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 米America Online(AOL)と米Time Warnerの合併が米国時間12月15日に,ついにFederal Trade Commission(FTC:連邦取引委員会)により条件付きで承認された。世界最大のインターネット企業とメディア・コングロマリットの融合は,米国のみならず,日本をはじめとする諸外国のメディア産業の行方を指し示す,貴重なモデル・ケースとなるだろう。

 両社が合併計画を発表したのが2000年1月。当初は,すんなりと規制当局(FTCとFCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会))の承認を受けるかと思われた合併が,1年もの長きにわたって「待った」をかけられたのは,5月に起きたハプニングのせいだ。

 すなわちTime Warner社の所有するケーブル・テレビ会社(米Time Warner Cable)が突如,ライバルである米Disneyの所有するABCテレビ局の番組を流すことを拒否したのだ(米国ではABCやNBCなどの地上波テレビ局の番組も,ケーブル・テレビ会社のケーブル網を介して放送されるケースが多い。その理由は,ケーブル・テレビ放送の方が電波障害などもなく,クリアな映像を送れるからだ)。

 Time Warner Cable社は米国の主要な州で圧倒的なシェアを誇っている。ここがABC局の番組を締め出したということは,こうした地域の多数の住民が同局の番組を突然見られなくなることを意味する。ニューヨークに住む私も,ある朝チャネルをABCに合わせたら,画面がブルー(放送信号なし)状態になっていた。

 Time Warner Cable社がヘソを曲げたのは,ABCとのあいだでケーブル網使用権料などの契約条件で折り合いがつかなかったからだ。一時はクリントン大統領まで調停に乗り出すのではとさえ言われたが,2日後に両者の交渉が暫定的に妥結し,ABCの番組が復活した。

 この事件はFTCの委員たちの心に,Time Warner社に対する拭い切れない疑念を刻み込んだ。放送用ケーブル網という,強力なメディアを抱えるTime Warner社の独占体質を感じざるを得なかったからだ。「Time Warner社にインターネットまで無条件で与えてしまったら,とんでもないことになる」・・・と。

 かくしてFTCはAOL社とTime Warner社の合併計画に対し,強硬姿勢をとるようになった。

AOL-Time Warnerは妥協に次ぐ妥協

 これ以降,FTCは合併を認可する前提として,ケーブル通信網の独占を排除するための厳しい条件を次々と提示した。後には引けぬAOL-Time Warner社は涙を呑んで妥協を重ね,ようやく今回の認可まで漕ぎ着けたのだ。この後にFCCの承認をクリアする仕事が残されているが,こちらはほぼ確実視されている。事実上,AOL社とTime Warner社の合併は実現したと見てよい。

 AOL-Time Warnerが呑んだ条件のなかで最も重要なものは,同社が持つケーブル・テレビ放送網を,少なくともライバルのインターネット・プロバイダー3社に「格安の使用料」で開放することだ。テレビ放送用のケーブル網は,ブロードバンド(高速)・インターネット用のメディアに転用できる。これからのAOL-Time Warner社にとって,最も貴重な財産となる。

 AOL-Time Warner社は当初この開放を渋ったが,最終的にはFTCの圧力に屈せざるを得なかった。疑り深いFTCはさらに,「現段階でAOL社のライバルであるプロバイダーに,Time Warner社のケーブル網を使わせる契約を交わしたら合併を認める」という一種の事前保証を求めた。

 この結果,AOL-Time Warner社はライバル・プロバイダーのEarthlink社(AOLに次ぐ業界2位)に,「安くするから,うちのケーブル網を使って下さい」と頼み込むことになった。Earthlinkはユーザー1人当たり27ドルのケーブル使用料を,Time Warner Cable社に支払うという契約を交わした

 Time Warner Cable社は現在,Time Warnerグループ傘下のRoad Runner社に対し,形式的に30ドルの使用料を課している。Earthlink社はそれよりも3ドル安い料金で,Time Warner Cable社の保有するケーブル(=高速インターネット)網を使えるようになったのだ。これを見て安心したFTCは,AOL社とTime Warner社の合併に「ゴー・サイン」を出したのである。

 今回の合併認可に当たり,FTCが果たした役割は大きく,インターネット業界全体から非常に高い評価を得た。というのは今後,これと同じような形で,ケーブル・テレビ業者による高速通信網の開放が進むと見られるからだ。

 これまで米国で,ケーブルTV網を使った高速インターネットの普及が遅れていたのは,ケーブル・テレビ業者がインターネット・プロバイダーに対するケーブル網の開放を渋っていたからだ。これは電話会社が連邦通信法の規定に従って,通信網をインターネット・プロバイダーに開放することを義務付けられているのとは対照的である。

 もともとAOL社がTime Warner社の吸収に乗り出したのも,「ケーブル網を貸してくれないなら買収してしまえ」という発想に基づいている。それに成功したAOL社は今度はFTCの圧力によって,ケーブル網をライバル業者に開放せざるを得なくなった。結果的にAOL社は体を張って,ケーブル・テレビ業者の独占状態を打ち破り,インターネット業界全体に高速通信網の開放をもたらしたことになる。

 合併後のAOL-Time Warner社は,株式時価総額が2650億ドル,総売上高が340億ドルという巨大デジタル・メディア・コングロマリットとなる。合併が発表された1月時点での両社を合わせた時価総額は約3500億ドルだった。その後のITバブル崩壊を経て,AOL社の時価総額は32%,Time Warner社のそれは15%目減りした。

 この辺りにもAOL社のSteve Case会長の運というか,勝負強さが表れている。仮にいま合併に乗り出したとすれば,Time Warner社がAOL社を吸収する形になっていたかもしれない。現時点では,Time Warner社の時価総額が1360億ドルと,AOL社の1290億ドルを上回るからだ。

 またITバブル崩壊によって,他のインターネット関連株が軒並み70%以上も下落するなかで,AOL株が32%の下落にとどまったのは合併発表のお陰である。伝統的メディアの代表であるTime Warner社と手を組むという保険がついていたから,投資家たちはAOL株を手放さなかったのだ。Steve Case会長がどこまで先を読んでいたか判らないが,合併の時期としては「まさにこれ以上はない」という絶好のタイミングだった。

意外に難しいメディア企業同士の合併

 合併を実現させたSteve Case氏(AOL社)とGerald Levin(Time Warner社)の前には,巨大メディア企業の事業再編成という難題が待ち構えている。既に彼らの頭には,近未来のメディア・ビジネスのグランドデザインが描かれている。そこでは,Time Warner社の抱える豊かなコンテンツ(映画,音楽から書籍まで),多様な情報が大容量通信網(次世代インターネット)を経由して世界中に流されることになる。

 しかし逆の見方をすれば,グランドデザイン以上の詳細な計画はほとんど練られていない状態だ。

 この種の合併は,双方の経営陣が「我々の向かっている方向はほぼ正しい」と判断すれば,ゴー・サインを出してしまうことが少なくない。その後の具体的なプランは走り出してから考えるのだが,実はこちらの方が大変なのである。

 とりわけ巨大メディア企業同士の合併は,目に見えた成果を出すのが意外に難しい。過去に見られた歴史的とも言える巨大メディア同士の合併は,実はそれほどの効果をあげていない。

 たとえばTime Warner社の前身は,出版ビジネスを中心とするTime社と,音楽や映画などエンターテイメントを中心とするWarner Communications社である。1989年に両社が合併したときに業界関係者のあいだでは,お互いの異なる企業文化やメディア資産を上手く融合することができるかどうか,先行きを危ぶむ声が聞かれた。

 それから10年以上経過した今,Time Warnerの現状は「Successful dysfunction」という皮肉な評価を下されている。Successful dysfunction(成功した機能不全)とは,こういうことだ。

 仮にAととBというメディア・グループが合併したとしよう。そこに表れる結果には3通りある。合併後の売上高(あるいは利益や収入)が,合併前のAとBの合計よりも1)小さくなる,2)等しくなる,3)大きくなるの3通りである。

 当然,小さくなってしまうケースも十分考えられる。すなわち合併によって様々な部門がグループ内に並立する結果,それらのあいだに不協和音が生じ,経済的な逆効果を生じてしまうというケースだ。

 Time Warner社の場合,ここまで悪くはならなかった。すなわちA+B=A+Bという結果に終わった。2)のケースである。プラスにもマイナスにも働かなかったのは,両社のあいだで,異なるメディア間の有機的な相互作用を生み出せなかった。

 もしAとBの合併に意味があるとすれば,それは結果としてA+B以上の収入を上げることであるはずだ。Time Warner社の場合,A+B<A+Bにならなかったという点で最悪の事態は回避できた。しかし,合併によるシナジー効果を生み出すことができなかった。異なるメディア部門が同じ傘のしたで,お互いにソッポを向いて仕事をしている状況といえる。これがSuccessful dysfunctionと呼ばれる所以である。

 どうして期待外れの結果に終わったのだろうか。それは別種のメディアを融合させ,有機的に作用させるのが意外に難しいからである。

 それは次のような事例からも明らかだろう。Time Warner社の看板メディアは,総合週刊誌Timeとケーブル・ニュース放送のCNNである。部外者が漠然と見る限り,天下のTimeとCNNが一緒になれば,何か凄いことがやれそうな気がする。しかし,相乗効果が生まれる余地は意外に小さいのである。

 実際TimeとCNNの協力関係は現在まで,お互いの取材協力という形に留まっている。報道の質・量の向上に結びつくかもしれないが,経済効果は誤差の範囲に収まるだろう。これまで「活字」メディアと「映像」メディアは相容れなかったのだ。

 このように,異なるメディアの融合というのは意外に難しい。これまでのところ,期待に価する効果をあげていない。しかし今後は状況が異なってくる。異なるメディアを融合するインターネット(デジタル・オンライン通信網)が登場したためである。インターネットを使えば,これまで相容れなかった「活字」メディアと「映像」メディアでさえ有機的に融合することが可能なのである。

 これがメディア・コングロマリットが合併を急ぐ理由である。今年10月には仏VivendiとSeagramの合併も欧州委員会から認可されるなど,メディア業界の勢力図を一新する合従連衡が相次いでいる。

AOL-Time Warnerの課題,まずはリストラ

 こうしたなかAOL-Time Warnerの当面の課題は,リストラという気の重くなる作業である。ここ数回のコラムでも書いたが,バブル崩壊を経て米国のIT業界では,巨額の不良債権が徐々に表れるとみられる。バブルが破裂してから約1年のタイム・ラグを経て経済は減速し始め,やがてリセッション(景気後退)に突入する可能性が高い。

 先に見える嵐を見越した企業は,財布のひもを締め始めている。合併後のAOL-Time Warner社の従業員数は8万5000人に上る。より多くの従業員を抱えるTime Warner社の幹部には,既に合併後のレイオフ計画が内々に通達されていると噂される。

 しかしAOL-Time Warnerのような巨大企業は,今後予想される「冬の時代」を生き残るうえでで,比較的有利な立場にある。生き抜く措置として,合併に伴うレイオフというのも一つの手段ではある。少々の人員削減によって格段に戦力が落ちるということもない。こうした点から見ても,両社の首脳陣は今回の合併承認に胸を撫で下ろしているはずだ。

(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所)がある。

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