消費者金融最大手の武富士が、独自のビジネス・モデルでクレジット事業に参入した。他社が手がけていない個人商店などの加盟店を開拓するため、手数料を安く設定し、決済用の無線端末を無償貸与する。開発体制の工夫などによって、35万ステップの新システムをわずか半年で稼働させた。

 武富士が10月20日に提供を始めた「テイク ビッグ セブン マスターカード」は、既存の融資サービスに使うローンカードの機能に、クレジットカードの機能を追加したもの。同社が新たに開拓した約1000の加盟店はもちろん、国内外のマスターカード加盟店で商品をクレジット決済で購入できる。

 武富士のクレジット事業参入は、消費者金融大手4社の中で最後発。それだけに、独自のビジネス・モデルで他社との差異化を図ろうとしている。

 まず注目されるのは、クレジット事業で先行する他社が、これまであまり手がけてこなかったような加盟店を積極的に開拓していること。米穀店や雑貨店といった個人商店や病院など、一般消費者の日常生活に密着した加盟店の獲得に注力している。これについて同社の馬場芳彦常務は、「既存の顧客層を意識した戦略。クレジットカード・サービスには、お客様が当社の融資サービスを利用するきっかけとしての役割も期待している」と説明する。

安価な手数料と端末の貸与で差異化

 武富士が狙いをつけたこのような業態では従来、クレジット会社に支払う手数料の高さや決済端末のコストなどが障害になり、クレジット決済の導入がほとんど進んでいなかった。武富士がそこにあえて挑戦するのは、「加盟店からの手数料で儲ける」という従来のクレジット事業のビジネス・モデルを捨て、本業である融資サービスの顧客を開拓する戦略として重視しているからだ。「クレジット事業によって、これまで融資サービスを利用することのなかった顧客層を獲得できると期待している。クレジットカードの利用者を増やすため、1年以内に1万の加盟店を開拓したい」(馬場常務)。

図●武富士は新たな顧客を開拓するため、ローンカードにクレジットカード機能を組み込み、クレジット専用の決済システムを開発した。クレジットカード加盟店に置く無線端末から、パケット通信サービス「DoPa」を利用して決済する

 個人商店や中小企業が大半を占める加盟店に対し、武富士はさまざまなインセンティブを用意する。例えば、カード利用日の翌日に、加盟店がATM(現金自動預け払い機)で売上金を引き出せるようにした。ほかのクレジットカード会社の場合、月1~2回の締め日の後に、手数料を差し引いた売上金を加盟店に支払う、といった方式が一般的だ。

 また、加盟店が武富士に支払うクレジット決済の手数料を、売上金の1%に抑えた。通常は3~5%程度である。同社は明言こそしないものの、ほかのクレジットカード会社からの加盟店の乗り換えを期待しているとみられる。加盟店に決済用の無線端末を無償で貸与することも、従来のクレジットカード業界の常識を覆す戦略である。

 融資サービスの顧客開拓に主眼を置くとはいえ、武富士はクレジット事業単体でも確実に利益を出すつもりだ。「3年後には270万~280万人の利用者を獲得し、黒字転換する見込み」(馬場常務)である。融資サービスにしか使えない既存のカードを持っている顧客に対しては、クレジット機能付きの新カードへの切り替えを促していく考えだ。

既存資産を生かし開発工数を削減

 武富士のユニークなビジネス・モデルを支えるのが、会員管理や加盟店管理、与信照会、クレジット決済などの機能を持つ新システムだ([拡大表示])。利用者が武富士の加盟店で商品を購入すると、加盟店の担当者が決済用の無線端末(写真)にクレジットカードを装着。NTTドコモのパケット通信サービス「DoPa」を利用して、会員の属性データや売買データを新システムに送信する。与信照会で問題がなかったら、利用者のクレジット口座から購入金額を引き落とし、その翌日に手数料を差し引いた金額を加盟店の口座に振り込む。

 武富士は新システムの構築にあたり、「既存のシステム資産を極力生かしながら、クレジットカード機能を追加する」(馬場常務)という基本方針を打ち出した。データベースは、融資サービスを処理する基幹系システムのものを利用し、データ項目などを追加。アプリケーションは、基幹系システムに付加する形で新規開発した。いずれも、基幹系システムが動く日本IBM製メインフレームで稼働させた。

写真●武富士が加盟店に無償配付するクレジット決済用の無線端末

 NTTデータが運営する「CAFIS」をはじめ、国内外のクレジットカード与信・決済システムとの接続に必要なシステムは、日本ストラタステクノロジー製の無停止型サーバーに搭載した。このサーバーには、メインフレームにある決済用データベースのバックアップの役割も持たせる。毎月数回、基幹系システムをメンテナンスする間も、クレジット決済を実施できるようにした。

 既存資産を生かしたとはいえ、開発規模は35万ステップ(言語はPL/IとCOBOL)に及ぶ。新規開発に25万ステップ、基幹系システムの修整に10万ステップを費やした。

 大がかりな開発に加え、基幹系システムの機能をすべて再テストしたにもかかわらず、武富士はビジネス・モデル立案からわずか半年でシステム稼働にこぎ着けた。コーディングの期間は2カ月に過ぎなかった。

 馬場常務によれば、「新システムの開発費用は、一から開発した場合の10分の1程度」という。同社は具体的な金額を明かさなかったが、本誌の独自取材によれば30億円程度だった。一般に数百億円と言われるクレジットカード・システムの開発費用としては破格の“低額”開発である。システム開発プロジェクトの責任者を務めた高瀬逸穂情報システム部担当部長は、「短期開発に成功したことで、人件費を抑制できた。基幹系システムなど既存資産の利用を徹底したことに加え、加盟店に固有のカスタマイズなどの例外処理を原則として排除したことが奏功した」と説明する。

基幹系の経験者を中核に短期開発を実現

 武富士は、スケジュールが遅延したり、要件定義どおりの機能を実現できない、といったトラブルの可能性を一つずつ排除して、短期開発に取り組んだ。

 まず、同一人物に業務とシステムの設計を任せることで、両者の乖離を防いだ。業務とシステムの両面に精通した社員10人が、現行業務の変更をできるだけ少なくする、既存システムをできるだけ利用する、という2点を強く意識しながら設計を進めた。

 基幹系システムを新システムに生かす一方で、基幹系システムにはかなりの修整を加えることが必要だった。そのため、システム・インテグレータには、基幹系システムの開発を担当したCSKを指名。システム稼働後も武富士に常駐していたCSKの技術者約50人を中核に、プロジェクト・チームを結成した。

 武富士が投入した技術者は、ピーク時で300人に達した。武富士は、相互の依存度が強い複数のプログラム開発チームを20~50人規模の“群”としてまとめ、進ちょくを管理した。その結果、「一つの群で開発が遅れても、プロジェクト全体に及ぶ影響を最小限に抑えることができた」(高瀬担当部長)。

 テストは特に念入りに行った。前述した10人の設計担当者が、テストのシナリオ作りも実施。一方、営業経験者を中心に「業務試験チーム」を組織し、現場の業務とシステムの整合性を確認した。

広岡 延隆




 武富士は従来のクレジットカード事業の常識を打ち破る戦略を、ITを上手く利用して実現しています。このような新しいビジネス・モデルを創出するといった話は大好きなので、記者をやって良かったとしみじみ思いました。

 今回の取材で、もう一つ感動したことがあります。武富士が、既に世間ではあまり使われなくなっているけれども、社内にはノウハウがあるPL/Iという言語を使って、迅速・堅実にシステムを作りあげたことです。無闇に新しい技術に飛びつくのではなく、自分たちのもっとも得意な技術を大切にするという姿勢は新鮮でした。

 もっとも今回一番感動したのが武富士本社の1階にある、唐三彩などの数々の美術品だったことはナイショです。(広岡)