日経コンピュータ編集長 横田 英史

 筆者が社会人となったのは20年あまり前。希望に燃えて入社したのは、ある重工メーカーでした。入社式の社長訓辞はほとんど覚えていませんが、なぜか一つだけ記憶に残っているフレーズがあります。それは、「“あせらず、あわてず、あきらめず”を心がけて欲しい」というものです。

 この言葉を、いつのまにか社会人歴20数年となった先輩として、筆者から皆さんに贈りたいと思います。継続は力です。仕事のため、自分の将来のため、何でも構いません。趣味だっていいでしょう。「芸は身を助く」の言葉もあります。

 社会人生活では、コツコツ積み上げ、地力をつけていくことが非常に重要です。筆者が編集長を務める日経コンピュータで、SEの在り方について長年連載をお願いしている馬場史郎氏は、自らの現場での経験を基に、「酒を飲んでも、どんなに疲れていても、寝る前にマニュアルを1ページ必ず読むこと」(SEを極める、50の鉄則、弊社刊)を勧めています(SE以外の方は、「マニュアル」のところを適切な言葉に置き換えてください)。易きに流れがちな者としては実に耳の痛い言葉ですが、まったく同感です。

「速筋」と「遅筋」を鍛える

 研さんを積むときに、気をつけて欲しいことがあります。筋肉で言うところの、「速筋」と「遅筋」をバランスよく、うまく鍛えることです。ご存知のように、速筋は瞬発力の必要なとき、遅筋は持久力のための筋肉です。いずれか一方の筋肉だけを鍛えて、“極める”という手もありますが、万人向けではないのでお勧めしません。

 社会人としての「速筋」は、何か新しいことが起こったときに、パッと身構えスタンバイするために使います。よく言われるように、「幸運の女神に後ろ髪はない」のです。何ごとも、最初の一歩が肝心です。最初の一歩が出ないために、チャンスを逃すことはよくあります。

 では最初の一歩をスムーズに踏む出すには、どうすればよいのでしょうか。一つは情報収集だと思います。世の中の動きを的確にとらえるために、新聞やインターネット、専門誌からの情報収集を日ごろから心がけることです。そしてそれを、消化しておくことが大切です。何か変化が起こったときに、日ごろの蓄積が不足していると比較するものが少ないので、変化の大きさや意味を感じ取ることができません。いずれにせよ速筋の鍛錬では、無理なく、継続できる、自分なりの情報収集術と整理術を見つけることがポイントになります。

 もう一方の「遅筋」は、速筋を使って一歩踏み出した後に、どのように動くかを判断するために利用します。現在は非常に動きの激しい社会です。次から次へと、いろいろな事件が起こります。いちいち過敏に反応していては身が持ちません。適切に取捨選択して、的確に行動することが肝要です。そのために欠かせないのが、「時代を見る眼」「全体を見る眼」です。世の中を横からではなく、上から(高い位置から)見る力が求められます。

 日本企業のコンピュータ化に黎明期からかかわってきた戸田保一氏(アルゴ21技術担当特別顧問)は、筆者とのインタビュー「SE一筋,50年:システムは夢とロマンにあふれてる」で次のように語っています。

 「新しいシステムを作ろうとするときに、往々にして経理の仕組みがどうなっているんだろう、営業の情報管理のやり方はどうだということが気になるんですよね。新しい営業情報の管理をお客さんは望んでいるとなると、ズバリそこのところをより詳しく見たり勉強したりするところから入っていきたい。だけど、こうした気持ちをぐっと我慢して、最初に会社全体を見るべきなんです。場合によっては、取引先を含めた情報の流れを見る。これも全体の非常に大きな要素ですから、こうしたところから取り組むことが大事ですね」。

 では、どうすれば遅筋を鍛え、全体が見えるようになるのでしょうか。

 一つの方法は、社会人としてできるだけ幅広い経験を積むとともに、専門外の分野を含め偏りのない知識を身につけることです。日ごろから広い視野を要求されている部課長クラスの方々が読んでいる雑誌や書籍から、自分にあったものを見つけて目を通すのも手でしょう。世の中や業界を上から見る力を養えますし、上司がいま何を考えているか、これからどうしようと思っているかを知る上でも有効です。

 IT(情報技術)にかかわる方には、宣伝くさくて恐縮ですが、ITの総合誌「日経コンピュータ」をお薦めします。これ1冊でITに関することは十分というコンセプトで編集しています。ハードウエア、ソフトウエア、ネットワークに関する最新技術と動向、事例などをカバーしています。幅広い視野を求めるあなたにピッタリです。

 いずれにせよ、皆さんには長い社会人としての人生が待っています。“あせらず、あわてず、あきらめず”、着実に歩を進めてください。