(Paul Thurrott)

 私は8月に,『Windows &.NET Magazine』の代表の何人かを伴い,テキサス州オースチンにあるDellのいくつかの施設に行ってきた。大抵の読者は,世界最大のPCメーカーである米Dell(旧Dell Computer)には,いくぶん詳しいだろう。しかし,ほどんとの読者は,どうやってDellが現在のような大規模で成功した企業になったか,理解していないのではないかと思う。私でさえ訪問中の発見に驚かされたのだから。

リアルタイム生産の現場を見た
 Dellは,テキサス州オースチンのラウンドロックとその周辺にある様々な巨大工場で,コンピュータを自動製造している。多くの読者がご存知の通りに,Dellの成功の一因は,受注内容に合わせて,リアルタイムにそのパソコン部品の必要条件を常に変え,必要数によって部品の最適な価格を決めていることにある。

 このために,Dellの価格はいつもかなり変動するが,同社はPC業界で最もよいコスト・パフォーマンスを維持できる。Dellは,実際のところかなりの巨大企業なので,メインになる部品メーカーは,Dell側の需要に常時合わせられるよう,近郊に部品倉庫を持っている。われわれの訪問中,出荷用トラックがサーバー製造工場の片側に乗り付けて,組み立て終わったシステムをユーザーの所に運ぼうとしている間にも,建物の別の側に部品が到着していた。

 工場の中は,Henry Fordが最初に作った自動車製造工程のように見える。注文が入ってくると,組み立てラインが動き始め,PCケースを通して明細書とパーツ請求書が動いていき,数多くの作業者のステーションの1つに届けられる。

 組み立てラインの作業では,様々な部品をそのPCケースの中に組み立てて,将来のサービス・コールに備えて,どの部品がどのシステムに組み込まれたかを技術者が正確に把握するため各部品をスキャンして識別する。それから完成品のケースは,ラインの下流にある文書やソフトウエアのディスク,他の細々したパーツを受け取る場所まで移動する。最後にキット全体が箱に入れられてから,パレットに載せられて工場の端っこに置かれる。そして,次に来るトラックで出荷されるために備えている。私は,各工程をかなり単純に描写したが,正直にいってそれは畏敬の念を起こさせるものだ。

企業文化が徹底している
 Dellは,他の大企業と同じように見え透いたミッション宣言を持ち,「顧客により良いサービスを提供すること」を誓約しているが,ちょっと変わった違いがある。

 今回の広報活動の一件で,彼らはわれわれと接触していらいらさせられているにもかかわらず,私はDellからちょっと違った感触を受けた。彼らは,同社の全体的な目標を達成することに常に真剣だ。目標とは,基本的にはユーザーが最良の価格で最良のコンピューティングを味わえるようにするということである。こういうと口先だけのように聞こえるだろうが,同社の様々な製品グループの人たちとのいろいろな取材の中で,この言葉が「マントラ(誦句)」のように繰り返し聞こえてきた。この信念は本当に同社の企業文化の一部になっているのだ。

 他にDellが成功した要因は,同社の徹底的な実利主義にある。批評家はしばしば,「Dellが革新を起こしたり,特定の製品分野や技術を担いで先陣を切ってマーケティングしたりする会社になったことはない」と指摘する。これらの批判は,真実を見落している。つまり,「革新がない」ということ自体が計画の一部なのであって,Dellが市場に参入するときは,同社はそれを支配しようとしているのだということだ。少し例を挙げよう。

慎重で確実な市場進出に一日の長
 1996年にMicrosoftが最初のWindows CEベースのハンドヘルドPCを発表したときには,Dellは明らかに相手にしなかった。そして,MicrosoftがPalm PCやPocket PCのためのソフトをアップデートしたときにも,同様に無視した。しかし,NEC,米Philips Electronicsやその他企業が,初期製品を出荷して,はっきり悲惨な失敗を見たあと,その市場がようやく活気を呈した2002年秋に,Dellはようやく「Aximシリーズ」のPocket PCで,市場に飛び込んだ。すぐに成功を収め,そのデバイスは優秀な評価と賞賛の言葉を得た。

 Dellから見てもっと重要なことは,販売中のPocket PCでは,Aximがいまや米Hewlett-PackardのiPAQに次ぐ位置にあるということである。Dellはプリンタやサーバー,ストレージの分野で,同じように市場を自ら開拓してきた。同社は近い将来に向け,他の製品分野で大きな市場参入の計画を立てている。

 そのポイントは,実際に製品を出荷することで,Dellが市場の妥当性を検証しているということであり,多くの意志決定者にとっては,Dellが参入したときに限って,その製品分野が評価に値するものになる。確かに技術的には革新的ではない。つまり市場で最初になることよりも,強力なビジネス戦略だとはっきり証明されることを求めている。

企業ユーザーへの配慮が行き届いている  最後になるが,HPと米IBMを含む多くの会社が,類似のプログラムを持っているにもかかわらず,Dellは,法人客へのサービス提供について,称賛に値する仕事をしていることを指摘すべきだろう。消費者向けの「Inspironシリーズ」が2〜3カ月でモデルを変えるのに対して,ノートブック型の「Latitude」のような企業向けの製品は,プラットフォームとして最低でも2〜3年は残り,製品仕様としても12〜18カ月は続くように製造してきた。企業ユーザーは,Dell製品を長い年月にわたって使えることを確実にしておきたいと考えており,使い終わる前に製品が時代遅れになるのを心配しなくて済むことを望んでいる。

 DellはLatitude製品のパーツの互換性を維持し,将来のアップグレードにも痛みが少ないことを保証している。つまりバッテリや光学式ドライブなどは,長期にわたって存在するLatitudeシステムで広い範囲にわたって互換性がある。最近,Dellは「Latitude Cシリーズ」の販売を収束し始めているが,それは1997年に登場したもので,コンピュータ業界でははるか昔だ。新しいDシリーズではCシリーズと部分的な互換性はないが,Dellはこの新しい系列の製品が,4〜6年のライフサイクルを持つことを期待している。Dシリーズは,老朽化したCシリーズでは完全には実現できないモバイル・コンピューティングを目指して作られた。例えば,すべてのDシリーズ・システムが,CPUにPentium Mを採用している。

 さらに,Dellはその顧客が欲するものと,買っているものに鋭く気が付いている。それを踏まえたうえで将来を考え,同社は新しい市場に展開しようとしている。それは,現在の顧客の要望により適合するような面白い計画だ。この情報のほとんどは,守秘義務契約(NDA)の下にあるのだが,今後数カ月のうちにもっと語れるようにするつもりだ。

 われわれは,将来もっと多くのメーカーを訪問する計画を立てているが,今回Dellでのぞいた舞台裏の話は,価値あるものだったろうか。読者の方の感想を教えてもらいたい。また,ほかにあなたがもっと知りたい会社があるかどうかも教えてもらいたい。