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写真1 右から,NECシステムデバイス研究所の
丸橋健一主任研究員,嶋脇秀徳
研究統括マネージャー,大畑恵一主任研究員。

 NECは2005年4月1日,60GHz帯を使うミリ波(30G~300GHzを使う電波)で通信する家庭向けトランシーバーを開発した。これまでミリ波を使う通信装置としては,屋外(ビル間や競技場での通信)用途の装置や,1Gイーサネットの無線装置,車間センサーが開発されている。今回NECが開発したトランシーバーは,宅内用途に特化した小型装置(縦70×横50×奥行き15mm)である。ミリ波は数Gビット/秒という高速性が特徴。同社が開発したトランシーバーは伝送距離が7m,通信速度は約1Gビット/秒だ。だが,電波の指向性が強く遮蔽物があると通信できなくなってしまうというミリ波ならではの欠点もある。宅内での利用を考えての工夫や製品化に向けた課題について,開発者であるシステムデバイス研究所の嶋脇秀徳研究統括マネージャー,丸橋健一主任研究員,大畑恵一主任研究員に聞いた。(聞き手=堀内 かほり)

――どのような使い方を考えているのか。

高画質なHD(High Definition)画像をDVDレコーダーから受像機へ送信するという使い方を考えている。今後,壁掛けテレビが普及した場合,配線がいくつも出ていると見栄えが悪い。ミリ波トランシーバーを使えば,テレビを見ている人の後ろに目立たないように受信機を設置し,テレビに向けてデータを送信するような構成にできる。また,テレビにレコーダー機能が内蔵されるようになったときに,今持っているレコーダーと接続したいというニーズが考えられる。そのときに薄型のテレビに対して,大きなレコーダーを有線で直接つなげるのではなく,レコーダーを見えない場所に隠して無線で映像を送信するという使い方ができる。

――なぜ家庭内での用途に注目したのか。

 今までビル間の通信や,競技場における高画質映像を伝送する装置を開発してきたが,爆発的な裾野の広がりは見えない。ユーザーの多さという点でコンシューマ向けの製品を考えたところ,受け入れられやすいのは映像の伝送だと思った。ようやく高画質なHD画像を家庭でも見ることが増えてきて,ミリ波のような高速な伝送媒体が必要になってきた。今は無線LANが多く使われているが,映像を安定的に送れるほど高速ではない。ミリ波であれば,1.5Gビット/秒のハイビジョン画像を非圧縮で伝送できるため,コーデックが必要なく速い動きにも対応できる。

――非圧縮だとビットレートが1.5Gビット/秒だが,今回発表したトランシーバーの最大速度は1Gビット/秒。どのように伝送するのか。

 今回発表したトランシーバーは1Gビット/秒で伝送するが,画像データは圧縮しない。なぜなら,人間の視覚に影響を与えない程度に信号量を減らしているからだ。具体的には,明るさに関する輝度信号はそのまま変えずに,色に関する色差信号のデータ量を半分にしている。

――家庭内での用途を考えて工夫した点は何か。

 ポイントは三つある。一つ目が,レコーダーなどのAV家電が備えるD端子と直接つなげるようにしたこと。二つ目がトランシーバーの向きなど細かい調節をしなくても使えるようにしたこと。このために,まず横30度,縦15度まで電波の到達領域を広げた。次に,受信機を2台使い,遮蔽物の有無などの伝送状態に応じて経路を切り替えるようにした。三つ目が受信機が目立たないように名刺よりも小さいサイズにしたこと。発信器を小型化して内蔵し,電源を三つから二つに減らしたことで大分小さくできた。

――ホームネットワークの伝送媒体としては無線LANが多く使われているが,ミリ波はどのような場面でメリットがあるのか。

 ミリ波は伝送距離が短かったり部屋間の伝送も無理だったりという欠点がある。具体的には,伝送可能距離は見通しが良ければ7m。素材が紙や段ボール,石膏が間にあっても伝送可能だ。しかし,人が間に立って遮断したり金属が使われている家具があると通信できない。距離が必要な場所や間に遮蔽物がある場所は,無線LANに任せて,高速な伝送媒体が必要なところに使えればいいと考えている。高画質な映像を非圧縮で送信するなど,1Gビット/秒という高速性が欲しくなる場所はあるだろう。また60GHz帯を使うので電波の干渉はほぼないため,映像を安定的に伝送できる。

――製品化に向けての課題は何か。

 技術的にはほぼ完成している。今後細かな調整が必要な点として,受信機を切り替えるときに一瞬映像が乱れてしまう点を改善することが挙げられる。また,D端子からアナログで入力したデータをデジタルに変換する回路を小型化する必要もある。今は試作機なのでサイズを気にせず作ってあるし,外付けになっている。これをASICにすべきだが,それにはある程度の投資が必要だ。大量に購入したいという顧客が出てくれば小型化は可能だろう。今のところ2年後までには実用化したいと考えている。価格はどの程度になるのかはっきりいえない。先ほどの回路をASIC化できるかや製品の形状や大きさ,生産量によって大きく変わるためだ。

(聞き手=堀内 かほり)


写真2 名刺より小さいサイズの受信機をテレビの上に2台設置して,伝送状況が良い受信機を使ってデータを受信する。


写真3 受信機の内部。アンテナ(右半分)と電源(左半分)がほぼ半分ずつの大きさで搭載されている。