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 「頑丈」「強固」「耐えられる」。そんなうたい文句がノート・パソコンのカタログに踊り始めた2005年。こうした言葉を前面に押し出すのは禁句だと思っていた筆者は,少なからず驚いた。というのも2年ほど前,メーカーの担当者は口を揃えてこう言ったからだ。「壊れにくいという表現はカタログに使えない」

 日経バイト2003年8月号で執筆した「パソコン仕様の正しい読み方」の取材中に聞いた話だ。当時は,砂漠や建設現場といった過酷な環境で使われることを想定して設計した特殊なノート・パソコンが,企業向けのカタログでその堅牢性をアピールする程度。カタログで堅牢性をうたうコンシューマ市場向けのノート・パソコンは皆無だった。

 かつての禁句が今や惹句になっている。果たして実際にノート・パソコンは壊れにくくなったのか? 堅牢性をうたっていないメーカーの製品はどうなのか? そんな個人的な疑問から立ち上げた企画を日経バイト7月号特集「壊れないコンピュータ」としてまとめた。メーカーや部品メーカーに,衝撃や振動など物理的な破損を招く脅威に対する取り組みを取材。その中で明らかになったのは,ユーザーの利用シーンが多様化した結果,ノート・パソコンに求められる堅牢性の絶対値が増していること。精密機器として使うのではなく,日用品として扱うユーザーが増えてきたというのだ。

米国の学生が貢献?

 ほとんどのパソコン・メーカーが想定する過激なユーザーとして挙げたのは,米国の学生だ。ポリウレタンなどの緩衝材がないリュックサックに,ノート・パソコンを直に放り込む。それを背負い,自転車や自動車で揺られながら通学。教室に着くと机の上にドンと置く。

 こうした「過激ユーザー」の扱い方が,故障や市場調査の結果として設計時に考慮される。製品の仕様は世界共通の場合がほとんどであるため,かくして我々が手に取るノート・パソコンも米国の学生の利用を想定とした設計となる。うたい文句で目にするとしないとにかかわらず,絶対値としての堅牢性は向上しているのだ。

サーバーも衝撃を受ける

 ノート・パソコンを中心に取材を進めるうちに,サーバー機の状況も気になり始めた。もちろん冷房の効いたサーバー室に鎮座するサーバー機ではなく,オフィスの片隅や机上に置かれるような下位機だ。

 メーカーの話を聞くと,最大の課題は熱とホコリ。マイクロプロセッサの性能向上に伴い,発熱量が上昇。その熱を筐体外に排出するために必要な風量が上がったため,吸い込むホコリの量が増えた。これにより,目詰まりによる筐体内の温度上昇やホコリが原因のショートなどが起こりやすくなる。例えばNECは,防塵性を高めるフィルタをオプションとして用意している。

 見落としていたのは,サーバーにも耐衝撃性が求められることだった。その最大の要因は,動作中に部品を活線挿抜できるホットスワップ機構の普及。稼働中の空冷ファンやハードディスクは,衝撃に弱い。部品を受けるコネクタを通じて,マザー・ボードや筐体に衝撃が伝わる危険性がある。ホットスワップ機構を前提に,それら重要部品を衝撃から守る工夫が必要になる。例えば米Hewlett-Packard社は,ホット・スワップ機構の基板を,衝撃からマザーボードを守る緩衝材として位置付けている。マザー・ボードに直接衝撃が加わらないようにする。

壊れた過程を伝えてほしい

 以上のような利用シーンの変化は,主にユーザーの故障事例を通してメーカーの知るところとなる。故障事例から得られた知見に応じて,メーカーは設計や信頼性試験の基準を変える。具体的には,過激なユーザーにとって「壊れない」製品を設計することになる。修理対応にコストをかけるよりも,設計段階で芽をつぶした方がトータルのコストは安価になるからだ。

 故障個所を突き止めるために費やす時間とコストはかなりのものだ。保守契約を結んだ企業ユーザーの一部を除けば,故障に至った背景が技術者に詳細に伝わることはほとんどない。結果だけを見て原因を突き止める。過去の経験に裏打ちされた勘がものをいう世界だ。修理費用の明細でおなじみの1万円前後の「技術料」は,ユーザーの立場から見れば高額に感じるが,舞台裏から眺めるとむしろ安い値付けだと言える。

 ユーザーとしての筆者は,パソコンは卵を扱うように大事にしてきた。少し前まで,現在使っているノート・パソコンは衝撃吸収用のケースに収めた上で持ち歩き,机の上に置くときもコーヒー・カップを音を立てずにソーサーに戻すように扱っていた。ただ取材を進めるうちに,置き方はさておきケースはいらないと思い始めた。メーカーはケースの使用を前提に設計しているわけではない。ケースを標準添付する製品もあるが,外観の商品性を重視するユーザーが細かな傷を心配することなく持ち歩けるようにするためのものだ。

 今はこう思っている。恐れず存分に使い,そして壊れたらその状況を詳しく報告すること。前者については,仕事でノート・パソコンを使う場面が多いであろうIT Pro読者には今さらといったところだろう。意識改革が必要なのは後者。壊れるまでの過程を詳細に報告するのは,自らの過失を認める負い目を感じる作業である。できれば何も言わずに修理窓口に持ち込みたいところだ。だが故障を通じてメーカーに声を届ける作業は決して不毛な行為ではない。故障解析にかかる時間やコストが下がり,設計に反映される可能性も高くなる。結果的に,下がったコストはユーザーの利益となって返ってくるはず。そして何よりも,ケースのぶんだけ軽く小さくなったのが嬉しい。

(高橋 秀和=日経バイト)