「企業がITを活用して競争力を高めるには,ITが経営トップに分かりやすいものであることが不可欠。そのために,ITベンダーとユーザー企業が新たな関係を築いていかなければならない」――。

 2004年2月4日に幕張メッセで始まった「NET&COM 2004」のキーノート・スピーチで,JTBの取締役(情報システム担当)である佐藤正史氏は力強く語った。変化に対処できない企業が淘汰される今,ITをいかに活用するかが企業の存続を左右する。しかし経営トップは,その重要さを認識しつつも実体がよく分からない,という状況が続いている。この問題を解決するためには,ベンダーとユーザー企業が適切な責任分担をすべきだと佐藤氏は指摘した。

 佐藤氏の提言は,ITベンダー側,ユーザー企業側それぞれに及んだ。ITベンダーに向けてのメッセージは「システム開発のプロフェッショナルとして,品質,納期,コストのすべての要求が満たされたシステムを納品してほしい」というもの。

 経営トップにとってITを分かりにくくしている原因の1つが,システムに携わるユーザー企業の社員が本来注力すべきこととは別の作業に多くの時間を割かれてしまうこと。ユーザー企業が力を注ぐべきなのは,納品されたシステムをいかに活用して高い効果を出すか,である。

 しかし,先ほどのようなメッセージをITベンダーに出さざるを得ないのが現実である。ユーザー企業はシステム活用以前の問題に多くの時間を割かざるを得ない。納期やコストが当初の予定通りにならなかったり,期待通りの動作をしないシステムが多いからだ。「車を買うとき,車がカタログ通りに動くかとか,カタログどおりの価格で買えるかといった心配をする人はいない。しかしシステムに関しては,こうした状況が当たり前になっている」(佐藤氏)

 さらに,こうした問題を解決するためにユーザー企業にも専門的なスキルが必要とされる。「本来,すべての専門スキルはITベンダーが持っているべきもの。ITベンダーはユーザ企業に専門知識を求めることなく,システム開発のプロとして自らの存在意義を確立してほしい」(佐藤氏)

 一方のユーザー企業側には「自らソリューションを作り出すべき」だと提言した。経営トップにとってITを分かりにくくしているもう1つの原因が,ITに投資してもそれに見合った収益が得られないということである。この問題の責任は,ITベンダーから与えられるパッケージ製品をそのまま適用してしまうユーザー企業にあるという。企業が抱える問題の解決策として,“ソリューション”という名のついたパッケージ製品が多く登場している。それらは汎用的であることを重視するがゆえに「全体最適化されたものになっている」(佐藤氏)

 しかし個別の企業にとって大事なのは,自社をいかに他社と差異化するか,である。ベンダーの言葉に乗せられてパッケージ製品を単に導入するだけでは,これは実現できない。パッケージを使う側が,これを十二分に理解することが重要だと佐藤氏は語る。「ソリューションは,個々のユーザー企業が詳細かつ克明に描いて初めて実現できるもの。パッケージ製品はそのうちのツールの1つに過ぎないことを認識すべき」(佐藤氏)

 ベンダー側とユーザー側の双方がこうした努力をして初めて,企業にとって真に価値のあるシステムが作れると佐藤氏は最後に強調した。その結果「日経コンピュータ誌に『動かないコンピュータ』という記事が不要になってほしいと願っている」と講演を締めくくった。

(八木 玲子=日経バイト)