医薬品卸大手の福神は、ITを使った顧客サービスに積極的に取り組む。自社で開発した4種類のパッケージ・ソフトを、病院や調剤薬局に儲けを半ば度外視して提供し、顧客の囲い込みを図る。手厚い導入支援やサポートの過程で収集した顧客のニーズを素早くパッケージに反映させ、使い勝手や機能を高める。社内業務の効率化にもITをフル活用する。

 首都圏に住む人なら車体に「F」の文字をデザインした白い営業車を一度は目にしたことがあるだろう。医薬品卸業界第3位、福神の営業車だ。約300の医薬品メーカーから仕入れた1万5000品目を超える医薬品を病院や調剤薬局に卸売りするため走り回っている。

 この福神は意外な一面を持つ。医薬品の在庫管理用や薬剤師向けの処方支援用のパッケージ・ソフトを開発・販売する“ITベンダー”としての顔である。新薬などの情報をインターネットを介して病院や調剤薬局に提供するサービスも営んでいる。

 もちろん福神の本業は医薬品卸。「IT関連の事業で儲けようとしているわけではない」と総合企画部長を務める増永孝一執行役員は断言する。「パッケージ・ソフトは開発にかかった費用の回収ができるギリギリの価格で提供している。インターネットによる情報提供も無料だ」。

 それではなぜ同社は畑違いのIT関連事業に取り組むのか。それはパッケージ・ソフトや情報提供を通じて顧客とのパイプを太くするためだ(図1[拡大表示])。その証拠に福神は開発したパッケージ・ソフトを自社から医薬品を購入している顧客にだけ販売している。インターネットによる情報提供も自社の顧客だけを対象にする。つまり福神にとって、パッケージ・ソフトや情報提供は顧客向けサービスの一環なのである。

図1●福神はITを使った顧客支援サービスを通じて医薬品の販売拡大を狙う

 福神がITを使った顧客サービスに力を入れる背景には、医薬品卸業界の競争激化がある。他業界よりは恵まれているものの、長期的な薬価(医薬品の公定価格)の引き下げ傾向もあり、医薬品卸業界を取り巻く環境は決して良好ではない。

 吸収・合併によってスケール・メリットを追求する動きも急だ。売上高で福神を上回るクラヤ三星堂(業界1位)とスズケン(同2位)の2社はいずれも、ここ2年以内の合併で誕生した企業である。売上高で上位2社の半分程度の福神が競争を勝ち抜くのは簡単ではない。

 そこで福神は、ITによる顧客の囲い込みにいっそう力を入れ始めた。競合他社に先駆けて1988年から始めたパッケージ・ソフトは、今では4製品をそろえるまでになった。インターネットによる情報提供に乗り出すのも早かった。インターネットが今ほど一般的ではなかった97年に開始している。

機能や使い勝手で他社をリード

 こうした福神の動きを他社が見過ごすわけはない。最近は競合他社も同様のパッケージ・ソフト開発やインターネットによる情報提供といった、ITを使った顧客サービスを手がけている。

 だが、福神は他社の動きをほとんど気にしていない。同社で一連のサービス提供を担当する「FCSセンター」の佐藤公博部長は「自社のサービス内容には絶対の自信を持っている」と力強く語る。「同じようなパッケージでも、当社製品は使い勝手や新機能の実装スピードで他社製品を大きくリードする」と自負する。

 その例として佐藤部長は、医薬品の在庫を管理するパッケージ・ソフト「FINE Justock」を挙げる。「他社製品が単に在庫数だけしか管理できないのに対して、当社製品は個々の医薬品の有効期限まで管理できる」と胸を張る。これによりユーザーである病院や調剤薬局は、有効期限を考慮した在庫管理ができ、不良在庫を減らせる。このほか、「棚卸資産評価方法や帳票の形式を複数用意するなど、ユーザーの不良在庫削減に役立つ工夫をしている」。

 顧客のニーズを製品に取り入れるスピードも福神の自慢の一つだ。医療機関における誤投薬が社会問題化すると、すぐに誤投薬防止用システムを開発した。今年10月から他社に先駆けて提供を始めている。

 福神のパッケージ・ソフトが使い勝手と新機能の実装スピードで競合他社の製品を大きくリードできるのは、製品の導入支援やサポートをすべて自社で実施しているからだ。つまり、導入支援やサポートの過程で得られた顧客の声をいち早く既存製品の改良や新製品の企画につなげ、競合他社をリードするのが福神の作戦である。他の医薬品卸のほとんどは、パッケージの導入支援やサポートを社外に委託している。

徹底した顧客訪問でニーズを汲み取る

 福神が実施しているパッケージ・ソフトの導入支援は、かなり徹底している。顧客がパッケージの操作を一通り覚えるまで導入支援を続ける。

 もちろんパッケージには操作方法を記したマニュアルが付属する。だが、「当社のパッケージ・ソフトはあくまでも本業の医薬品卸の付加サービスなので、マニュアルを読んでくださいでは通用しない」(佐藤部長)と福神は考えている。「本業ではない分、導入したお客様に必ず『便利』と思わせなければならない」と力説する。

 導入支援のために、福神は「インストラクター」と呼ぶ専任の説明員を10人も抱えている。インストラクターは顧客支援サービスを担当するFCSセンターの「CSSグループ」に所属する。

 インストラクターは顧客が自分一人でパッケージを使いこなせるようになるまで顧客を訪問する。パッケージごとに最低限覚えておくべき機能を列挙したチェックシートを用意している。顧客はインストラクターの説明を理解したら、該当する欄にマルをつける。

 福神のインストラクターは、チェックシートのすべての欄にマルが付くまで、訪問を続ける。「平均的なお客様の場合、一つのパッケージを導入なさると、2カ月間に10回前後はインストラクターが訪問することになる」(佐藤部長)。

 徹底的な導入支援には、顧客のニーズを引き出す狙いもある。インストラクターはパッケージの使い方を説明をしながら、機能や使い勝手に関する不満と要望をこまめに聞き出す。収集した情報は、データベースに入力し、既存パッケージの機能強化や新規パッケージの開発に役立てる。

矢口 竜太郎




 取材を通じて全く知らなかったことを勉強できることがあります。今回の取材はまさにそうでした。医薬品卸業界では、顧客向けにソフトを開発することが当たり前だったとは、ほとんどの読者の方もご存知なかったと思います。

 実は当初、福神には社内システムについて取材させていただこうと思っておりました。後半に書いた営業支援システムについてです。しかし、顧客向けのソフト開発の取り組みをお聞きして、「これは他業界の企業の情報システム部の方にもお役に立つ内容だ」と思い、こちらを主題にしました。(矢口)