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 Danny Sigui氏はロードアイランド州に住んでいた。殺人を目撃した彼は警察に電話し,裁判で重要な証人とされた。捜査の過程で自分の移民手続きについて何気なく警察に話したところ,彼は逮捕,投獄され,最終的に国外退去となった。

 見当違いのテロ対策の一例として,一部議員が提案している,犯罪情報センター(NCIC)のデータベースによる米連邦移民法の強化策を紹介しよう。この案の目的は,移民法に基づく取り締まりを強化する連邦政府の活動を,NCICのデータベースを定期的にチェックしている州や地方の警官に支援させることだ。米国土安全保障省の移民担当者は,人数が限られている。そこで,州/地方/部族警察の警官65万人の協力を得て,戦力を大幅に増強しようとしているのだ。

 問題はこの案が――法案として現在提出されている「Clear Law Enforcement for Criminal Alien Removal(CLEAR)Act」と「CLEAR ActとHomeland Security Enhancement Act(HSEA)」が,テロとの戦いの役に立たないことだ。なお悪いことに,各地の警察に一時的な財政的負担を強いることになる。さらに,長期的には我々全員の安全が低下するだろう。

 セキュリティはトレードオフである。この案が問題なのは「移民手続きの確認を強化することで,米国内に残るテロリストの数を減らせるだろうか?」ということだけではない。「限られた警察のリソースを移民調査に割くことが適切なのかどうか?」ということを考えなくてはいけない。

 CLEAR ActとHSEAが施行されると,移民法違反で逮捕される人の数は間違いなく増える。しかし,テロに対しては全く効果がないだろう。9/11テロ犯の一部は,合法的に入国していた。残りは入国検査をやすやすとすり抜けた。テロリストは逮捕されるのを待っていないし,警察だけが彼らの移民手続きに関する十分な情報を持っているわけでもない。理屈としては立派だが,事実とは異なる。

 さらに,こうした対策はどれも金がかかる。犯罪データベースに移民関連の情報を追加するコストは,すぐ数千万ドルに達してしまう。移民法強化のコストを地域の警察に負わせると,予算額は現在の10倍を超えるだろう。さらにこのコストは地域がまかなうことになるので,増税するか,ほかの任務を担当している警官を減らすことになる。暇でやることを探している地方警察など存在しないはずだ。警官たちを移民調査官にすることは,ほかの犯罪の捜査を行う警官の数を減らすことになる。その結果,我々全員の安全が低下する。

 テロリストというものは,あらゆる文化において極めてまれな例に過ぎない。よい状態にある警察の活動のなかでも,「地域のコミュニティとよい関係を保てている」ことの重要性は特に高い。警察に連絡する都度,自分の記録が未払いの駐車違反チケットや図書延滞金,そのほかの犯罪とは呼べないレベルの違法行為と照合されるとしたら,住民は警官にどのような感情を抱くだろう? 通報するときには,警察を信頼でき,安全であることが極めて重要なのだ。

 我々としては,イスラム教の移民が近所で怪しい活動に気づいたら,それを警察に連絡してもらいたい。「警察が自分や家族を強制送還するかもしれない」などという不安を抱かせたくない。警察が事情聴取に来たときには姿を隠さないでほしい。移民者や移民コミュニティが我々の味方であるよう願っている。

 CLEAR ActとHSEAにより警官が移民調査官になると,次なるDanny Sigui氏は犯罪や怪しい行為の証人になるのをためらうだろう。犯罪と無関係な移民法違反者を捕まえることで得られるセキュリティ上のメリットよりも,結果的に低下する国家セキュリティの損失の方がはるかに重大だ。この取り組みは本物の犯罪に対応するよりも多くのコストを警官の移民調査官化につぎ込むことになるので,最低のセキュリティ・トレードオフとなる。

CNetに掲載されたオリジナル記事:
http://news.com.com/...

Copyright (c) 2004 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「The CLEAR Act Does Not Help Fight Terror」
「CRYPTO-GRAM July 15, 2004」
「CRYPTO-GRAM July 15, 2004」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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