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プロジェクトマネジメントの重要性について,第一人者であるハロルド・カーツナー博士に尋ねた。博士は,「日本企業が21世紀に世界市場で競争力を維持するために,プロジェクトマネジメントの導入が必須になる」と言明。米国の多くの企業や組織において,プロジェクトマネジャは,経営者,技術者に続く第三のキャリアパスになったという。今後の方向として,企業単独ではなく,企業グループ全体でプロジェクトマネジメントを導入する動きが活発になると予想する。

(聞き手は谷島 宣之=コンピュータ第一局編集委員)

ハロルド・カーツナー(Harold Kerzner)博士

■プロフィール
 米ボールドウイン-ウォレス大学でシステムマネジメントの教授を務める。オハイオ州にあるプロジェクトマネジメントのコンサルティング会社,プロジェクトマネジメント・アソシエイツの社長でもある。専門はプロジェクトマネジメントと戦略立案。イリノイ大学やユタ州立大学で教鞭をとった。民間企業に在籍して,NASA,米軍関連のプロジェクトマネジメント業務をてがけた実績を持つ。
 米国/カナダ,欧州,中東,南米,アフリカ,アジアなど世界各国で,プロジェクトマネジメントのトレーニングやコンサルティングを実施しており,博士の講義を聞いた参加者は20万人を超えているという。
 20冊近くのプロジェクトマネジメント関連書籍を著しており,主著「Project Management:A Systems Approach to Planning,Scheduling and Controlling」(John Wiley & Sons ,2000)は米国の大学院などで,プロジェクトマネジメントの教科書として採用されている。

――プロジェクトマネジメントは日本企業にとってどのような意味があるのか。

 日本企業が21世紀に世界市場で競争力を維持するために,プロジェクトマネジメントの導入が必須になるだろう。プロジェクトマネジメントは取り組んだほうがいいといったものではない。必ず取り組むべきものである。不幸なことに,日本においては,この重要性の認識がいささか遅れていたように思う。

 なぜプロジェクトマネジメントが重要なのだろうか。その理由を3点挙げてみる。第1に,利益の確保がある。日本では企業において,プロジェクトマネジメントのコンセプトは素早く理解された。というのも多くの企業には,プロジェクトの利益を追求するという動機があるからだ。ただし,政府や官公庁組織にはこうした動機がなく,生き残れるかどうかというプレッシャがない。

 第2に,景気後退や望ましくない経済状況にあって,企業は生き残るために,変化しなければならない。企業はこのことを認識し,経済の変化に迅速に対応している。政府や官公庁も同様のプレッシャを感じているが,民間企業ほどではないのではないか。

 第3に,効果的なプロジェクトマネジメントにより,企業は生産性を向上できる。より少ないリソースで済み,しかも品質を低下させない。新製品をこれまで以上のスピードで市場に投入できるようになる。それゆえ,市場におけるリーダーシップを維持したいと考える企業は,プロジェクトマネジメントを導入し,リーダーの座を保とうとしている。さもなければ企業戦略を変更し,リーダーの後を追うフォロワー企業になるしかない。

経営者,技術者に続く第三のキャリアパスになる

――米国における状況はどうか。

 米国においてプロジェクトマネジメントは,職業(プロフェッション)の一つとして確立しつつある。多くの企業や組織は,三つのキャリアパスを持つようになった。経営者(マネジメント),技術者(テクニカル),そしてプロジェクトマネジャである。生き残るためにプロジェクトに取り組まざるを得なくなった企業において,プロジェクトマネジャのキャリアパスが最初にできあがってきた。

 米国の企業が積極的に取り組んだ理由は,先に述べたように利益の確保であった。さらにもう一つ,品質の向上もある。例えば,米国の自動車関連メーカーである,ジョンソン・コントロールズ・オートモーティブ・システムズ・グループは,プロジェクトマネジメントの導入により,品質改善に取り組んだ。同社は1990年代の6年あまりの間に,顧客や評価団体などから,164もの表彰を受けた。品質改善の成功理由を問われるたびに,同社はプロジェクトマネジメントについて言及している。

 プロジェクトマネジメントは米国では非常に受け入れられており,生き方そのものになりつつある。しかし,他の諸国においては,まだまだと言える。私の見るところでは,経営陣は重要性を認識し,組織にその導入を命じているが,なかなか進まない。その理由は権限移譲の有無にある。プロジェクトマネジメントを効果的に機能させるために,組織は権限と意思決定をプロジェクトマネジャに委譲しなければならない。ところが多くの国で,経営者はこうした権限移譲をしていない。

――プロジェクトマネジメントの導入を成功させるカギはなにか。

 教育とトレーニングが,プロジェクトマネジメントを導入するための最善の策である。ここで重要なのは,社員全員をトレーニングすることである。まず経営陣の教育から始めるべきだ。これはかつてのTQM(全社的品質管理)の導入と同様である。先に紹介したジョンソン・コントロールズは,全員をトレーニングすることで,プロジェクトマネジメントの導入と品質改善に成功した。

 「プロジェクトマネジャだけトレーニングすればいい」という考えもあろう。しかし,このやり方では必ず失敗する。ラインマネジャや経営陣がプロジェクトマネジャをどのようにサポートすればよいか,理解できないからだ。

 教育についてもう一つ,よくある間違いは,プロジェクトマネジメント教育に費やしたお金を支出と考え,特にリターンを求めないことだ。今や,企業はプロジェクトマネジメント教育のROI(投資対効果)を認識している。ある米国企業は定量的な評価を実施した結果,プロジェクトマネジメント教育のROIは700%あったと報告している。

「PM成熟度モデル」を活用せよ

――カーツナー博士が研究している「PMMM」とはなにか。

 企業がプロジェクトマネジメントの利益をいち早く得たいならば,卓越したプロジェクトマネジメント力を獲得するための戦略計画を立てなければならない。ここで役立つのが,「PMMM(プロジェクトマネジメント成熟度モデル)」である。

 PMMMとは,プロジェクトマネジメントの組織の成熟度をレベル1からレベル5までの五つの段階に分けたものだ。PMMMにより現状の組織における成熟度を知ることで、次のステップに進むために何をすべきかが分かる。つまり,プロジェクトマネジメントを組織内で成熟させ、競争力がある優れたプロジェクトマネジメント手法を取り入れていく上での指標と言える。

 PMMMは上級のマネジメントに対し,短期間でプロジェクトマネジメントの利益を得るためのガイドラインを提供する。PMMMを使うことで,組織は他社の失敗から,効果的なプラクティスを学ぶことができる。PMMMがなければ,自分自身の失敗からしか学べない。つまり,何度も失敗しなければならなくなる。

――企業はPMMMをどのように使うのか。

 企業は自社の要請に合致したPMMMを作る必要がある。あらかじめ用意されたガイドライン,テンプレート,チェックリストを,自社の要請に合うように修整すればよい。PMMMの中にアセスメントの仕組みがあるので,企業は自社がどの程度プロジェクトマネジメントに習熟したかを自分で判断できる。

 企業は何人かの社員を選び,毎月,アセスメントの仕組みを使って,自社の成熟度を評価していく。こうして月ごとの改善度合いを確認できる。このようにPMMMを使うと,自社内の各部門の成熟度を比較したり,あるいは他社や他の産業と比較可能になる。

企業グループでPMを導入する時代

――プロジェクトマネジメント関連で今後重要になるテーマはなにか。

 今日のビジネスの傾向は,顧客のニーズに合ったソリューション(問題解決)を提供することにある。単なる製品提供だけではニーズを満たせなくなってきた。したがって企業や産業は,ソリューションを提供できるプロジェクトマネジメントの力があることを,顧客に理解してもらわなければならない。

 そこで,現在起きているのは,産業界全般にまたがって,プロジェクトマネジメントを導入する動きである。例えば,フォードやゼネラルモーターズ(GM)は,彼ら独自のプロジェクトマネジメント方法論を作っている。自社の社員が方法論を受け入れ,利用し始めると,社員たちは部品供給会社へ行ってこう言うだろう。「当社のプロジェクトマネジメント方法論を受け入れてもらいたい。当社のものに匹敵する方法論をお持ちなら,ぜひ見せていただきたい」。

 こうして一次の部品供給会社が卓越した方法論を身に付けていけば,自動車産業全体が,製品提供に加え,ソリューションを提供できるようになっていく。自動車産業がこうしたプラクティスを維持できると,製鉄,コンピュータ,電機,ゴムなどあらゆる産業にこの動きが広がっていく。プロジェクトマネジメントをうまく導入できた企業群が,将来にわたって成功する企業群になるだろう。