ホテル・チェーンのグリーンズは今年7月、インターネットVPNと、10M~100Mビット/秒の光ファイバによるブロードバンド・サービスを使って、全社ネットワークを再構築した。従来は64k~128kビット/秒のフレーム・リレー網を利用していたので、通信速度が飛躍的に高まった。通信コストも、従来の半分に削減できたという。導入や運用の手間を省くために、Windows2000 Serverの標準機能を使ってインターネットVPNを構築した。

 「これまでホテルの現場では、手元に持ってきて使うグループウエアのデータベースをレプリケーション(複製)するのに、タバコを2本吸えるだけの時間がかかっていた。ネットワークが速くなった今は、本社に設置したサーバーに、現場からアッという間にアクセスできるようになった」。三重県四日市市に本社を置くホテル・チェーン、グリーンズの赤塚太志電算室課長は、全社ネットワークを再構築したメリットをこう語る。

 グリーンズは、三重県と愛知県を中心に26軒のホテルを運営している。年商は78億円。同社は今年7月に約3000万円を投じて、インターネットVPNを使った新・全社ネットワークを全面稼働させた([拡大表示])。インターネットへの接続回線には、主として、NTT西日本が提供するブロードバンド・サービス「Bフレッツ」を採用。プロバイダには、NTTコミュニケーションズを選んだ。

 グリーンズは、送受信するデータの量に応じて、本社では100Mビット/秒、ホテルでは10Mビット/秒のBフレッツを導入した。同社の場合、実効速度はそれぞれ30Mビット/秒と5Mビット/秒だという。従来は64k~128kビット/秒のフレーム・リレーで拠点間を接続していたので、通信速度はケタ違いに向上した。年間の通信コストも、1200万円から600万円に削減できた。

図●グリーンズの新しい全社ネットワークの概要。インターネットVPNと、光ファイバによるブロードバンド・サービス「Bフレッツ」を使って、本社とホテルを接続する。一部のホテルではADSLを利用する

 インターネットVPNは、Windows2000 Serverが標準で装備するVPN機能を使って構築した。同OSを搭載したサーバーを、本社やホテルに「VPNサーバー」として設置。これにより暗号化の処理などを実行する。一般にインターネットVPNを構築する場合、VPN機能装備のルーターや専用装置を使うことが多い。マイクロソフトによれば、「全社規模のネットワークをWindows2000 ServerのVPN機能を使って構築する例はまだ少ない。グリーンズは国内で5本の指に入る先行事例だ」(Windowsサーバー製品部の川岡誠司シニアプロダクトマネージャ)という。

グループウエアが実用に耐えない

 グリーンズが全社ネットワークの再構築に踏み切ったのは、昨年8月に稼働させたグループウエア「ノーツ/ドミノ」の処理速度が実用に耐えなかったからである。同社はこれまで、(1)セキュリティが重視されるデータベースは本社のサーバーに置き、ホテルからネットワーク経由でアクセスする、(2)セキュリティがそれほど重視されないデータベースはホテル側のクライアント・パソコンのディスクに置き、ローカルにアクセスする、という運用方針を採っていた。クライアント・パソコンのデータベースは、必要に応じてレプリケーション処理で本社のデータベースと内容の同期を取る。

 「タバコ2本が吸えた」のは、朝一番など“差分”が大きいレプリケーション処理を行う場合である。さらに、本社に直接アクセスする場合は、「あまりに遅く、事実上は動かないようなものだった」と赤塚課長は打ち明ける。グリーンズは、ホテルを利用する顧客から褒められた事例やしかられた事例を従業員間で共有し、顧客満足度の一層の向上を図るためにノーツ/ドミノを導入した。しかし、その使い勝手は、決して満足のいくものではなかった。

 そこでグリーンズは、ノーツ/ドミノを“使えるモノ”にするために、米シトリックス・システムズが開発したミドルウエア「MetaFrame」を利用することで、転送速度を向上させようと検討した。MetaFrameは、ノーツ/ドミノのようなクライアント/サーバー型アプリケーションのクライアント・モジュールをサーバー機で稼働させ、クライアント機から操作できるようにするもの。画面や制御情報しかネットワークに流れないので、ネットワークにかかる負荷を軽減することができる。

 しかし、「MetaFrameを導入しても根本的な解決にはならないことが分かった。添付ファイルのある電子メールをやり取りする場合、回線が64kビット/秒のままでは、やはり膨大な時間がかかってしまうからだ」(赤塚課長)。結局、ネットワークを抜本的に高速化することしか解決策は見つからなかった。

森 永輔




 グリーンズにお邪魔して「新ネットワークを全社展開する前に、2週間の実証テストを行った」というお話を伺っている最中、記者は、「アポロ13号」という映画のことを思い出しました。

 映画の詳細は覚えていませんが、月に向かったアポロ13号に故障が発生し、地球に戻れなくなるという話でした。主演は確か、トム・ハンクス。

 結果的にはアポロ13号は帰還できます。科学者たちが英知を結集して解決策を見出したからです。NASA(米航空宇宙局)の基地には、アポロ13号とまったく同一の環境が用意されており、科学者たちは、そこにあるものだけを使って酸素の確保や故障個所の修理が行えるか、考え抜きました。

 記者がこの過程ですごいと思ったのは、科学者たちが、一つの方法を思いついたときに、「一か八か、これでやってみよう」とはならかったこと。複数回のテストを行い、効果のあることが検証された方法だけ、アポロ13号に伝えました。土壇場になってもテストの手を抜かない姿勢は、どこかの銀行の参考にもなると思いました。(森)