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 物質・材料研究機構や理化学研究所などによる研究グループは2005年1月6日,金属原子の伸び縮みによって電流をオン/オフするスイッチング素子「原子スイッチ」の試作に成功したと発表した。現在の電子回路のスイッチング素子として使われる半導体部品に比べて低い動作電圧でスイッチングできるのが特徴。今回試作した原子スイッチの動作電圧は600mV。加えてスイッチのオン/オフは電圧をかけない状態でも維持されるため,半導体部品の100万分の1程度に消費電力を削減できるという。構造が単純なので微細化にも有利。10nmの立方体程度の大きさに一つのスイッチを作り込める。今後は携帯情報端末や携帯電話向けのプロセッサやメモリーとしての実用化を目指す。

 トランジスタは電流が流れる「ソース」「ドレイン」の両電極間の絶縁状態を,「ゲート」と呼ぶ制御用の電極にかける電圧の有無で制御してスイッチをオン/オフする。現在電極間の距離は65nmまで短くなっているが,10nm程度で絶縁状態が保てなくなり,微細化の限界を迎える。

 これに対し原子スイッチは,硫化銀の電極と白金の電極を1nm離した構造。白金電極の電圧をマイナスにすると,硫化銀電極から移動した銀の原子が白金電極に触れスイッチがオンになる。白金電極の電圧をプラスにすると,銀の原子が硫化銀電極の中に戻りスイッチがオフになる。オフの状態では物理的に隙間が空いた状態になる。

 スイッチの機能はトランジスタより多い。原子スイッチは電圧をかける回数で移動する銀原子の数を制御できるため,1回目のオン状態と2回目のオン状態で流れる電流の量を変えられる。この性質を利用すると,複数ビットを記憶できる多値メモリーや脳の神経細胞(ニューロン)を模倣した回路を一つの原子スイッチで作成できる。

 同研究グループは既に原子スイッチによるAND,OR,NOTの論理演算回路を試作。この基本回路を組み合わせることで,コンピュータに必要な論理回路をすべて形成できる。将来は10mVの動作電圧で1GHz超の動作が可能だという。

(高橋 秀和=日経バイト)

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