBMは,VADに物流機能や支援策を任せることで流通網の効率化を進め,利益を確保する狙いだ。UNIXに強い,iSeriesに強いなど,VADごとの強みを他の販売パートナーにも横展開することで,きめ細かい支援を提供していく狙いもある。独立系のディストリビュータに対しても,積極的な協業策を打ち出す。例えばダイワボウ情報システム(DIS)とは今年4月,IBMのPCサーバーの販売に必要な技術情報などを販売店に提供して営業を支援する「DISサーバーセンター」を設立した。

 ディストリビュータとの協業強化を打ち出すのは,日本IBMだけではない。日本オラクルは今年6月,ディストリビュータ専任の営業組織を設立,ディストリビュータと共同でのセミナー開催や,情報提供の強化などに取り組む。

 ソリューションの品揃えや,営業担当者の育成を強化することで,販売パートナーを支援しようとする動きも顕著だ。

 NECは,販売パートナー同士の協業をコーディネートすることで,中堅・中小企業のニーズに合ったソリューションを用意する。2004年10月から,地域ごとのユーザー企業のニーズや市場の動きを調査し,パートナーが得意とする製品を組み合わせたソリューションを開発,共同提案する取り組みを始めている。例えば大阪地区では,売上高10億円~300億円の製造業約4600社の情報を基に,販売パートナー4社が扱っていた製品を持ち寄って,生産管理のシステム提案の枠組みを整備,4社協同でユーザー企業に提案を実施している。

 パートナーの営業認定制度の強化を進めているのは富士通。従来のITの基礎知識や財務の基礎知識などを教育するトレーニング・コースに加え,「財務分析」や「経営戦略応用」といった,より実践的な提案力を身につけるための上位のトレーニング・メニューを追加した。トップ・セールス育成と銘打った指名制のトレーニングも昨年から開始している。1泊2日で,実際の営業活動を模擬的に実施する営業トレーニングなどを実施する。

市場攻略の主役は販売パートナー

 ベンダー各社が相次ぎ打ち出す新施策を取材していると,中堅・中小企業市場を本気で攻略したいという真剣さは感じる。一方で,販売パートナーであるソリューションプロバイダの側との温度差を感じるのも事実だ。

 自ら中堅・中小企業の市場を開拓してきたソリューションプロバイダは,ベンダーへの期待はそれほど大きくない。ある独立系ソリューションプロバイダの調達担当者は,「顧客のニーズを分かっているのは,ITベンダーでなく当社だ。そこに向けたソリューションを用意するのも我々自身。やりたいことに協力してくれる相手と組むだけ」と話す。

 ベンダー系列の販売パートナーですら,系列ベンダーの製品にこだわりはなく「ユーザーに訴求力のある製品を選ぶ」(あるベンダー系販売パートナーの担当者)。ベンダーが提供できる有効な支援は仕切り値や報奨金の多さだけ,ということになれば,ITベンダーにとっては,消耗戦になる。

 ディストリビュータ重視の流通施策も,ITベンダー側にしてみれば,効率化と販路拡大のために必然の施策だろうが,逆に,販売パートナーとの距離,ひいてはユーザー企業からの距離を広げる危険性も秘めている。ディストリビュータが,製品流通機能だけでなく,販売店への営業支援,技術支援を充実させれば,ベンダーの存在感は相対的に低下する。

 とはいえ,ベンダーが何もしなくていいというつもりはない。日本の中堅・中小企業のIT活用は欧米に比べて遅れており,IT投資額は半分程度とも言われる。膨大な数の企業があり,企業ごとに多様なニーズがあるが,投資が必要だと認識していない企業も少なくない。ITの活用を啓蒙するのは,資本力のあるベンダーの役割が大きいだろう。ハード販売中心のビジネスを,サービス重視のソリューション提案型ビジネスに転換するために,ベンダーからの営業支援や技術サポートを必要とするソリューションプロバイダも多い。

 ITベンダーは,単に支援策を打ち出すだけではなく,パートナーに対してきめ細かいフォローを継続して行うことが求められる。ベンダーとソリューションプロバイダの二人三脚で,日本の中堅・中小企業の経営改革を実現できるか,注目したい。

(森重 和春=日経ソリューションビジネス)