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 特に発展途上国への情報通信機器の導入は,デファクト標準の機器ではなく,ITU-Tのような国際的な標準化機関によってお墨付きを得たデジュール標準が条件になることが多い。標準化は,国家としても将来にわたって収益確保の保証が得られる大きなチャンスでもある。

 現在NGNの標準化で先行しているベンダーは,TISPANに参加する欧州ベンダー。こうした動きに日本の総務省も危機意識を抱いている。総務省で情報通信分野の技術政策を統括する鬼頭達男技術総括審議官は「NGNで巻き返せないと,情報通信分野で日本のベンダーにはもう未来はない」と語り,もっと日本ベンダーがNGNの標準化活動に積極的になるよう鼓舞する。

 日本はNGNの標準化で巻き返しをはかる糸口をつかんでいる。2004年10月にブラジルで開催されたITU-Tの総会で,日本はNGNにも関連する14のStudy Group(SG)に,2人の議長と8人の副議長を送り込んだ。任期は今後4年間で,形の上ではNGNの主導権を握る体制が整っている。

 ただし任命された議長,副議長は,ホームネットワークの標準化を扱う「SG16」の副議長である三菱電機の内藤悠史氏を除けば,NTTやKDDIなどの関係者が占めている。ベンダーの貢献度はまだまだ低い。NTTで研究開発部門のトップに立つ井上友二取締役第三部門長は「ITU-TのNGNにFTTHに必要な要件を盛り込みたい。そうすることでFTTHで先行する日本ベンダーが世界へ出られるようにしたい」と語り,NTTがベンダーを後押ししたい考えを示す。

 NGNの標準化は,影響を及ぼす産業分野が膨大であるため,国家戦略的な交渉が不可欠。総務省の鬼頭審議官は「標準化の舞台で欧州は非常に強い勢力。実に良くまとまっている。国の数も多いので,欧州全体で数としての力を出せる」とこぼす。

 現在,標準化の舞台で欧州と直接利害がぶつかるのはアジア勢。特に中国は日本と並んでITU-Tに多くの人員を送り込んでいる。「標準化の舞台で日本は単独でやっていては不利。韓国や中国などのアジア勢と連携するべき」(鬼頭審議官)と強調する。

標準化機関同士の力関係も影響

 標準化団体内での国家の駆け引きに加えて,標準化団体同士の力関係も微妙な影響を及ぼす。現在はITU-T(FGNGN)よりもETSI(TISPAN)のほうが議論が先行。ETSIを追認する形でITU-Tで話し合いが行われている。そのため欧州勢にとって有利な条件がNGNに組み込まれる傾向にある。

 ITU-TのSG11で議長を務める大阪工業大学大学院教授の平松幸男氏は「欧州にとってのベストな標準が,必ずしも日本のベストとは限らない」と語る。「欧州は第3世代携帯電話で被った投資をうまく生かすために,第3世代携帯電話のネットワークを発展させたIMSをNGNのアーキテクチャに採用したとも言える」(平松氏)。こうしたETSI優勢の流れから,NTTは今年に入り,ITU-TだけではなくETSIでも積極的に提案をしていく方針と言う。

図1●各標準化団体とNGNのかかわり(図をクリックして拡大表示)
 さらには上記の2つの団体と,インターネット技術の標準化団体「IETF(Internet Engineering Task Force)」との関係も微妙だ(図1[拡大表示])。IETFは,インターネット関連技術の国際的な意見を調整する場として,確固たる地位を築いている。IETFではNGNに関する直接の議論はしていないが,NGNの基本プロトコルであるSIPなど,NGNで利用する技術はIETFで標準化されたものも多い。今後はNGNで利用するSIPを改良する必要も考えられるため,両者の協調が必須となる。

 しかしETSI,ITU-TとIETFの根本的な性格の違いが陰を落とす。IETFは,あくまでインターネットの倫理に立った団体。分散処理によってユーザーに自由を与える,緩やかなネットワーク像が基本にある。一方で,ETSIやITU-Tは,電話の倫理に立ったネットワークがベース。ネットワークに豊富な機能を持たせる形を思い描いている。両者の隔たりは大きい。

 実質的にIETFの中核を占めるのは米国のベンダーや通信事業者だ。米国の通信事業者やベンダーは,市場で最も売れた製品が標準となっていくデファクト・スタンダードを重視している。この辺りも,様々な面で両者の取り組みの差となって現れている。

極めて重要なNGNの議論,ここ数年が勝負

 NGNは,通信事業者の将来の基盤となるネットワークであるため,エンドユーザーから遠い位置にある。しかし極めて重要であることは間違いない。NGN次第で,将来の通信サービスは大きく左右されるからだ。NGNの議論はこの数年が山場。関係者はもちろん,通信関係者以外も注目をしておくべきだろう。そして,将来にわたって後悔しないためにも,日本勢は標準化の舞台でできる限り巧妙に立ち振るまう必要がある。

 なお,日経コミュニケーションの7月1日号では,このように大きな転換期を迎える通信事業者の次の一手を探るべく,世界の通信事業者のキーパーソンを集め,3つのラウンドテーブルを開催した。テーマは「電話網のIP化」「FMC」「NGNの標準化」。ぜひ合わせて参照していただきたい。

(堀越 功=日経コミュニケーション)