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 「テロとの戦いを手伝いたいですか?」「怪しい人物を引き止めて拘留するべきだと思いますか?」「普段は立ち入り禁止になっている長さ10マイル(約16km)の森の小道を馬で歩きたいですか?」――。一つでも「Yes」と思うなら,「George Bush Intercontinental(IAH)Airport Rangers」に参加してはどうでしょう。志望理由はそれで十分です。申し込み用紙に記入して経歴調査を受ければ,あなたもヒューストン空港で米国の安全とセキュリティ確保に取り組んでいる最前線の一員になれます。経験は不要です。米国国民である必要さえありません……。

 まさかと思うかもしれないが,これは冗談ではない。公式の説明によると,このAirport Rangersと呼ばれる制度の目的は,セキュリティと住民参加の両方を推進することにある。ボランティアによる騎馬警備隊が,ヒューストン空港の周囲に広がる1万1000エーカー(約44.5平方km)の原生林を見回る制度である。

 セキュリティ対策は,きちんと訓練を受けた優秀な人物が実施することで効果が上がる。規則を丸暗記しただけの人に,写真付きIDカードやX線検査装置をチェックさせたり,データベースを使ったプロファイリング(怪しい人物を選び出す行為)を実施させたりしても効果は望めない。訓練を受けた人物にセキュリティを確保すべき地域をパトロールさせるという発想はよいと思う。しかし,セキュリティの専門家として,この制度には大きな問題が2つあると思う。それを説明しよう。

 第1の問題は,訓練が不十分な点だ。受け入れ側は「資格を持った警官」の参加を推奨しているが,必要条件ではない。誰でもパトロール隊員になれる。Webページから収集した情報によると,訓練とは,不審な行動に関する短いビデオを見ることらしい。市民の権利と憲法による保護は触れられるのだろうか?人種差別によるプロファイリングを回避する仕組みは用意されているのだろうか?プロファイリングは,専門の司法機関や警察が行う場合であっても問題があるとされている。訓練されていない市民の集団はどのように対応するだろう?問題が起こったときに,ヒューストン空港はどう責任を取るつもりなのだ?

 第2の問題は,この制度が新たなセキュリティの脆弱性を生み出す点だ。空港周辺の地域は無人の警戒地域とされている。その地域に誰かがいれば,それだけですぐに怪しいと判断できた。その地域に人々が入れるようになってしまった。許可を受けている人と無断で入った人を,どうやって区別するのだ?写真付きIDカードは10フィート(約3m)離れても見えるだろうが,簡単に偽造できる。さらに,パトロール隊員は全員馬に乗っているので,馬を連れて西部風の格好をしていれば,多分そのまま信用されるだろう。この制度は,空港の安全性を高めるか?それとも危険性を増やすか?はっきりした答えは分からない。

 この2つの問題以上に,申し込み用紙がなかなか興味深い。パトロール隊員になるにはあらゆる権利を放棄する必要がある。パトロール隊員に与えられる権限を勝手に剥奪されても異議を申し立てられない。こうした権利を放棄させることは,この制度に存在するもう一つの大きなリスク――テロの企てを排除するのに,経歴調査だけでは不十分だというリスク――を低減させるための“代償”なのかもしれない。しかし,パトロール隊員の受け入れ側は,例えば「イスラム教徒を排除する」といったような独自のプロファイリングを行うつもりなのか?「受け入れ側は秘密裏に諜報機関の報告書を利用したいと考えている」という説明もできるだろう。

 この制度の最も面白いところは,証明書を要求することだ。応募者は,自分が既知のテロ組織のメンバーでないことを証明しなければならない。理解できる対応ではあるが,テロリストに真実を話すよう求める考えは少し甘すぎる。それにしても,なぜヒューストン市や「Houston Airport System(ヒューストン空港の管理会社)」とのあいだで訴訟を抱えている人や,起訴猶予になっている人を排除するのだ?駐車違反の件で争っている人をパトロール隊員にしたくないということか?

 最後に,応募者は“他国に対する暴力を容認している”グループのメンバーでないことを証明する必要がある。1年半前なら,民主党および共和党の党員は全員パトロール隊員になれなかったし,イラク戦争を支持したあらゆる政党も同じ扱いを受けただろう。

http://www.houstonairportsystem.org/rangers

The Registerに掲載されたオリジナル記事:
http://www.theregister.co.uk/2004/07/25/...

Copyright (c) 2004 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Houston Airport Rangers」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2004」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2004」日本語訳ページ
「CRYPTO-GRAM」日本語訳のバックナンバー・ページ
◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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