富士通は6月17日、IT基盤の「TRIOLE(トリオーレ)」を発表した。肝は、ソフトやハードの最適な組み合わせである「テンプレート」だ。正式には、「プラットフォーム・インテグレーション・テンプレート(Piテンプレート)」と呼ぶ。

 Piテンプレートは、(1)ベーシック・テンプレート、(2)組み合わせテンプレートで構成する。(1)のベーシック・テンプレートは、Webシステムのフロント部分、アプリケーション部分、データベース部分など、システムの基本機能ごとに分割した“ひな型”だ。要件や性能に合わせて個別に用意する。

 (2)の組み合わせテンプレートは、その名称の通り、ベーシック・テンプレートを組み合わせたもの。Webシステムやコンテンツ検索システムなど、より業務アプリケーションに近い形態のひな型である。これもシステムの要件や形態に合わせて各種用意する。

 ベーシック・テンプレートは現時点で5個。将来的には数十個を用意する。これにより、「システム構築の商談の8割を、テンプレートを使って構築できるようにする」(伊東千秋 常務プラットフォームビジネス企画本部長)。SEはテンプレートを活用することで、固有部分の構築に専念できるようにする。

 テンプレートには自社製品の組み合わせのほか、他社製品やLinuxなどのオープンソース・ソフトも加えるという。「他社製品との組み合わせ検証も積極的に実施する」(同)。テンプレート自体を顧客に販売するわけではなく、富士通自身がシステム構築サービスの道具として使う。

 次期社長である黒川博昭 副社長はテンプレートを用意する狙いを、「システム構築の効率化と品質の向上」と説明する。「これまではオープン系システムを作るとき、『最善の選択である』とされた製品を個別に導入し、構築してきた。しかし、製品間の組み合わせの部分で、問題が生じてしまうケースがあった」(黒川副社長)。そこで、事前に個別製品の組み合わせを十分に検証し、推奨できる組み合わせをテンプレートという形で用意する。これにより、「品質の高いシステムを短期間で提供できる」(同)。

 製品の組み合わせを検証する社内組織として、「Piセンター」を設けた。Piセンターは200人の技術者を擁し、すでに他社製のものを含めた製品の組み合わせの検証や、テンプレートの作成を進めているという。三津濱元一 プラットフォームビジネス企画本部TRIOLE推進室長は、「自身でハードからソフトまでを作成している富士通の能力が検証に大いに生きる」と話す。日本IBMも同様の検証センターを設置している。

 テンプレートは、「過去1年間、200の顧客を分析してきた結果」(伊東常務)を基に抽出したという。今後も抽出作業は継続的に進める。「顧客に接している現場のSEも、富士通の大きな強み。1年間で1万件近い案件をこなしている。こうした案件情報を素早くフィードバックし、テンプレートを常に更新していく。この活動は、今後の富士通で重要な位置を占めていく」(黒川副社長)。

 この活動をスムーズに進めるために、SI(システム・インテグレーション)事業を手掛けるソフト・サービスビジネスグループの中に、ソフト・サービス商品企画本部を4月に設置した。この部署はSE部隊からのニーズを拾い上げ、テンプレートをはじめとしたソフトやハードの制作を担当するプラットフォームビジネスグループに伝達する。同時に、テンプレートの活用方法をSE部隊に伝える。

 長野佳久マーケティング本部長は、「トリオーレで、(システム構築とモノづくりという)二つのビジネスの強さを、一つの軸に乗せる」と宣言する。テンプレートは国内だけでなく、海外にも展開していくという。

富士通社内の求心力を復活させるきっかけに

 トリオーレという言葉は、音楽記号の三連符を意味する。初期のころは「サーバー、ストレージ、ネットワークの『三位一体』による総合的アプローチを図るプラットフォーム・コンセプト」、次には「ネットワーク、サーバー、ストレージ、ミドルウエアを有機的に結合するプラットフォーム・コンセプト」などと説明していた。しかし結局顧客にとってどんなメリットがあるのか、富士通の総合力をどう生かすのかという意味づけがあいまいだった。その上、時々で微妙に内容が変化したこともあり、顧客にも社内にも浸透していなかった。

 さらにここ最近は、IBMの「e-business on demand」に引きずられ、アプリケーション構築サービスを含めた富士通のサービス・コンセプトとして引き上げようとしていた兆候もあり、混乱し出していた。

 富士通はそれを止め、最適なソフトとハードの組み合わせであるテンプレートと、テンプレートを支えるソフトおよびハード全般であるとあらためて定義した。後者はともかくとして、テンプレートの内容やメリットは顧客にとって分かりやすい。ただし、トリオーレの語源から実態はだいぶ離れた。

 トリオーレの再定義は顧客だけでなく、社内に対しても意義があったと思われる。今回黒川副社長は、「トリオーレは、顧客、ソフト・サービスビジネス、プラットフォームビジネスという三つの要素を一つに束ねる軸である」と強調した。顧客に最適なシステムを提供するためには、SEとハード・ソフトの開発が密接に連携しないとならない。黒川副社長は顧客という視点から富士通の強みを再認識し、富士通のソフト・サービス事業とプラットフォーム事業それぞれの位置づけ、役割、連携の方向性をひとことで整理した。

 近年の業績低迷で富士通は各部門間で摩擦が生じ、求心力が失われてきていると言われている。今回の黒川副社長の一言は、求心力を復活させるきっかけになるとも思われる。

 黒川副社長は4月25日の新経営体制の発表後、幹部社員の前で「私は顧客を徹底的に訪問する」と宣言したことが、幹部の間でかなりの好感を持って受け取られているという。実際、本日の発表でも黒川副社長は、「4月25日以降、数多くのお客様に会ってきた」と話した。黒川副社長は顧客を起点にして、どのように富士通社内を束ねるかをひたすら考えている最中なのではないか。

高下 義弘=日経コンピュータ