【 第3回 】フューチャーシステムコンサルティング・金丸社長,
起業経験からソフト技術者に告ぐ


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顧客企業の理解がないと,立ち行かない

金丸 それから,「双方のプロジェクト・メンバー同士のあつれきであるとか,摩擦であるとか,トラブルについては,最終的には両リーダーが解決しますよ」という約束がないと,「自分はこれはプレゼントされるものだと思っていた」「お金を払ったら入ってくるもんだと思っていた」「業務改革手法というのは自分には考えつかないから,あなたに頼んだんだよ」とかというようなことがポンと出てきたりするんですね。それはどんどんエスカレートしていって,両トップが軌道修正を結構まめにしない限り,ゴールには行かないんですよね。

 起業した当初は,金丸さんご自身がそのような仕事をやっていたと思うんですが,それが今のように業容が急拡大すると,全部のお客さんに対してなかなか完璧にはいかないのではないでしょうか。

金丸 今でも,どうですかね,100点満点だとするとやっぱり30点ぐらいだと思うんですよね。それでもフューチャーと言っていただけるお客様がいらっしゃるので。今の課題は我々だけの課題じゃなくて,非常に共通した課題なので,いろんな創意工夫をして,足りていないところはすぐさま教育のカリキュラムを変えたり,あるいは意識改革をしたり,それからお客様と我々に足らないところも全部オープンにしてご相談申し上げたり。

 もう一方の課題であるシステムの品質については,どういう評価をされていますか。

金丸 途中経過はともかく,最終局面ではクオリティには非常にこだわりを持ってやってきています。お客様から買っていただけるのは,クオリティなんですね。だから,それは損得より前にあるものなので,どんなことがあってもクオリティは落としたくないと思ってやっています。

 品質を考えると,「測定して直す」ということになりますが,社内にスタンダードみたいなものがあるのか,それとも属人的なスキルなのか。その辺りはどうなんでしょうか。

金丸 我々は,今,設計・構築のやり方については,徐々にパターン化しているんですね。ただ,パターン化するということは,非常にやる気満々の人たちの意欲を阻害したりする要因にもなりますので,ここのトレードオフをうまく考えながらですが,やはりクオリティというのはお客様のためにキープしなきゃいけないので,基本的にはフレームワークをどんどん当社製のものを用意しているんですね。

 それから,我々は基本的にはシステムはほとんど「リアルタイムの設計」をやっています。リアルタイムの設計というのは,顧客満足度というか,自己満足度もすぐ分かるんですよ。例えば,ある機能を実現するときに「レスポンス時間が設計値2秒以内」とすると,下手くそなソフトウエアですと,30秒もかかってしまう。それから,使い勝手が悪いと,それは「使われる頻度を測定したログ」みたいなものをシステムに入れたりしていますから,使われてない機能はすぐ分かります。

 お客様の満足度というのは,作り上げてしばらくすると分かります。我々のプロジェクトはだいたい,業務改革ということで大向こうがうなったプロジェクトが多いもんですから(笑),期待外れだと,その失望の声は大量生産されるわけで。どこかで密かに作ってリリースされるようなシステムじゃないもんですからね。

 悪いうわさが流れるのは,まんざら悪いことでもない,というか,オープンにしていけば当然そういう声も出ますよね。

金丸 そうですね。今のところ,出来上がった仕組みで,「これは全然で出来映えがよくなかった」というのは,あまりないんじゃないかなと思いますね。私は途中では社員に厳しくて,過小評価しているんじゃないかと思うんですね。でも,ゴールに入って出来映えを見てみると,「そうか。僕はいつも30点とか20点だと言っていたんだけど,本当は70点ぐらいだったのかな」と。なかなかそういうことも言えない,みたいなところがありまして。

 以前,金丸さんが情熱を示していらっしゃった「サラリーマン銀行」構想は今どうなっていますか。

金丸 我々は「機は熟した」と思って,ああいうアドバルーンを上げたんですけれども,その後いろいろな状況を見てみますと,「まだ機は熟していなかったな」ということがよく分かって。それは,新規参入者に対するルールといいますか,規制といいますか,クリアしなきゃいけない条件というのが,私は高すぎると思うんですね。そこがもう少しリーズナブルじゃないと。経営責任を負っていますから,それで社会貢献しながら一方で利益も上げなきゃいけないので。今だと利益が上がらないですよね,いろんな試算をしたんですけれども。

エンジニアもお金と無縁ではない

 例えば,我々がもしサラリーマン銀行みたいな新しい金融機関をパートナーと一緒に立ち上げたとしても,そこのITは自己責任で全部やりたいわけですね。最新のテクノロジーでやりたいんですよ。でも,それを申請したときに,「どういうシステムですか」「まっさらの新しいシステムです」,「実績は?」「いや,ありません。今出来上がったばっかりです」ということになって,多分,受け入れてもらえないんじゃないかというリスクのほうが実は高い。そうすると,既存の動いている高コスト体質のITを使わなくてはいけない。それでは本末転倒なので。最新のテクノロジーで武装した金融機関ということが容認されるのならば,我々だけじゃなくて連合軍でやってみたいと思っていて。準備だけは一応してあるんですね。

 そうですか。完全に準備をやめたというわけじゃなくて。

金丸 ええ。

 やるとしたら,フューチャーでやるんですか,それとも別の・・・。

金丸 全然別会社のジョイベンでやって。多分その中のITをフューチャーシステムコンサルティングがやらせてもらって。フューチャーフィナンシャルストラテジー(フューチャーシステムコンサルティングの100%子会社で,金融機関向けコンサルティングを手がける)は多分その経営陣として参画するかもしれませんし,戦略コンサルタントとしてパートナーという形になるかもしれません。

 最後に,今まで伺ったお話の随所に語られているんですが,若手のソフト技術者の人たちに,メッセージをお願いします。

金丸 私の人生を振り返るに,ハードウエアを作っていた会社にいたということが,すごい影響を与えたと思います。我々が作っていたハードウエアというのは,ハードウエアになる前にはソフトウエアなんですね。ソフトウエアのあるモジュールを作って,それを例えばハードウエアの半導体の中に実装した瞬間に,それはハードウエアになるんですよ。ですから,世間で言われているように,「ソフトウエアにはバグがつきもの」というわけにはいかなくて,自分はソフトウエア・エンジニアなんだけれども,世の中に使われるときはハードウエアのチップの中で使われるんですよ。ですから,我々のコアの価値観というのは,ソフトウエアもハードウエアだと思っていて,そういう意味で1行のプログラミングにもこだわりを持つという価値観が醸成されていて。私はアプリケーションのソフトウエアもハード志向というか,ハードウエアの回路図のように,ロジックの因果関係であるとか,データの因果関係を回路図のように考えようとしたところに,今日の少しばかりの成功があると思うんですけれども。

 でも,日本のエンジニアの多くは,「私はハードウエア・エンジニア」,「私は何々エンジニア」という狭い領域だけでいるということと,「エンジニアはお金のことを考えなくてもいい」,「お金のことを考えるのは営業で,エンジニアは考えなくてもいい」という台詞を言う人もいるわけです。そんなことを言っている限り,日本のエンジニアは中国の知恵者にかなわない。日本の若い人は,本当に腕に自信のある人は,今こそ起業すべきだというふうに思うんですね。新しいITエンジニアの人たちの雇用の創出をぜひしてほしいな,というふうに思います。

 どうもありがとうございました。

金丸 どうもありがとうございました。



  撮影・編集協力:サークリット