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 総務省は,「住民がインターネットを利用して地域社会に積極的に参画する環境を整えること」を目的に,「ICT(Information and Communication Technology)を活用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会」を立ち上げた。(関連記事

 ところで,この研究会で配布された資料によると,地方自治体が開設した電子会議室は,ほとんど成功していないという。2002年12月に慶應義塾大学とNTTデータが実施した調査によると,調査した自治体の電子コミュニティ733例のうち,活発に議論が行われているのは神奈川県藤沢市,大和市,三重県,鳥取県のわずか4例のみだとのことである。

現時点での公的個人認証の活用は無理筋

 ここまで成功率が低いにもかかわらず,なぜ自治体は電子コミュニティを立ち上げようとするのか。これまでいくつか電子コミュニティを運営する自治体を取材したが,自治体側には「崩壊した地域コミュニティをITを活用して立て直せないか」という期待があるようだ。

 電子コミュニティなら,「平日の日中は仕事で参加できない社会人」や「インターネットに関心のある若者」なども含め,若者から高齢者まで世代を超えて共通の場で話ができる場が作れるかもしれない。そんな期待である。コミュニティが形成されることで,身近な問題として「地域社会に積極的に参画」してくれる住民が増えてくれれば,というわけだ。

 背景には自治体の財政難がある。コスト削減をしなくては自治体運営が立ち行かなくなってしまう。そして,コストを削減してサービスが低下した部分は,地域住民が自らの問題として解決していってもらわなくてはならない。そのためにも,まずは地域社会に関心を持ってもらいたい,ということである。

 つまり,自治体の電子コミュニティに対するニーズは,少なくとも現時点では住民側より行政側の方が強いのである。にもかかわらず,研究会の資料を読むと,電子コミュニティを安心して使えるようにするためのシステム的担保として,公的個人認証サービスの導入がうたわれている。しかしこれは,かなり無理筋の構想だと私は思う。
 
 公的個人認証を導入するということは,電子コミュニティに参加するためには,多くの住民はわざわざ役所に出向いて住基カードを取得し,さらにそれとは別に手数料を支払って電子証明書を住基カードに格納してもらわなくてはならないことになる。認証方法にもよるが,住基カードをパソコンで読み取るためのカード・リーダーを住民側で購入しなくてはならないかもしれない。

 だが,住基カードの普及率(2005年3月末で0.4%。総務省調べ)を考えれば,現時点において公的個人認証の取得は「多くの住民にとってハードルが高い」と言ってしまっていいだろう。役所に出向いて手数料を支払ってまで参加するインセンティブが住民側にあるのだろうか。それ以前に,電子コミュニティに参加するために,いわば「実印」にも相当する公的個人認証を用いる必要が本当にあるのだろうか。すでに稼動している多くの電子コミュニティのように,住所氏名など基本的な個人情報をWebで登録した人にIDとパスワードを発行する程度で十分ではないだろうか。

電子コミュニティは,まずは民営でスタートを

 もう一つ気になる点がある。資料には運営ルールの確立については多く言及している一方で,自治体職員の運営スキル向上のプログラムが見受けられないのだ。

 「本当に市民のナマの声を聞きたいというなら,市民同士がけんかすることを行政担当者は恐れてはいけない」――自治体の電子コミュニティの数少ない成功事例とされている藤沢市の市民電子会議室の世話人を務める粉川一郎氏は,私がかつて取材で話を聞いたときにこのように語った。地域コミュニティ活動が活発なことで知られる東京都三鷹市の清原慶子市長は「自分の意見が通らない悔しさ,議論が行き違いになって感情的になった痛み,そうしたことを職員も市民も専門家も感じた経験がないと,本当の納得には至らない」と語っている(関連記事)。けんかや議論を泥沼化させないためには運営ルールが必要だが,コミュニティの運営担当者にはルールに基づいて適切に場を収める能力が求められるはずだ。
 
 そこでクローズアップされてくるのが参加者と行政をつなぐ「中間組織」である。研究会の資料を読む限りでは,すでに地域に根付いて活動しているNPO(非営利団体)などに,「中間組織」として電子コミュニティの舵取り役を担ってもらおうとしているようだ。研究会では東京都千代田区と新潟県長岡市で実証実験を行うが,いずれの自治体もこうした「中間組織」がしっかりしていることが選定理由の一つとなっている。

 それならばいっそのこと,「中間組織」に運営をアウトソーシングしてしまったらどうだろうか。そもそも,こうした「中間組織」の方が自治体職員よりもコミュニティの運営には長けてるはずだ。

 研究会では,これまで自治体の電子コミュニティには,(1)参加者が少ない,(2)無責任な書き込み,行政に対する一方的な突き上げ,(3)行政側における電子市民会議の位置付けが不明確,といった問題点があったと指摘している。これに対し,運営を「中間組織」に任せれば,いずれの問題も解消できる可能性を秘めている。地域に根付いた「中間組織」なら,初期の集客力はそれなりにあるだろうし,行政への突き上げに対しては緩衝材となり得る。

 自治体側は必要に応じて適宜,担当者が情報を提供し,議論に加わりながら問題意識やコミュニティ運営スキルを高めていけばいい。「中間組織」に自治体職員が出向してOJTで運営について学んでもいいだろう。まずは運営を民間に任せて,行政はコミュニティに誠実な姿勢で参加することで信頼を少しずつ醸成していくのである。こうして官民相互の信頼関係を築いたうえで,自治体主体の電子会議室が本当に必要だということになれば,そこで初めて運営主体を自治体に戻せばいいのではないかと思うのだが,いかがだろうか。

(黒田 隆明=日経BPガバメントテクノロジー)