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 LinuxやUNIX上でWindows互換のファイル・サーバー機能やプリント・サーバー機能を提供するオープンソース・ソフトウエア「Samba」。LinuxやUNIXサーバーが,クライアントからはあたかもWindowsサーバーのように見える。このSambaを大規模に導入するユーザーが増えている。Sambaのメリットとデメリットは何なのか。最近Sambaを導入した独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)と自動車輸入販売大手のヤナセの事例から探った。

「1万ユーザーならCAL数千万円,それが不要に」――産総研

 産総研は2005年4月,事務部門の約2000人を対象とするファイル・サーバーとしてLinuxの利用を開始した。Samba搭載Linuxサーバー4台がSAN(Storage Area Network)を介して4T(テラ)バイトのディスク装置を共有。ユーザー認証を担当するマスターとスレーブ2台のOpenLDAP搭載Linuxサーバーがこれらを束ねる。今後は研究部門や研究所外の共同研究者あわせて1万2000人が利用することも検討している。

 産総研では従来,Windowsファイル・サーバーを各部門が持ち,管理していた。これを集中型に置き換えた理由は主に2つ。一つは産総研では頻繁な人事異動があるため,各部門での管理の手間が大きいこと。もう一つは,個人情報保護法の施行にともなうサーバー管理の強化のためだ。独立行政法人の個人情報保護指針は,一般企業よりも厳しい。これに沿ったサーバーの管理を行うためには,各部門ではなく,集中型でサーバーを管理する必要があった。

 「Windows 2003 Serverでも,LinuxとSambaの組み合わせのどちらでも,要件を満たすことは可能だった」と,ファイル・サーバー導入の中心となった斎藤俊幸氏(産業技術総合研究所 関西産学官連携センター ものづくり基盤技術支援室長)は語る。

 2つの候補の中からLinuxを選んだ主な理由は,産総研のクライアント環境が多様であることと,コストだ。産総研には,Windows,Macintosh,Linux,Solaris,BSDと多様なクライアント・マシンが存在する。「産総研のようなマルチクライアント環境でActive Directroryを採用するのは不安だった」(斎藤氏)

 また,Active Directoryを導入した場合,クライアント・アクセス・ライセンス(CAL)の費用がかかる。「全所1万人で利用した場合,数千万円の費用がかかる。次期Windows Serverへの移行時にも同様な費用が発生する」(斎藤氏)。オープンソースであるOpenLDAPとSambaであれば,アクセス・ライセンスは不要だ。

 また,経済産業省がオープンソース・ソフトウエアを推進しており,遅れてはいるが産総研にLinuxデスクトップを導入する計画があること,独立行政法人 情報処理推進機構のオープンソフトウェア活用基盤整備事業によってSambaで日本語を扱う際の問題が修正されたことも採用の動機となった。

 稼働から約3カ月が経過したが,産総研 先端情報計算センター情報システム管理チーム長の久保潤一氏は「全く問題ない」と評価する。「エンドユーザーは従来使っていたファイル・サーバーとほぼ同様の使い勝手を得られている。可用性も上々」(斎藤氏)

「WindowsからLinuxへの移行をほとんどのユーザーが気付かず」――ヤナセ

 ヤナセは2004年秋,同社の約160の拠点に約160台のLinux+SambaベースのNAS(Network Attached Strage,ファイル・サーバー専用マシン。関連記事)を導入した。先立ってWindowsベースのNASも約10台導入していたが,LinuxべースのNASのほうが価格が安く,バックアップ・ユーティリティなど機能も多かった。

 2005年1月には,認証サーバーとして使用していたWindows NT 4.0をSambaとOpenLDAPを搭載したLinuxに置き換えた。「Windows NT 4.0では認証だけなら不要だったCALが,Windows 2000から購入しなければならなくなった(関連記事)。Windows 2003 Serverに移行していたとしたら,1ユーザー5800円として,5100ユーザー分。約3000万円のCALの負担を回避できた」とヤナセ 情報システム部 システム二課 樋口雅信氏は顔をほころばせる。ファイル・サーバーだけでなく,これまでUNIXサーバーで行っていたメール・アカウントの認証も同じLinuxサーバーへ統合した。

 Linuxサーバーへの移行は,データセンターの移設と同時に,一晩で行った。午後9時30分にサービスを停止してWindows NT 4.0のユーザー情報をダンプ,OpenLDAPに読み込んで稼働を確認。翌朝5時には移行が完了した。

 もちろんスムーズな移行の裏には,周到な準備がある。データセンターでLinux認証サーバーをホストし,また設計を担当したCRCソリューションズとヤナセは,事前に綿密なスケジュールを立て,ユーザー情報のダンプと読み込みなどのリハーサルも行った。その甲斐あって「認証サーバーがWindowsからLinuxに変わったことに,ほとんどのユーザーは気付いていない」(ヤナセ 樋口氏)ほどスムーズに移行できたという。

 ヤナセでは,Sambaのソースコードを修正してトラブルを解決したという場面があった。これは,認証サーバーと拠点のNASがWANを介してうまく認証できない場合があるという問題だった。LANで事前に検証した際には問題なかったのだが,WAN経由では問題が発生することがあった。通信内容を調べたところ,WANではタイムアウトが発生していることが分かった。ミラクル・リナックスがSambaのソースコード中の,タイムアウトまでの時間を格納したパラメータを大きくし,NASのメーカーにも修正を依頼することで問題は発生しなくなった。

 ファイル・サーバーの成功を受けて,イントラネットのポータル・サイトもオープンソースへの移行を始めている。現在はWindows NTとWebアプリケーション開発ツールのCold Fusionで構築しているが,LinuxとPHP,MySQLによる再構築を開始した。

 産総研やヤナセのほかにもSambaに移行したユーザーは多い。ミラクル・リナックスでは「ここ1年だけでも産総研やヤナセを含め約40社の,WindowsサーバーからSamabaへの移行にかかわった」(プロフェッショナル サービス統括部部長の小田切耕司氏)という。

WindowsのメリットはActive Directoryの独自機能と情報やSEの多さ

 もちろん,LinuxとSambaの組み合わせは,Windowsサーバーに比べていいことずくめ,というわけではない。

 産総研の斎藤氏は「Active Directoryを使うことでSharePointやOutlookのアドレス帳の共通化など,その様々な機能を利用できる。CALが節約できるからその分トータル・コストを削減できたと単純には言えない」と釘をさす。また「Windowsのほうが情報が多く,SEの数も多い。SEの単価も安い」とも指摘する。

 ヤナセでも,現場の部門が自分たちで管理するケースでは,Windows 2003 Serverも導入している。「技術は適材適所。ユーザーにとってはLinuxよりWindowsのほうが馴染みがあり扱いやすい」(ヤナセ 樋口氏)

 ただし「Active Directoryを使うことは,Windowsに固まること」(産総研 斎藤氏)でもある。またSambaは情報が少ないが,ヤナセでのトラブル解決に見るように,技術力に自信のある向きには,ソースコードという究極の情報も公開されている。

 WindowsとLinux+Sambaのどちらが適しているかはユーザーによって,また用途によって異なるだろうが,ファイル・サーバーとしてのLinuxは多くのユーザーにとって検討に値するのではないだろうか。

(高橋 信頼=IT Pro)