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 「日本IBMはメーカーに回帰する。改めてハード技術にフォーカスする」。「ソフトやサービスにシフトする」と繰り返している国産メーカーの経営者が耳を疑うような発言を繰り出したのは,日本IBMの橋本孝之取締役BP&システム・PC製品事業担当。5月9日のメインフレームzSeriesおよびiSeries890などの発表の席上でのことである。

 橋本取締役は4月からサーバー,ストレージ,プリンタなどの製品事業も担当し,従来からのパソコン担当と併せて,日本IBMのOEM以外の全ハード事業を統括している。のみならず今年1月からはビジネス・パートナとの協業も担当している,日本IBMのキーパーソンの一人である。

 橋本取締役が「メーカーに回帰,ハード技術にフォーカスする」というのも,言い換えれば「IBMがハードやソフトの製品を“部品”としてパートナに提供し,パートナがサービスなどを付けて顧客にソリューションを提供するビジネスを強化したい」という,ごく普通の話。「日本IBMは直販の力でハード,ソフト,サービスをインテグレーションして顧客にソリューションを提供してきたが,国内のIT市場約14兆円の約10%を占める規模になった現在,パートナへの依存度を高めなければシェアの拡大は望めない」(橋本取締役)。

 とはいえ,橋本取締役の「メーカーに回帰」という発言の意味するところは,「パートナへの“部品”提供」というありきたりの話だけではなさそうだ。むしろ「IBMは92年以来リストラをしながらも,売り上げの5~6%を研究開発への投資に回し続けてきた。その結果としてここ数年で,明確に製品力で国産メーカーに差を付けられるようになった」という自信に,その根がありそうだ。「4つのサーバー・シリーズを維持して顧客の資産を継承しながら,eビジネスのような新たな用途にも利用できるようにしたのはIBMだけ,他社はプラットフォームの変更をせざるを得なかった」(橋本取締役)。

 さらに橋本取締役は,「ハードが性能だけで競争し,手作りのサービスと合わせて提供する時代は終わる。運用管理などサービスの領域だった部分を,ハードが吸収していく」とも言う。「現在のTCOの大部分は,ハード以外が占めている。ハードのコストは,パソコンではTCOの2割,メインフレームやUNIXサーバーのシステムでも4~5割に満たない。IBMはソフトやサービスの力を借りずに,ハードでできることはハードでやることで,TCOの削減を実現する」とまで言い切った。

 80年代前半からのオープン・システムの興隆以来,IT業界の重心はソフトやサービスにシフトしてきたが,最近ではそのソフトやサービスのコスト高を問題視するユーザーが増えているのも事実。「オープン」の名の下に垂れ流される画一的で退屈な製品や,戦略性の見えない手当たりしだいの提携の乱発が,IT業界の全体的な質の低下につながっている感もある。
 だが橋本取締役が言うように,ハード(や基本ソフト)の機能向上がサービスの領域から仕事を奪っていくとすれば,IT業界の淘汰は加速し,ますます寡占化していきそうだ。それはそれで,果たしてユーザーにとって望ましい将来像だろうか。

(千田 淳=日経コンピュータ)